83 異母弟の婚約の話
僕はてっきり、ヘッダの中身を知ったら、テオは興味を失くすのかなぁって思ったけれど、そうじゃなかったのが意外だった。
あと、もっと独占欲っていうの?
そういうのをヘッダに持ってるんだろうなぁって思ってたんだけどなぁ。
でも、イジーとヘッダが、今日話し合ってるっていうことを知ってるのに、同行してなかったり、隠れて見に行ったりしないし。
普通はもっと、そういうの、気になるんじゃないかな?
不帰の樹海で魔獣狩りしたときに、『ヘッダが好きだ』宣言した時は、結構恋愛脳になってる感じがしたんだけど違うのかな?
僕が黙ってテオの顔を見てたら、それに気が付いたのか、怪訝な顔をしてくる。
「何だよ」
「テオって、好きな人に独占欲とか持たないのかな?って」
「あるよ。あるに決まってんじゃん」
ありゃ、そうなのか。
僕の様子で何を言いたいのか察したのか、テオは乱暴に髪をかきあげながら話し始めた。
「言っとくけど、不帰の樹海でイジーにあんな風に言ったのは、わざとだからな」
ヘレーネが好きなら諦めるなって言ったことかな?
あれは単純に、ヘッダと結ばれやすくなるために言ったのかと思ったんだけど、違うの?
疑いの視線を向けてる僕に気付いたのか、テオはムッとしながら答える。
「あれは別に俺がヘッダと堂々と付き合いたいからっていう、下心があったわけじゃねーよ。あーいう雰囲気にしておけば、イジーだって自分の感情に素直になりやすいじゃん」
「人によりけりだけど」
「いや、絶対そうだね。だってイジーの奴、なんか異様にヘッダに対して負い目を感じてるじゃねーか」
それはねぇ、仕方がないよねぇ。
イジーはヘッダとの付き合いが長いから、ヘッダの望んでいる将来が、未来の王妃殿下ではないってことぐらい、わかってるからだ。
無理やり将来を決められて、恋愛感情持てない自分の妻になるヘッダが気の毒だって思ってる。
「国王になる相手の伴侶なんだから、そりゃぁ、血筋だけじゃなくって、知力とかあと人を惹きつけるっていうの? そーいうのもなきゃダメだし。その点、ヘッダは全部において備わってるから、イジーの相手として選ばれんのは当然のことじゃん?」
「そうだね」
「オリーが公女じゃなくって公爵令嬢だったとしても、イジーの婚約者として選ばれるのはヘッダだと思ってる」
「オティーリエは、いろいろ覚悟が足りなかったからね」
アインホルン家の次男の件で、覚悟完了しちゃったけどね。
「俺はさ、このままイジーとヘッダが結婚しても、それはそれで仕方がねーと思うし、そのことについてグダグダ言ったりしねーよ」
「そうなの?」
「そうだよ。だってほかに居ねーだろ。まぁ、ヘレーネだってイジーの伴侶としては、申し分ないと思ってるぜ? でも周囲はヘッダへの期待値が高いじゃん。だから、現状のままなら、イジーの伴侶はヘッダしか居ねーっていうのもわかってる」
それはね、確かにそうなんだよね。
淑女としての所作だとか、そーいったことはオティーリエの方が上だけど、機転っていうのかな? あと世渡りっていうか、人との付き合い方っていうか、それはヘッダの方が長けてる。
「でもさ。さっきも言っただろ? ヘレーネだって、侯爵家の令嬢なんだから、王妃になる基盤ができてるわけじゃん。まぁ、学園に来るまでは外に出てこなかったわけだから、知名度は低いんだけど、でも“王妃になるのに不足”はないんだよ。単純に、ヘッダに劣ってるからって話な」
ちゃんとわかってるんじゃないか。
「この件においてはさ、たぶんイジーがちゃんと自分で意思表示をすれば、手が届く話なんだよ」
「でもイジーが手を伸ばした先にいる人の意思も、必要だと思うよ?」
ついでに、国議に出てる人たちの見え方とかさ。
「ヘッダやオリーから話を聞く限り、まんざらでもねーみたいなんだよな」
なんですとー?!
「ねぇ、いつ、そんなこと聞いたの?」
「夏の休暇あけて、学園に戻ってきてすぐ」
テオはこういう時はすぐ動くんだよなぁ。
しかも僕が気付かないうちにやってるし。
「堅物であんま女子に興味を示さないイジーが、あんなこと言うって、マジであり得ねーよ。異性としてヘレーネのこと意識してるって段階じゃなくって、もう、ちゃんと好きなんだ」
恋は、してるんだろうなぁって、思うよ。
今まであの二人のやり取りとか、学園に戻ってからのイジーを見ると、なんか常にヘレーネのこと目に追ってるし。
「イジーは自分の立場を理解してるから、いろいろ自制してるっていうのは、俺だってちゃんとわかってる。俺たちともさ、必ずグループで動くし、あの中の女子と二人っきりになったりしないだろ? ヘッダは婚約者だから、人目がないところで会うけど、必ずリュディガーとそれからヘッダの方の従者が傍にいるしさ」
「そうだね」
「だからって、好きになった相手のことで、イジーが我慢するのも違うだろ」
「我慢っていうか、制限がかけられてるイジーに、一つぐらい自分の希望を叶えてもらいたいって、僕だって思ってるよ。でもね、こういうことを言うと、次は必ず『さすがは国王陛下のお子ですね』って、嫌味を言ってくる人間がいるんだ」
つまりはアレだよ、母上との婚約を破談にしたことを弄ってるんだよ。
国王陛下のあれは、周囲に何の相談もしないで、勝手に突っ走ったところが問題なんだけどさ。
その見られ方をされるってことは、テオだってわかってたはずだ。
「そんなの、個人の話だろ」
「そーだよぉ? 制限を掛けられてるイジーに、好きになった相手と結ばれて欲しいって考えが、王族の婚約破棄というきっかけになるって、そんなのは言ってくる人の『お気持ち』だもん」
異世界恋愛もののラノベや、物語に出てくる王族の婚約破棄はね、一つぐらいは望みを叶えてほしいって考えが、破棄のきっかけになるんじゃないんだよ。
バカなことをやらかす王子の、人間性が底辺だから問題なんだって。
まっとうな考えを持ってる王族なら、婚約破棄なんか考えないよ。
考えるのは、円満な解消。
それでもって、そういう時はちゃんと周囲に相談するし、婚約相手を一方的に貶めたり不義理なことなんかしないよ。
うちの国王陛下は、女神の影響もあって一人で突っ走ってやらかしたけど、王族として教育を受けてる人はやらないんだって。





