87話 側近がもたらす有益な情報。
ネーベルに聖霊祭典じゃなくても手抜きをするなと言われてしまったけれど、かといって個人的な演目に誰かを巻き込むというのは、どうにも抵抗がある。
そんな僕に気が付いてくれたネーベルが、提案をしてくれた。
「笛、俺がやる」
「え?」
「聖霊祭典の件で演武の練習で神殿に行ってた時に、俺も少し神官様に笛を教わってたから。あと、ほらヴァッハに教わる」
「え?」
「あいつの家、ムズィーク神を祀ってるんだろ? 多少はそっちの知識があるはず」
ヴァッハかぁ……。
「どうかしたのか?」
「あんまり表立って会いたくないんだよね。ジュスティスの見張りをしてもらってるし」
「そもそもヴァッハはデコイだろ? あいつはヴァッハがアルに寝返ったって気づいてるだろうし、アルだってそこのところはバレても構わないって思ってるんだろう?」
「まぁね」
ジュスティスは寝返ったヴァッハのことを警戒してるけど、僕が最初から用意していた本命の見張りの存在には、いまだに気づいてない。
「ただ、ヴァッハと表立って接触すると、引き込んだのを隠してたんじゃないのかって、逆に怪しむんじゃないかと思ってね」
「……ないこともないか」
少し考えこんでネーベルは次の提案を出してきた。
「なら、俺だけ接触する。そっちの方が接触してるってバレても納得するんじゃないか?」
「うん……」
そっちのほうが自然かな?
「それから、近々イグナーツ様に対しての噂が流れると思う」
顔を上げてネーベルを見ると、ネーベルもまっすぐ僕を見つめている。
「詳しく」
「例のアレが動き出した」
例の……イジーの元乳兄弟か。
「なんて?」
「アルたちのクラスの出し物あるだろう? 『マーダーミステリー』だっけ? アレを先に考えたのは自分なのに、イグナーツ様に盗まれたって吹聴してるんだ」
そんなわけない。
そもそも、今回僕らのクラスは、当初劇をするつもりだったんだよ。
でも、講堂のスケジュールは、結構早目に押さえられていたし、なら教室でもいいんじゃないかという話になったんだ。
で、ただ教室で劇をするのはつまらないねって流れになったから、見に来てくれた来場者に探偵になって推理をしてもらう、マーダーミステリーはどうかな?と、僕が言ったのだ。
クラスのみんなにマーダーミステリーの説明をしたら、みんなが乗り気になって、そこから二部構成にしようとか、午前中と午後のシナリオは別にしようとか、そういった話が出てきて決まったという流れだ。
「俺たちのクラスは結構早くから、騎士科に協力してもらって、お宝探しゲームにしようって決まってたんだよ。で、何処にお宝を配置するかとか、どういうお宝にするかって会議をしてた時に、アルたちのクラスの出し物の話になって、領地経営科の出し物が『マーダーミステリー』っていうもので、提案したのが王子殿下らしいって話題になったんだ。そうしたら、ナル・カメールが、それを先に考えたのは自分だって言いだした」
なんだそれは。
「もちろん、クラス内でそれを真に受けるやつはいなかったから、そこは安心してくれ。そもそもそんな構成案があったなら、最初の出し物を決めるときに、どうしてその案を出さなかったんだって詰めた生徒もいたし」
「……」
「そうしたら、イグナーツ殿下に脅されたって……。アル、怖い顔になってる」
「なるに決まってる」
はらわたが煮えくり返る。
「誰もナル・カメールの言ったことは信じてないから、そんな顔すんな」
「信じてなくたって、イジーを貶めることを言われたら、ムカつくに決まってるよ」
自分が王子だって吹聴する程度なら、勝手にやれって放っておけるよ。
そんなの自分の首を絞めるだけだし、そもそも現状、イジーの乳兄弟は執行猶予がついてる状態にすぎないんだから。
人前で、自分が王族だなんて、言ってみろ。
身分詐称だけじゃなく、国家転覆罪が加えられるからな。
自滅狙いで放っておいたのがダメだったのかな。
けどなぁ、適当な罪状をつけるにしても、ちっちゃい理由で処したら、王族って心狭いとか言われるしな。
冤罪はなぁ、バレた時のリスクが大きすぎる。
「拉致って拷問かけてズシャァした方が後腐れなくっていいのかな」
「それがバレた時、批判がアルに向かうからやめとけって」
うちのアッテンテータがそんなヘマをするわけがない……って、これは油断か。
「それにナル・カメールは、ちゃんと撒き餌の機能を果たしてるぞ」
ネーベルは当初の作戦通りだと僕に告げる。
「前に……、三年の頃か。まだ『レオナルド・ソーニョ伯爵令息』を名乗ってた時に、雑貨街でアルがあいつの顔を確認したことがあっただろう?」
あー、三年に入ってちょっと経った頃だね。
「あの時、あいつの傍に二人男子生徒がいて、一人は文官科の生徒だって言ったよな?」
「うん」
「そいつが、ナル・カメールと一緒に行動してる」
ジュスティスと一緒に行動していた文官科の生徒は、ジュスティスの手駒だと思っていいだろう。
そいつがナル・カメールと一緒に行動してるってことは……。
「……自分の陣営に引き入れた?」
「俺の考えでは陣営に引き入れたというより、利用してるように見えるな」
元からナル・カメールが、ラーヴェ王家……いやこの場合はイジーにか? ともかく、イジーに対して対抗意識を持っていることは、隠していなかった。
自分の方がイジーよりも優秀だと言わんばかりの態度で、そのくせイジーの周辺をうろちょろしていたのだ。
下学部の頃は、イジーの傍には常にテオがいたから、近づきたくても近づくことはできなかっただろう。
上学部になってからも、専攻学科が違ううえに、さらに僕と一緒に行動することが多くなったから、なおのことイジーの傍で何かを仕掛けるということはできない状態だ。
できることと言ったら、含みのある態度で、イジーと確執があると周囲に匂わせることぐらいである。
こういった人物を僕が放置していることに対して、ジュスティスは何も疑わないのかな?
僕がジュスティスの立場なら、明かに罠だと思う。
顎に手を添えて考え込んでいる僕に、もう一つネーベルは発見した火種を教えてくれた。
「ついでに、アンジェリカ様の婚約者、パウル・フィッシャー。あれも、ナル・カメールと一緒に行動してるぞ」
次から次へと厄介事が集まってくる気がする。
いや、もうこの際だ。
イジーの周辺を飛び回るナル・カメールも、アンジェリカの家を食い荒らそうとしているパウル・フィッシャーも、まとめて掃除してやろう。





