90話 突っかかる相手を選んでいるようだ。
僕らは教室に戻り、決まったことをクラスメイトに伝える。
「話し合いなんだけどね、個人をやり玉に挙げて責めるんじゃなくって、クラス単位の問題にしたほうが良いと思うんだよ」
「と、言いますと。例の生徒がイグナーツ様に案を取られたというところはぼやかした方が良いんですか?」
クラス委員の質問に僕は頷く。
「うん。ぼやかしたいのは、『イジーに案を取られた』ってところ。名前を出すのはさすがに良くないんだよ」
ナル・カメールのことはどうでもいいんだよ。
僕が気にしてるのは、この話が大きく広がって、イジーの名前が前面に出されることなんだよ。
いいことならともかく、こういった眉をひそめてしまうような良くない話は、イジーの印象や評判を悪くすることになる。
僕は、それを避けたい。
だってイジーは国王陛下になる人物なんだからね。
国王となったときに、社交界で『今の国王陛下は学生の時に~』って、そういう嘲笑の話題にさせたくないんだ。
正直ナル・カメールはともかくとしてイジーの名前を出すと、『王族だから守られるんだろう?』みたいな意見が出たり、『相手が王族だから圧をかけられた』とか、そーいう難癖をつけかねられない。
だからここは、イジーの名前を出さない方向で、あくまで、ナル・カメールが「領地経営科の出し物は自分の案だった」と、勝手に言ってるという雰囲気にさせたい。
「そう、ですね。このようなことでイグナーツ様が怒ることはないと思われますが、他の方が黙っていないと言いますか……」
クラス委員は、不用意に王族であるイジーの名を出して、不敬罪が適用されることを、僕が避けていると勘違いしたようだ。
まぁ、不敬罪。付けれるもんなら付けたいんだけど、でも『不敬罪』って軽々しく持ち出していいものじゃないんだよ。
王族の威信を傷つけたり、過剰に貶めるような行動をとってたなら、不敬罪が適用されて当然なのはわかってるんだよ。
だけどね、こういった学園内で、意見のぶつかり合いみたいなことがあったときに、相手が王族だからって、「王子殿下にそんなことして不敬!!」って片っ端から言うのは、違うんだよなぁ。
だってさぁ、ほら、まだ僕がフワフワして、今の僕になってなかった頃。
バカ王子になるように、国王陛下の元側近たちが誘導して、僕を過剰に持ち上げてたあれ。
発言的には僕のことを異様に持ち上げてたけどさ、その裏を返せば、そこには悪意があったわけだよ。
嫌なことはしなくていいよ。面倒なことは他に押し付ければいいよ。だって未来の国王なんだから、何やっても許されるんだよ。
これってさ、我が儘で傲慢な人格にしようって悪意ある誘導で、王族に対して何やってんだって案件ではあるんだけど、やってた人たちの発言には、僕を貶める言葉はなかった。
王族に対して不敬な意思はあったけど、言動には出してなかったから、不敬罪は適用しなかった。
僕もあの件に関しては、不敬罪はいらんかなーとは思ったし。
ただねー、問題が一つあって、ナル・カメールの行動において、たーまに語気強めに「相手に好き放題させてたら、王族として舐められてることになるから、そのうち誰もついていかなくなる」とか、「そんな舐められてる王族が統治してる国なんて、すぐに滅ぶ」とか、好き放題言ってくる輩もいるんだよなぁ。
でさ、実際この程度で、『不敬罪』を使うとするじゃん?
したらしたで、「このぐらいのこと不敬罪とか。器ちっさ」って嘲笑されるわけだよ。
僕はさ、王族はくだらない些事にいちいち反応する必要はないって思想だから、この学園生活内で起きる揉め事に『不敬罪』は、あんまり持ち出したくないんだ。
もちろん、あからさまに喧嘩を売ってくるようなことをされたら、そりゃもう高値で買い取って、損害賠償請求するけどね。
とりあえずクラス委員と実行委員は、他のクラスメイトを交えて、どういう風に話を持っていくかという相談をし始める。
僕とイジーはなるべく口を出さずに、みんなの様子を見ているんだけど、隣にいたイジーが小さくため息を吐いた。
「イジー、気にしちゃダメだよ」
僕の言葉にイジーは顔を上げる。
「国王になったら、こんな感じの謂れのないやっかみは、いっぱい出てくるからね」
「……俺が、気が付かないうちに、何かしてしまったのではないでしょうか?」
イジーは、ナル・カメールのことは覚えてないし、何かをした心当たりがなさすぎるから、気が付かないうちに何かしてしまったのではと思ったみたいだけど、そもそもこの学園に入学してから、接触させてないんだから、イジーとナル・カメールの間に何かなんて起きるはずもない。
過保護だけど、このことはイジーにネタバレするつもりはない。
いつか自分で気が付いてくれればいいよ。
仕方がない。ここは誤魔化してしまおう。
「人ってさ、些細なことで、勝手に誰かを妬んだり、羨んだりするんだよ」
「些細なことで?」
「うん。とってもくだらなかったり、どうしようもないことだったりね。例えば、イジーの黄金の髪が奇麗で羨ましい、とかね?」
「……俺は、兄上の髪の色の方が奇麗だと思います」
「そーいうこと。自分が持ってない物を持ってるから羨ましいんだよ」
とはいっても、ナル・カメールの場合は、そんな理由じゃなくって、自分が王子であるっていう思い込みが発端だ。
同じ王子でも、自分は認知されず神殿に送られたのに対して、イジーは王子殿下として、恵まれた環境にいる。ってね。
そもそもおめー、魔力検査で国王陛下の子供じゃないって、結果が出てんだろーって話よ。
王子殿下はイジーだけじゃなくって、僕もなんだが?
僕のことはガン無視で、イジーを標的にしてるのが、狡いっていうかさぁ。
突っかかる相手を見てるような気がするんだよ。
まぁ、明日。その辺のところが判明するかな?





