84 異母弟の悩み
僕の話を聞いてテオはしかめっ面をする。
それはきっとイジーの立場とか、その立場ゆえの苦悩を見ているから、好き勝手に言ってくる相手に憤りを感じてるんだろう。
「まぁ、何も知らない奴は、そーいう嫌味を言ってくるよねって話」
国王陛下に続いて、イジーまで婚約解消しましたーってなったら、もう醜聞しか残らない。
ヘッダを推してる人はそれもあって、そう簡単に婚約者変更に、頷かないと思うんだよね。
「……イジーも、言われるか?」
「どうかなー。そもそも、イジーの婚約者ってまだ発表してないもん。この辺はヘッダの作戦勝ちだけど。でも、婚約者にヘッダを推してる大臣や貴族の説得には、骨が折れるよ」
けど、相手がヘッダだからなぁ。
ヘッダを推してる大臣とか貴族とか、そーいう人たちをぐうの音も出ないぐらいに詰めて、婚約者のすげ替えをやりそうなんだよねぇ。
あとイジーがその気になれば、ヘレーネを未来の王妃に仕立て上げるぞ。
「もう一つ、穏便に片をつける方法があるよ」
「いやな予感がする」
「テオが国王になる」
「嫌だ!」
ダメかぁ。
「だって王妃をヘッダにやらせるなら、国王を代えるしかないじゃん。そのかわり、前にも言ったけど、イジーの子供を王家に入れるのが条件だよ」
「もうすでに、本来王になるはずの第一王子を降ろしてんだから、第二王子を降ろすのは無理だって言ってんだよ。周囲が納得しねーだろ」
正当な王の血を引くイジーがいるのに、ヘッダを王妃に残したいから、傍系を王に据えるっていうのは、道理が通らない。
ましてやイジーに瑕疵がなければなおのこと、なんでイジーを降ろさなきゃいけないんだってなる。
結局のところ、こういうのは、かみ合わせなんだよね。
そりゃぁ、小さい頃からの付き合いがあるんだから、イジーとヘッダは他よりも仲はいいよ。
でもやっぱり結局は、友人止まりなんだよね。
あとは気心知れ過ぎてるから、姉弟とか同世代の親戚とか、そんな距離感になっちゃう。
「俺はマジで国王に向いてない!」
「そうかなぁ、案外テオは、上手いこと国王やれそうな気はするんだよね」
いざという時の決断力はあると思うし、変な方向に進む前に、ちゃんと立ち止まって考えられると思うし。
「常に剣を握って現場にいたいんだ。王になったらそんなのできねーじゃん」
言葉飾らずに言うならば、テオもイジーも政治より武力の方なんだよね。
二人とも、外に出て身体を動かすのが好きだから、室内で書類とにらめっこは、相当苦痛なんだと思う。
だけど、その苦手な書類も、やろうと思えばできるんだよ。
実際イジーはやってるし。
まぁ相当ストレスが溜まるのか、書類仕事が終わったら、テオに剣の相手してもらって、発散してるけど。
逆にテオはな……、イジーみたいに出されたものをまじめにやるって感じじゃなくって、自分が絶対にしなくちゃいけない必要なことだけ選んで、あとは他に割り振っちゃうんだよ。
そこに労力は使わないっていう断固たる意志を感じる。
本人は全くやる気ないけど、取捨選択ができる時点で、テオも国王に向いてると思う。
僕の視線に気が付いて、テオは身構える。
「何だよ」
「さっき、イジーとヘッダが結婚しても構わないって言ったけど」
「うん」
「二人に子供ができても、同じこと言える?」
「イヤなこと訊いてくるな」
そう言ってテオは顔をしかめた。
「逆に聞くけど、できると思ってんのかよ」
行為がってことかな?
世継ぎを作るのは、義務だからねぇ。
薬でも盛れば、できはすると思うけど、テオが言ってることはそうではなく、いわゆる精神的なこと。
「確実に、病むと思いますよ」
あっけらかんとした口調でそう言ったのは、ずっと黙って聞いていたクルトで、ネーベルはそこで口を挟むかと頭を抱えていた。
「イグナーツ様は、その手に関して、すごく潔癖ですよね」
よくわかってるじゃん。
「オティーリエ様ほどではなかったですけど、異性に対しても、嫌味にならない程度の壁がありますし」
そうだよ。イジーはオティーリエほどじゃないけど、特定のタイプの女性が苦手で、そのタイプは無意識的に避けてると思う。
理由はあるんだけどねぇ。
「ヘッダ様は、結婚する前にイグナーツ様の婚約者を降りるんじゃないですか? 万が一降りれなくて結婚をしても、子供は作らない方向で行くと思います」
それは僕も思ってるよ。
結婚するにあたって、必ず子供に関しての条件を出してくると思う。
ついでにイジーの子供を作る側妃を、ヘレーネにするってところまで、想像できちゃってるよ。
「ヘレーネは本当に、イジーのこと意識してると思う?」
「ヘッダとオリーからの又聞きだからな。絶対だって、今の俺には言えねーわ。そもそもヘレーネとはアルたちがいなきゃ、一緒に行動しねーし、そーいうはなしもしたことねーから」
急にまともなこと言い出すなぁ。
「イジーには発破かけてたじゃん」
「あの感じだと、イジーはちゃんとヘレーネのこと意識してただろ? だから言ったんだよ」
それは、そうなんだけど。
タイミングってもんが、あると思うんだよなー。
「ヘッダとちゃんと話し合った後に、悩んでるようだったらそれやっても良かったけど、一気にやっちゃうと、何処から手を付けていいか混乱するんじゃない?」
「そうかぁ?」
「そうだよ。あれからずーっと考えこんでる様子だったしさぁ」
でも、僕に相談してきてはくれないんだよねぇ。
お兄ちゃん、寂しいよー。
僕の発言に、なぜかテオとクルトとネーベルが顔を見合わせ、それから僕の顔を見て溜息をつく。
「僕、変なこと言った?」
「やっぱり気付いてない」
ネーベルの言葉に首をかしげる。
「なんのこと?」
えー、なになになに?
もしかして僕が原因? 僕イジーに何かしてたっけ?





