91話 領地経営科と文官科の話し合い そのいち
翌日、文官科との話し合いをシュタム会の執務室を借りて行うことになった。
話し合いの席に出席するメンバーは、領地経営科は僕とイジー、クラス委員と実行委員。文官科は言い出しっぺであるナル・カメールとお友達? それから文官科のクラス委員と実行委員だ。
ナル・カメールのお友達と思わしき人物は、以前雑貨街でジュスティスと一緒に居た、黄色みの強い金髪の男子生徒。
ジュスティスに何か言われて、ナル・カメールのお目付け役をさせられてるのかな?
ジュスティスと一緒に居た時と、微妙に雰囲気が違うんだよなぁ。
どう表現したらいいのかな?
ジュスティスと一緒に居た時はさ、もっとこう、文官科の生徒ってよりも騎士科の生徒っぽい快活なイメージがあったんだけど、こうして僕らの目の前にいる彼は、大人しめの文学青年っぽいイメージ。
容姿は変わらないのに、雰囲気がまったく違う。
猫でも被ってるのかな?
で、早速話し合いを始めることになった。
「大まかな経緯を説明させていただきます」
そう切り出したのは領地経営科の実行委員だ。
「学園祭の準備期間に突入してから、上学部学舎内で私たち四年の領地経営科にとって不名誉な話が出始めました。それは現在進行形で広まっています」
実行委員はきつい視線をナル・カメールに向ける。
「わたくしたち四年の領地経営科の出し物が、文官科の生徒が考えた案で、それを四年の領地経営科が盗んだというものです。お心当たりございますよね?」
この件に関して、一番腹を立てているのは、実行委員なのではと、僕は思う。
昨日、シュタム会に来た時も、『誤解では?』と言ったジュスティスに対して、思いっきり睨みつけてたし。
「確認をしておきたいのですが、貴方はわたくしども四年の領地経営科の出し物が、自分の案であると発言されましたか?」
「……」
ナル・カメールは俯いて、ぼそぼそと喋る。
「僕は、ただ……」
なにこの、自分は被害者ですみたいな態度は。
あと、「ただ……」で言葉を止めるな! 最後まで話せや!!
その先の言葉を声に出さないナル・カメールに、上手いことやるなと、少しばかり感心してしまう。
決定的なことを声に出さないのは、曖昧にぼやかせるからね。上手いやり方だよ。
だけど実行委員はそうは考えられないようで、曖昧に言葉を濁すナル・カメールに対して苛立ちを露わにする。
「どちらなのでしょうか? 『はい』か『いいえ』でお答えください」
曖昧にして逃げられると思うなよと言わんばかりだな。
領地経営科にいる子だからね。
女子だけど、オティーリエと同じく跡取りだから、未来の貴族当主としての矜持がある。
ナル・カメールは、そこんところがわかってないよね。
そりゃぁ、領地経営科にいる生徒の中には、当主に向いてない奴だっているよ? 自分が楽になる方法ばっかり考えて、人の考えをかすめ取って自分が考えましたーってやる奴もいるけれどさ、そんな奴らばかりじゃないよ。
当主として育てられてるんだから、人の案を自分の物にすることが屈辱と考える人だっているんだ。
だってそれは、自分はそれだけ能無しですって宣言しているようなものなんだから。
未来の貴族当主としてだけではなくって、自身の自尊心の問題なんだよね。
領地経営科の実行委員は、女子だっていう点を抜きにしても、その傾向が強い人物だと思う。
領地経営科を貶める嘘を噂として垂れ流したナル・カメールに対して、何がなんでも問い詰めてやるって気迫が凄いね。
「そ、れは……」
一方ナル・カメールはというと、事が大きくなったことに怖気づいたのか、もごもごと口ごもって、なかなか返事をしない。
おめー、何の覚悟もなく、嘘を垂れ流したのかよ!!
ナル・カメールの返事がないことに、領地経営科の僕らと、文官科のクラス委員と実行委員は呆れた様子を見せる。
立会人であるシュタム会のメンバーだけが、気まずそうにしていた。
「本人が、答える気がないようなので、代わりに俺が答えます」
続く沈黙にしびれを切らしたのか、そう言ったのは、文官科のクラス委員だった。
「ヘルトリング伯爵令嬢の仰る通り、カメールが言っていたのは事実です。間違いありません」
その発言に、ナル・カメールとお友達らしき男子生徒が、ぎょっとした顔をする。
「同じく、僕もその件に関して同意します」
続いてそう言ったのは文官科の実行委員だった。
ナル・カメールの全面擁護はしないのか。
「カメールがそれを言い出したのは、学園祭の準備期間に入った初日からです。先に言っておきますが、準備期間に入る前の、出し物案の会議ですが、彼は何一つ発言をしませんでした」
「準備期間に入る前に、文官科は計二回、学園祭の出し物案の会議を行いました。一回目は案を募る会議、二回目は一回目で出てきた案の中からどれにするか選ぶ会議です」
文官科のクラス委員と実行委員が、交互に説明を始める。
「こちらがその時の議事録になります。一回目の会議の方は、出された候補とその出し物を提案した生徒の名前が書いてあります」
そう言って実行委員が議事録のノートを取り出す。
ノートを立会人のヴルツェルから僕らに回され、それをテーブルの上に広げる。
議事録は奇麗にまとめられていて、一回目は候補の出し物とそれを発言した人物の名前。二回目は候補に出てきたものをどうやって決めたかが書かれていた。
両方とも、ナル・カメールの名前は書かれていない。
「文官科は騎士科に協力してもらい、宝探しゲームに決まりました。二回目の会議の後、その日のうちにシュタム会に出し物の報告をしています」
で、さっき言った準備期間に入った初日に、ナル・カメールが、自分の案を盗まれたと言い出したわけか。
「……これ、一回目と二回目の会議の日付は間違ってませんよね?」
「はい」
「間違いありません」
領地経営科のクラス委員の問いかけに、文官科のクラス委員と実行委員が頷いて返事をする。
「僕らの来客参加型のなぞ解き劇は、文官科の一回目の会議が行われる前日に決まっています」
そう言ってクラス委員は隣にいる実行委員を促して、領地経営科の議事録をテーブルの上に広げた。





