88話 突撃、隣のシュタム会!
ネーベルが教えてくれた、ナル・カメールが『マーダーミステリー』の案をイジーに盗まれたという話は、翌々日から徐々にといった様子で、上学部で広まり始めていた。
その噂を他の生徒から聞いたクラスメイト達からも、どうなってるんだろうという議題が準備中にあがり、みんな不安そうな様子を見せる。
「でも今回の学園祭の催し物については、そもそもは、来場者に楽しんでもらいたいってことが発端でしたよね?」
「うんうん。そこから、じゃぁ来場者も参加できたらいいのにって話になったはず」
「そこで、アルベルト様が、来場者に探偵になって謎を解いてもらう『マーダーミステリー』の話をしてくれたんだよな?」
「クラス全体の意向に、アルベルト様がヒントを出してくれて決まったんだから、イグナーツ様の案というよりも、クラスの案だよな?」
文官科の案を領地経営科が盗んだという流れに、クラスメイトたちがプンプンとし始める。
「文官科に文句を言う?」
「いや、それじゃ駄目だよ。かえってその噂が本当だったんじゃないかって言ってくる者が出てくる」
「そうだね。もっと冷静に考えよう」
「じゃぁどうする? 言っておくけど噂を放置は無しよ。領地経営科の沽券にかかわるわ」
次期当主となるべき者たちの集まりだけあって、みんな怒りながらも冷静に問題にあたっていこうとしている。
ちらりと横にいるイジーを見ると、イジーは無表情ながらも申し訳なさそうな雰囲気だった。
それは、知らない間に、誰かの恨みを買うようなことをしてしまったのだろうかと見て取れる。
イジーの中で乳母の記憶は強烈に残っているものの、乳兄弟の記憶はほとんどないようだ。
だからイジーはいまだに、ナル・カメールが自分の乳兄弟であったことを思いだせない。
いや、忘れちゃった。
いいよ、イジー。そのままナル・カメールのことなんか忘れちゃいな。
君には異母兄の僕はいるけど、乳兄弟なんてものはいなかったんだ。
小さな頃からイジーの傍にいたのは、僕とネーベルとヒルトと、それからヘッダにリュディガーだけだよ。
羽虫のことなんか、いちいち覚えてなくていいよ。
しかもその羽虫は、微量の毒持ちだ。
さっさと殺虫剤をまいてしまいたいけど、巣がどこにあるかわからないから、もうしばらく待ってね。
羽虫が近づいてこないように、蚊帳をつって虫よけ薬をまいておこう。
大丈夫。
未来の国王陛下に毒を向ける奴は、僕が一人残らずちゃーんと始末してあげるよ。
イジーを玉座につかせるんだから、それぐらいのことはお安い御用だ。
「アルベルト様」
クラスメイトに呼ばれてハッと意識を戻す。
「ごめん、少し考え事してた」
「どうします? 文句ではなくクラス全体で、文官科に抗議という形を取ろうと思うのですが」
「そうだねぇ。それもいいんだけど、そこにワンクッション入れた方が良いと思う」
「ワンクッションですか?」
「この話。クラス委員と実行委員、それから僕とイジーで、シュタム会へ持っていこう」
こんな時のトラブル解決のために、学園自治会が存在してるんだからね。
それを利用せんでどうするんじゃって話よ。
こういったことはすぐ動くに限る。
そんなわけで、僕とイジー、クラス委員と実行委員の四人で、シュタム会の執務室へと突撃することにした。
シューレ先輩卒業しちゃったから、シュタム会に知り合い、いないんだよなー。
アポなし突撃だから、後日にしろって言われるのも想定済みだ。
まずは話を聞いてもらうために、シュタム会が使用している執務室へ訪ねる。
「ヴルツェルのどなたか、お時間ありましたら話を聞いていただきたいのですがいいですか?」
扉をノックして入室すると、そこには五年生のヴルツェルが二人に、数名のブラットがいて、その中に見知った顔が一人いた。
おや、まぁ。
「なんだ、ジュスティス。シュタム会に入っていたんだね」
ことさら無邪気な笑顔をジュスティスに向けてやる。
おめーよー。ほんとーに、こーいうことには目ざといよなー。
留学生なのに、生徒自治会のシュタム会に入るってさぁ、もうあれだよね? ラーヴェ王国の未来の貴族と繋がりを持つ気満々でしょ?
「これはこれは、リューゲン様」
ジュスティスは爽やかな笑顔を向けてくる。
「リューゲン様がシュタム会にいらっしゃるとは珍しいですね」
「普通に生活してたら、シュタム会の世話になることなんてないからね」
僕の返事に虚を衝かれたような顔をする。
なにその反応。
まるで僕が年がら年中シュタム会に世話になってるかのような……、いや、そうじゃないな。
もしかして、僕がシュタム会の役員だと思ってないか?
ちらりとヴルツェルの二人に視線を向けると、二人は僕とジュスティスの雰囲気にのまれていて口を挟んでくる様子がない。
おい……、おい! ヴルツェルなんだから、もっと仕切れよ!!
「えー、それでヴルツェルのお二方。どちらか一人でもいいんですが、話を聞いていただきたいんですがよろしいでしょうか?」
オロオロしてるヴルツェルに声をかけると、二人ともハッとして姿勢を正す。
「え……、あっ、はい。でしたら、あちらのスペースで話をお聞きします」
そう言って、執務室の端にある、応接用のソファーコーナーに案内される。
「あ、もしよろしければジュスティス様も一緒に……」
僕ら二人が顔を合わせた途端に、微妙な空気になったっていうのに、一緒に話を聞こうとか、よくそんな風に考えられるなぁ。
内心呆れていると、僕らの背後にある扉が開いて、そとで用事を済ませてきたであろうブラットの生徒が戻ってた。
「ブラウ・ヴルツェル。警備兵の方に見回りルートを……、あれ? アルベルト様だぁ。どうなさったんですか?」
僕らに気が付いた生徒は、パッと顔を輝かせて声をかける。
確か下学部の時に同じクラスで、文官科に進級したんだよね。
へー、シュタム会に入ってたんだ。
「久しぶり、リーネル」
「はい、お久しぶりです。お元気そうで何よりで……っと、何かありましたか?」
にこにこ笑って話しかけてくれるリーネルは、微妙な空気になっている執務室の空気に気が付いたようだ。
「なにか、問題でも起きましたか?」
リーネルは不思議そうに首を傾げ、訊ねてきた。





