34話 少年と大男
「起きたか?」
俺は仄暗い小さな部屋で意識を取り戻した。手足は黒い縄で縛られている。耳に届く野太い声、こいつはおばあちゃんを襲った大男だ。
俺は問いかけた。
「おばあちゃんはどこだ?」
大男は笑い、忠告をする。
「拘束されてる身で強気に出るのはやめた方が良い。人質がいるなら尚更だ。安心しろ、あんたの婆さんは無事だ。用件が終わればすぐに解放してやるさ。」
「用件?」
「態度は変わらねぇな……まあいい。だが、俺以外に同じ態度を取ったら死ぬと思え。用件は簡単だ。あんたの婆さんの魔法を使わせてもらう、それだけだ。」
話を聞いた俺はそれを拒む。
昔の記憶。10歳を少し過ぎた頃の記憶だった――『国の人や悪い人が、おばあちゃんの魔法を利用しに来るだろう。守ってやれ』。小さな自分に、実の母を託す男の言葉だった。その言葉は、呪いとなって縛っていた。だが、それは力となる。
――息は荒く、鼓動が早くなる。
俺は必ずおばあちゃんを守る。
『熱』が生まれ、全身に巡る。
溢れ出す『自信』と『確信』。
理由はない。それでも、間違っているとは思えない。
負ける気がしない。黒い縄を破り、床を蹴る。
一直線に、大男へ向かう。
だが、何をされたのか分からない。視界が揺れる。
次の瞬間、床に叩き伏せられていた。
ドアの奥から慌ただしい足音が響く。背の低いショートボブの少女が駆け込み、息を切らしながら叫ぶ。「何事!?」
彼女の視線はすぐに大男に向けられ、眉をひそめる。
「起きたなら報告しなさいよ。縄を破壊したの、あんたでしょ? 勘違いするからやめて!」
「悪かった。面倒だから壊しちまったんだ。」
大男は頭を掻きながらそう言った。
「こいつも起きたし、早速始めようぜ。」
少女は小さく頷きながら答えた。
「そうね。」
少女は魔法で黒い縄を生成し、俺を縛ろうとした。
「やめてやれ。こいつは大人しい。縛らなくても大丈夫だ。」
大男がそう言った。
「暴れたから押さえてたんでしょ?」
「ただの遊びだよ。」
少女は呆れる。
「……また嘘ついた。」
大男は部屋を出ていく。少女は俺を一度蹴りつけ、そのまま背後に回る。俺は二人に挟まれたまま居間へ連れられる。
中央に大きなテーブル。
大男はそこに腰を下ろした。
暖炉の炎が揺れる。男の影が、壁や天井に大きく歪む。
男は俺に視線を向ける。背後からは少女の冷たく刺すような視線を感じる。
「強引に連れ去ったのは悪かった。だが、抵抗さえしなければ、俺らはあんたや婆さんに危害を加えるつもりはない。」
俺は息を呑んだ。
「魔法を俺らのために使ってくれるってんなら何もせずに返してやる。」
大男の提案を聞いて迷うことなく答える。
「おばあちゃんに魔法を使わせることはできない。」
「どうしてだ?」
その返答に違和感を覚える。
「わからない……。」
どうしておばあちゃんに魔法を使わせてはいけないのか――その疑問が、頭の中で渦巻いた。
「あんたのばあさん、認知症だってな。これだけ聞かせてくれねぇか。魔法は使い物になるのか?」
「おばあちゃんがどんな魔法を使うかすら知らない。」
大男は大きく目を見開く。
「マジか。じゃあ教えてやるよ。ばあさんの魔法を」
その瞬間、外から重い衝撃音が響いた。
大男の視線がわずかに揺れ、少女は即座に構える。
誰も動かない。だが、次に何かが来る。そう直感した。




