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29話 少女の盗み聞き
茂さんの言葉の余韻が、まだ場に残っていた。
インターンの説明が終わり、担当の冒険者は部屋をあとにする。
「とりあえず、用意された部屋に行くか。」
ルークはそう言い、彼らは町を歩く。
「ねぇ、レン。屋台で何か食べない?」
杏はそう言う。
「もう、昼か。そうしようか。」
レンはいつも通り笑っていた。その笑顔は、あまりにも自然すぎた。
杏はその笑顔を見て、胸の奥がざわついた。
「うん……。串焼きとか食べたいね。みんなの分も買ってくるよ。」
杏も合わせるようにいつも通りに振る舞った。
串焼きを買い、しばらく街を歩く。
やがて今日の宿が見えてきた。
「着いたな。」
肉を頬張り、ルークは言った。
レンは自室に着くとベッドに腰を下ろす。
「魔王……海斗。」
レンは小さく呟いた。
「お前は……なんなんだ。」
扉は半開きだった。その外に、人影が一つ。
その影は気づかれないように、その場を離れた。
「魔王、海斗?」
自室で、少女はさっきの言葉を思い返していた。
「故郷の仇……。」
少女――杏は言った。
しかし、すぐに顔を横に振る。
「駄目だ。私は仇なんて取らない。絶対家族は生きてるんだから。仇なんていないんだから……。」
杏は串に刺さった最後の肉を口に放り込んだ。




