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41話 救い

 焼け落ちた木々。荒野にはまだ火が残っている。

 ぼやけた視界を頼りに美雪を探す。

「どこだ? 美雪!」

 なんでこんなに必死なんだろう。

 仲が良かったわけでもない。同じ日本人だから?

 ……違う。クラスメイトだからだ。


 突然、背後から左肩に手を置かれる。

 俺は振り向き、構える。

「安心しろ。私だ。」

 レオパルドだった。

「そっちは崖しかないぞ。相当混乱してるようだな。」

「美雪は?」

「あの少女なら我ら、騎士団が保護した。王国向かってるだろう。」

 騎士団……保護?

 ……よかった。

 俺は気を失った。

 

 ――

 

 ここはどこだ?

 風を断つような音を耳にして俺は目を覚ました。

「随分と目覚めるのが早いな。」

 上を見る。レオパルドに小脇で抱えられていた。

「どのくらい寝ていたんですか?」

「ほんの数分だ。」

「そう…ですか。すいません。降ります。」

「いい。こっちの方が早い。みな、君を待っているぞ。」

「どういう意味ですか?」

「着けばわかるさ。」

 俺は首を傾げた。

「予言しよう。これから君は2つ、大きな選択を迫られるだろう。……ここからは私の私情になるのだが、自分の選択に後悔するな。それが最善なのだからな。」

 レオパルドはどこか遠くを見ていた。

 ただの予言じゃない。

 俺はそう直感した。

 

 ピース王国の城壁が見えてきた。

 レオパルドは俺を下ろすことなく門をくぐる。

 迷いなく進む。

 足を止めた場所は冒険者ギルド本部だった。

「覚悟はいいな。」レオパルドはそう呟き、ギルドに足を踏み入れた。

 医療室の扉を開け、俺を下ろす。

 同時に奥から女性の叫び声が病室に響き渡る。

「リカバリーチェーン」

 そう何度も唱える声。

 レオパルドの顔を見る。彼は俯いていた。

 嫌な予感が頭の片隅を過る。

 声の元へ走った。

 ベッドを囲む人影。

「退いてくれ!」

 数人の人を退け、目にした光景に息を呑んだ。

 腹に穴の空いた老婆が横たわっている。

 その上に渦巻く黄金の鎖が傷をなぞる。

 何も起こらない。

「なんで? なんでよ……。ニケさん。」

 そう言い、ニケさんの手を握る女性。

 俺はベッドのそばで伏すエルを見る。

「ニケさん。大好きなお孫さんが悲しんでるよ。私も貴方が死んじゃあ……嫌だよ。」

 治療する女がそう言う。

 沈黙が続く。

 突如、宙に浮いた鎖が消えた。

「魔力…切れ?」

 女がそう呟いた瞬間、怪我から溢れ出る血液。

 一瞬にしてベッドのシーツが赤く染まった。

 女は膝から崩れ落ちた。

 耳を塞ぎたくなるような声が病室中に響き渡る。

 エルは動かない。

 周囲に群がる、豪奢な服の連中が、ニヤリと笑う。

 なに…笑ってんだ? こいつら。

 ……都合がいいのか? この人が死ぬのは。

 やってやるよ。

 俺はベッドに近づいた。

「レンくん?」

 そばにいた茂が声をかけてきたが聞こえないふりをする。

 感じろ、あの時のこと。魔力を身体のように感じたあの感覚を。

 俺はニケさんに手を伸ばした。

 手のひらに魔力。

 イメージしろ。

 身体の延長のように。

 瞬間――魔力が自身の身体を覆った。

 できた。

 なら。

 この魔力はこの人の血肉だ。

 魔力はニケさんの傷に流れ込む。

 やがて、肉となり、傷を埋める。

 できた。魔力は何にも成れる。

「そ、それは……。」

「魔力体!」

 貴族の一人がそう声を上げた。

 なんだ? 貴族共が距離を取る。

 魔力体? これはそんな名前なのか?

「おのれ! 魔王の配下め。今ここで死ぬがいい。」

 声を上げた貴族が魔法を使い襲いかかる。

 くそっ。狭い、剣? いや、ハンマーか? 殴られる。

「人律のじんりつのはばき

 優しくも怒りの籠もった声が病室に響き渡る。

「動くな。」

 瞬間、貴族の動きが止まる。

 うっすらと見える鎖のようなものが宙を舞い貴族の身体を縛っているのが見えた。

「その子を悪く言うのは許さないよ。危害を加えるなんて以ての外。あなたたち、早く出ていってくれないかな?」

 女がそう言うと貴族は鼻で笑い言った。

「何を言うのですか? 鈴さん。見たでしょう? こいつは邪だ。」

「魔王海斗は魔力で神経を動かしてる。この子は違う。無関係よ。」

「ですが……。」

「これ以上! 何か言うなら容赦はしない。」

「私たちは貴族ですよ? 何か出来るんですか?」

「えぇ。ゴールドランクとしてあなたを黙らせることより簡単なものはありません。」

「なら、やって……。」

 鈴と呼ばれた女性は貴族を鎖で縛った。

 グッ!

 堪えるように貴族は鈴に話す。

「やめた方がいい。あなた、自分の立場を……。」

 話を遮り、更に鎖をきつく締める。

 悲鳴が耳を刺す。

「ニケさんを助けようとしてくれた人が嫌な想いをするなら立場なんてどうでもいい。」

 吐き捨てるように言うと鈴は俺に近づいてきた。

「ごめんね。どこまでも迷惑かけちゃって……。始めましてだね。私は金子鈴、日本人だよ。よろしくね、レンくん。」

「よろしくお願いします……。」

 俺は一言そう返した。

 ……疲れた。多分、気を抜けば、意識が飛ぶ。

 ……でも、俺は、まだやることがあるんだ。

「それでなんだけど……。ごめんね、一先おやすみ。」

 鈴はそう言い頭に手を伸ばしてきた。

「やめろ!」

 俺は地面を蹴り距離を取る。

「ごめん。びっくりさせちゃったよね。危害を加えるつもりじゃなかったの。」

「違う! 今、俺を眠らせようとしたな。やめてくれ。まだやることがあるんだ。」

「駄目だよ。あなた、魂の光が弱い……。これ以上動くと危険だよ。」

 鈴の声が左耳から右耳へ抜けていく。

 美雪の無事を確認しなきゃ、俺は寝れない……。

 ここ何処だ? ……もう、何も見えない。

 突然、正面から強い衝撃が走る。

 なんだ。もしかして倒れたのか? いやだ。まだ……。

「駄目だよ。レン。寝てよ。俺、もう…何も失いたくないよ……。」

 ……エル、の声? 耳元から聞こえる。

 

 あぁ、そうか。俺はまだ倒れてない。

 人の温もり、なんだかすごく安心する。

「大丈夫。もう、一人じゃない。」

 ふと、父の言葉が漏れた。

 全身から力が抜けるのを感じる。

 俺は静かに重い瞼を閉じた。

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