30話 カラスの魔物
冒険者のインターンが始まって二ヶ月。
三ヶ月で依頼百件という課題はすでに達成していた。
残りの一ヶ月は自由時間だった。
しかしレンたちは依頼を受け続け、人助けをしていた。
あれから茂には会っていない。彼らの記憶から、あの日の出来事は少しずつ薄れていた。
「おはよー。レン、起きて。」
杏が扉を叩きドアノブをひねる。
そこにはベッドの上で眠るレンの姿があった。
「もう。まだ寝てる。」
杏は慣れたようにベッドに駆け寄り体を揺らし声をかける。
「レン、起きて。」
その声はあまりに優しく、人を起こすような声ではない。
「待ってくれ、親父……。」
レンは寝言を言った。
「パパ……。」
杏はそう言い、レンを揺する手を止める。
「どんな人なんだろう。」
杏がそう言うと背後から突然声がする。
「なあ、もう二ヶ月だろ? そろそろレンを起こせるようになれよ。」
杏が振り返ると、そこにはルークの姿があった。
「そんなんじゃ、彼女になんかやれやしないぞ。こいつは朝弱いんだから。」
杏は顔を赤く染める。
「べ、別にそんなんじゃないし!」
ルークは笑う。
「そうか。そういうことにしておいてやるよ。ほら、レン起きろ!」
そう言いルークは声を張る。
しかし、レンは目を覚まさない。
ルークはため息を吐くと、レンに飛びかかった。
宿屋に悲鳴が響き渡った。
――――
「ほら、早く行くぞ。」
ルークはそう言いレンの手を引く。
「眠い。」
レンは言う。
「頑張って、レン。この朝少しを頑張れば元気出るんだから。」
杏は言った。
「それができるなら苦労はしませんよ。お嬢様。」
お嬢様――その言葉に少し顔を赤らめ、杏は続ける。
「今日もニケおばさんの介護をして、それからエルと遊ぶの?」
「いつも通りだな。」
ルークは言った。
レンたちの依頼は、とあるおばあちゃんの介護だった。
家に着くと、玄関をノックする。しかし、反応がない。ルークが不思議に思いドアノブに手をかけたとき、どこかで大きな音が鳴り響く。
さっきまで寝ぼけていたレンは音の方へ視線を送る。
「ルーク、家の中を確認してくれ。俺は音の正体を探る。」
「分かった。でも気をつけろよ。王国の中だからと言って油断はするな。」
「分かってる。」
そう言いレンは魔力を爆発させるように放ち、上空へ飛び上がった。
レンは遠くから煙が立っていることを確認する。
外壁に近い住宅街だった。
レンは屋根に着地すると走り出す。
風を切る音。次々と変わる街並み。
レンはすぐに煙の正体にたどり着く。
「なんだよ……。これ。」
黒い……カラス? デカい……。4、いや5メートルはあるか?
黒い羽。巨大な嘴。
それはカラスに似た魔物だった。
人を食っている。ここの住民か。
……いや、まずは動け!
魔物は二足で立ち、両手に人を握っていた。
片手の人間はすでに食われていた。だが、もう片方の手に握られた人は生きていた。
レンは魔物と距離を詰めた。
これで、どうだ!
レンは全力で魔物を殴る。
しかし、魔物は気づきすらしない。
痛ぇ。拳のほうがやられた。
レンは即座に距離をとり、魔力を一点に集める。
「魔弾!!」
魔力の込められた塊は速度を緩めることなく前へ飛んでいく。
それは巨体にぶつかる。しかし、魔物の体はびくともしなかった。
魔物は大きな目でレンを捉えた。




