86話 側近に言い聞かされた。
イジーが魔獣狩りをする僕の様子を初めて知って、それで驚いてたということがわかったので、僕もそれは心に留めておくことにする。
いつイジーからその話を切り出されてもいいように、心の準備をしておこう。
それよりも、僕としてはイジーがヘッダとどんな話をしたのか、気になるところ。
でも、僕からは聞き出すことはしないでおこう。
ものすごーく気にはなるけど、これはイジーの問題だし、頼られてもいないことに首を突っ込むのは違うしね。
そんなことがあって、学園祭の準備期間に突入した。
僕らはマーダーミステリーをすることになってるから、二つのシナリオをみんなで考え、配役も決めた。
今回僕は裏方で、シナリオが行われてる時に、黒子としてアイテムを来客者に渡したりする係になっている。
それというのも、アレだよ。
一昨年と去年やった奉納演武。
あれをやってくれって、また言われちゃったんだよ~!!
一昨年は講堂利用するクラスが少ないっていうんで、クラスの出し物としてやったから、まぁいいよ。
けど、去年は神殿の神官さんたちに頼まれてやることになって、その際、講堂使用の枠を特別に作ってもらったみたいなんだよ。
もー、これ講堂を使用するほかのクラスに、迷惑かけたんだよねぇ。
クラスメイトは去年のことを覚えてるから、今回のマーダーミステリーの演者から、僕を外してくれて、奉納演武の方に集中してくれと言われてる。
イジーも、王子であるからこそ花形は他の生徒に譲る状態だったんだけど、奉納演武でクラスの行事に貢献できない僕の分まで、表舞台に出ることになった。
ありがたい。
そんなわけで今回も、学園祭で奉納演武をすることになったけど、今回は講堂ではやらない。上学部の敷地内、学舎の中庭でやることにした。
だって、この奉納演武は夏の長期休暇で、王都の神殿で行われる聖霊祭典で一回やってるんだからね!!
ちゃんとした舞台を用意する必要なんかないよ!
一応、僕に加護をくれてるから、望まれれば披露するけど、人の手を煩わせる必要はない。
ローブと鈴は去年同様、一昨年みんなで作ったものを流用すればいい。
次に演奏なんだけど、去年は神官さんがやってくれた。
でも今回は無し。
演奏なくったって、やれるよ!!
「いや、演奏は必要だろう」
放課後居残りで奉納演武の練習をしている僕に、付き合ってくれているネーベルが冷静に返してきた。
「なんで?」
「……見に来る人が多いから」
「え?」
「一昨年、クラスで奉納演武やっただろう? あの時点で、すでに来場者からの評判があったんだ。理由は、王都での聖霊祭典を見れなかった地方の貴族が、学園祭でもアルの演武が見れたってことな。ここまではいいか?」
「うん」
「で、去年。シュッツ神道の神官たちに頼まれて、個人での演目ってことで、また奉納演武をやった。一昨年の学園祭にこれなかった保護者や、王都の聖霊祭典にこれなかった人たちが、学園祭でアルの奉納演武が見れるって色めき立ったからだ」
前にたしか、ヘッダが言ってたよね。
僕が演武をするから付加価値が付くんだって。
それで、それで、そう。イヴが、『特別扱いされるのが、嫌なんだね』って、言ってくれた。
僕は、王族がその神事を行うからって、それで見学者が増えるっていうのが、納得できないのだ。
だって奉納演武は、夏の聖霊祭典でやる催しの一つ。
どこの土地でも年に一回は聖霊祭典が行われるし、そこでは必ず、奉納演武は行われる。
「奉納演武は珍しいものではないはずだよ」
「まだ、納得してないみたいだな。よし、話を聞こうじゃないか」
こういう時、ネーベルはモヤモヤしてる僕に気付いて、話を聞いてくれる。
「去年もこの話した時にさ、ヘッダが、王子だから付加価値が付いてるって言ったよね」
「そうだな」
「そこが、モヤモヤ~ってするんだ」
僕の話を聞いて、ネーベルはう~んと小さく唸り声を上げる。
「確かにあのとき、アルは王子の自分が奉納演武をすることに、周囲が過剰に盛り上がるのはおかしいって言ってたな」
「うん、神事なんだから、誰が演武をしてもありがたがるモノなんじゃないかなって」
「まぁ、それはそうなんだけど、でもアルの奉納演武が盛り上がるのはさ、王子だからじゃなくって、ヴィント神の『愛し子』がやってるからなんだよ。やってるアルはわからないけど、見てる方からすると、加護持ちとか『愛し子』がするのと、神官や神子がするのは、神聖さが違う」
それは……考え付かなかった。
「今年ヒルトは、ギュヴィッヒ領にあるシュヴェル神の主神殿で、奉納演武をしたんだってさ」
「え?」
「去年はさ、俺たちがギュヴィッヒ領に訪問しただろう? んで、アルの『夜明』と『宵闇』に祝福をかけてもらうっていうのもあって、聖霊祭典の期間が終わった後にやったって言ってた」
「……聞いてない」
「まぁ、アルの反応を見てたら、言い出しにくかったんじゃないか」
うぐっと、喉がなる。
また失敗しちゃった。
ヒルトに、気を遣うなって言っても、無理だよねぇ。
落ち込む僕とは裏腹に、ネーベルは話を続ける
「アルの奉納演武は、そこにヴィント神がいるってちゃんと感じるんだよ。ヴィント神の姿は俺たちには見えないけど、アルの演武を見て喜んでるって、神官じゃなくてもわかる」
おじい様やおばあ様は褒めてくれたけど、それは身内のひいき目だと思ってた。
「みんながアルの奉納演武を見て、みんな感動するんだ。それは本当のことだし、疑ったりするなよ。アルの奉納演武に感動してる人に対して、失礼なことだからな」
「う、うん」
「アルが演奏はいらないって言うなら、無理強いはしないけど、でもシュッツ神道の神官さんは自分たちの神様を喜ばせてくれるアルに、協力したいって思うはずだ」
ネーベルの話を聞いて、僕の考えが独りよがりだったんだって気が付く。
「もちろんさ、アルが大袈裟にしたくないっていう気持ちだって、俺はわかる。いずれ王籍から抜けるんだから、そこまでしなくてもって思うんだろう? で、今はまだ王子殿下なんだ。だから、周囲の対応が他の人と違っていても、それは呑み込めよ」
ものすごくまっとうなネーベルのお説教に、僕はそれ以上何も言い返すことができなかった。





