82 恋バナなんかしちゃったり
長期の休み明けから、少しずつ学園生活の時間に慣れ始めるころ学園祭の時期が近づいてきた。
学園祭も五年生は全体的に後輩たちのお手伝いに回るから、四年生が最後の参加になる。
で、今年僕ら領地経営科がやる学園祭の出し物は、マーダーミステリーだ。
学園祭は三日間だから、シナリオを二つ用意し、午前と午後にシナリオを変えることにした。
淑女科は社交サロン体験、文官科は宝探しゲーム。
騎士科はなんとレンタル護衛騎士をやるそうだ。
とはいえ学園には本物の護衛官はいるので、本格的な護衛というよりは、いわゆるコンカフェのようなものらしい。
護衛騎士という体で、来場者に学園祭のイベント案内をするのだ。
もちろん在学している生徒から指名を貰って、一緒にイベントを回るのもやるみたい。
ついでに、文官科の宝探しゲームとコラボをしているらしく、宝探しゲームの内容に、護衛騎士がいないと先に進めない要素を取り入れているようだ。
「でもよぉ、人気が一人に集中するのは良くないって話も出てるんだよなぁ」
放課後、ネーベルを待っていたら、テオとクルトも一緒にやってきて、学園祭の話をしながら一緒に帰ることになった。
ちなみに、イジーとリュディガーは他に用があるそうで、先に帰ってしまった。
「へ~、それは大変だねー」
「他人事だと思ってよぉ~」
だって他人事だもん。
「で、その人気が集中する生徒というのは?」
「もうわかってんだろー。ジュスティスだよ」
何かと話題に事欠かないジュスティスだけど、何も知らない人から見れば、女子に好まれる容姿に、あの人当たりの良さは、好印象しか与えないもんね。
「いいんじゃないの? 本人だってまんざらじゃないんでしょ?」
「謙遜してるけどな」
「忙しければ忙しいほど、変な動きしないんじゃない?」
「だけど、淑女科の女子生徒からの指名が多く入るってことは、なんか吹き込む可能性だってあるだろ?」
「させておけばいいじゃん。これで騒ぎを起こして首謀者にできたら、さっさとお国に連れて帰ってもらえればいいし」
エウラリア様もいるから、下手なことはできんだろう?
どうやらエウラリア様のお付きの人たちの中に、騎士科に入ってる人もいて、常時監視してるらしい。
無理やり帰国させたとして、また名前を変えて入国してくる可能性もあるしねぇ。
こっちで勝手に処刑したら、絶対に国際問題になるよ。
処刑するなら、まずリトス王家からの許可が欲しいよねぇ。
でもあっちはそう簡単に、そんな許可は出さないだろうけどさ。
だって、リトス王家はジュスティスっていう火種で、ラーヴェ王国を放火したいわけだよ。
で、自分たちが火消しをして、ラーヴェ王家に恩を売りたい。
今まで近づけなかったイジーと接触して、『実は親族だったんだよー。いつでも甘えていいんだよー。でもちょっとこっちに融資してほしいなー』ってやりたいんじゃないかなーっていうのが、僕の予想。
エウラリア様に関しては、様子を見たかぎりだと、その手の政治的なことは関知してなくって、単純にジュスティスの見張りとしてやってきた感はある。
僕のその考えを話すと、テオはう~んと唸りだす。
「そこまで考えてやってんのか?って、俺は思うけど」
「考えてやってないんだとしたら、ジュスティスの対応が杜撰過ぎるよ。本来なら、無理やりにでも強制送還するべき案件だよ?」
「そりゃそうなんだけど……」
「リトスがエウラリア様を派遣しただけで、それ以外の動きがないってことは、ラーヴェ王国からそう思われても仕方がないってことだ。コレが政治ね」
にっこり笑って答えると、テオはため息を吐く。
「……なんでお前が国王にならねーんだよ」
「それは今の国王陛下が望んだからだよねー。僕はあの人の望みを叶えてあげただけだよ。最後の親孝行だね」
あの人のことは、親だなんてこれっぽっちも思ってないけど、種元であるのは事実。
製造元に対しての「この世に生み出してくれてありがとう」の感謝のしるしだよ。
「イジーがいなくてよかったな」
「さすがにイジーがいる前では、これは言えないよ」
僕だってそれぐらいの良識はちゃんとあるから!
「そーいや、イジーはどうしたんだ?」
「なんかねー、今日は用事があるんだってさ」
僕の返事を聞いて、テオは首を傾げたものの、すぐにあぁっと納得した顔をする。
何? 心当たりでもあるのかな?
「イジーの用事、知ってるの?」
「ヘッダと話してるんじゃねーの?」
おやおやおや?
テオがそれを知ってるってことは、イジーから話を聞いたのか、それともヘッダからなのか。
「何だよ」
「別にー? テオは話聞かなくていいのかなーって」
「横恋慕してる俺が、その話し合いにいるのはおかしいだろ」
それはそうなんだけどさぁ、心情的に複雑なんじゃないかなー、とは思うんだよね。
「イジーは親戚でもあるけど、俺としては親友だと思ってるし、その親友の婚約者を好きになったのは、俺が……、いや。俺はヘッダを好きになったことは、悪かったとは思わない。イジーの婚約をぐちゃぐちゃにさせたことは悪かったとは思う」
それはちゃんと理解してるんだ。
「まぁ、ヘッダも周囲の言う通り、大人しーくイジーと結婚するとは思ってなかったけどね」
不思議大好きちゃんなヘッダだから、自由にあっちこっち行って、やりたいことをするのは、諦めないはず。
「ところでテオ」
「なんだよ」
「ヘッダの外見は、テオの理想の女の子かもしれないけど、中身は、守ってもらいたいって思わせるような、囚われのお姫様ではないよね? それでも好きなの?」
僕の質問に、テオはやんちゃ坊主のような笑顔を見せる。
「ヘッダの魅力は、あのギャップだろ。それにアルが言ったんじゃないか。好きなタイプと実際に恋をする相手は違うって」
あー、テオと最初にあった時の話だね。
あの時テオは、自分が守ってあげなきゃダメな子が良いって言ってたし、シュラート物語に出てくる、ローゼ姫が好みだって言ってた。
「俺はたぶん、俺が守ってやらなきゃダメな子が好きなんじゃなくってさ、好きになった子を守ってあげたいんだ」
お、おお~? そーいうことだったの?
まぁ、ヘッダの外見はローゼ姫みたいで、守ってあげなきゃって思わせるけど、中身はアグレッシブだもんね。
誰かに助けを求める状況に陥った時、ヘッダの中身を知ってる人は、自分がいなくても平気だって思う。
テオはだからこそ、自分がヘッダを守りたいんだろうね。





