81 嵐の前の静けさ?
ずいぶん王家をバカにしてるなぁ。
まぁ、確かに今代の国王陛下は王太子時代にやらかして、王族の権威を下げはしたけれどさ。
だからって王家と貴族の間には、どうやったって立場や威信の差があるし、公爵家が王家よりも上になるなんてことはない。
もし、王家よりも公爵家の方が、すべてにおいて上だというなら、とっくに王朝名が変わってるんだよ。
それなのに公爵家から、婚約の申し込みがあって、それを王家が退けられないって、あるわけねーだろ。
あと貴族間の結婚ならともかく、家長同士の話し合い程度で、王族との結婚が簡単に決められると思うな。
イジーの婚約だって、何度も国議の議題で話し合われて決まったんだからね。
王家をなめとんのか。
「情報収集が杜撰過ぎるのも気になるなぁ」
「オクタヴィア・ギーア嬢の話ですか?」
「うん」
ヒルトに訊き返されて、頷きながら答える。
「リトス王国で生まれ育った人間だったことは、エウラリア様から聞いてるから確定なんだけど……。それでもラーヴェ王国に来て一年も経ってるんだよ? その辺の情報を持ってないのがおかしいよね」
メタな話をしちゃうと、人ならざるものである女神が、なんでラーヴェ王国の情報を抜いてないんだ?
よくわからないなぁ。
シュッツ神道の神は、女神は自分たちと同じではないって言ってるし、でも、人の意識に干渉できる。
あとウイス教の経典とか言い伝えのようなものに、女神が権能で奇跡を起こしたみたいなのが残ってるようなんだよね。
人ではできないことをしているくせに、情報を引っこ抜けない。
これが凄く、気持ち悪いというか、薄気味悪い。
何なんだろ、あの女神ウイステリア。
「ギーア男爵家の方は、どうなんでしょうか?」
「あー、ギーア男爵と付き合いのある貴族には、何代か前に手放した子供がいて、その子供の血を引く孤児の娘を引き取ったって発表したらしいね」
アッテンティータの報告によると、家門の血を引いている娘が、孤児として今まで苦労していたのが不憫でならない。辛い思いをしていた分だけ、幸せにしたいと言っているそうだ。
話を聞く分には、ギーア男爵夫妻というか、ギーア男爵家全員の意識に干渉して、そこにいることが不自然ではないように操作されている感じかな。
「現状、休み前のギーア嬢に比べれば、今の彼女はずいぶんと落ち着いてるので、引き続き様子を見ておきます」
こういうことは、やっぱりヒルトに任せた方が無難かな。
ランツェからこの手の隠密と諜報の動きをいろいろ教わってるし、ギーア嬢に気付かれないように監視はできるはず。
ただなー。僕の心配は、傍にいるイヴが巻き込まれるんじゃないかってこと。
ついでにヘッダがギーア嬢で、遊びたおすんじゃないかって懸念。
理事の仕事もしてるから、忙しいはずだから、そんなことはしないと思うけど……。
僕、フラストレーションが溜まったヘッダって、見たことないからなぁ。
忙しくってイライラしたヘッダが、ギーア嬢を見つけて、これ幸いに息抜きで遊びつくすこともあり得るんだよなぁ。
「ヘッダ」
「何でしょうか?」
「遊んじゃダメだからね」
するとヘッダは無言で極上の笑顔を見せる。
「それは彼女次第ですわね」
駄目だ、こりゃ。
オクタヴィア・ギーア嬢がヘッダに突っかかったら、丸呑みする気だ。
「アルベルト様。ギーア嬢も、休み前の無謀さは落ち着いていますから、あまり心配なさらずに」
ヒルトが慰めてくれるけど、どうにもこうにも不安がぬぐえない。
だって女神が関わってるからさぁ。
「ヒルトの言う通りだと思うわ。あの人、今は淑女科の生徒からの信頼回復に忙しくしてるから、変なことはしないと思う」
そう言ったのはイヴだった。
「休み前までのあの人って、淑女科では腫物状態だったのよ。変なことばっかり言うし、ウイス教の聖女っていう立場を振りかざして、自分の方が上だってマウント取ってきたり。だから、淑女科の生徒にとっては、触るな危険だったの」
だとすると、やっぱり物語のヒロインに転生したってはっちゃけた子みたいな感じがするなぁ。
「誰だって、あんな面倒そうな相手と仲良くしたくないわよ。だってまともに会話ができなそうなんだもの。でもそうやって、当たり障りない態度を取ると、自分は何もしてないのにいじめられてるって騒いだりするし、悪いのは周囲の人たちって感じに持っていくのよね」
なんかそれ、似たような話を聞かなかったっけ?
確か、そう、ジュスティスだよ。
彼も自分を揶揄ったりしてきた相手に対して、その相手が悪者になるような感じに、自分の取り巻きを扇動していたって、テオが言ってなかったっけ?
「そんなことしてたから、淑女科にいる生徒とは表面上なもので、本当に仲のいい相手が、あの人の傍にいないの」
何かあった時の味方がいないって気が付いたのか。
「味方作りに必死なのよ。それから、やっぱり休み前の評判の悪さを払拭したいって感じかしら? だから、今、必死に良い人アピールしてるのよ」
なら、わざわざオティーリエに近づいて、印象下げるようなことはしないか。
「あの人、変わったように見えるけど、本性は変わってないわよ。だから、またすぐにおかしなこと仕出かすんじゃないかしら?」
イヴの言葉に、同じクラスであるヒルトとヘッダが反論しないのは、それだけオクタヴィア・ギーア嬢のやらかしが多かったからなのかもしれない。
ともかく、休み明けからオクタヴィア・ギーア嬢がキャラ変したっていう情報は、頭の片隅に置いておいた方が良いだろう。
彼女とセットで、ジュスティスの動きも注視しておかなきゃいけないし。
一番楽なのは、二人そろって、リトス王国に帰ってもらうことなんだけど、ジュスティスはともかく、オクタヴィア・ギーア嬢は無理だろうなぁ。
女神からのバフがかかってるのは、どっちかって言うと、ジュスティスよりも聖女認定されたオクタヴィア・ギーア嬢の方だ。
なんだか、この先にまだ何かが起きそうで、憂鬱な気分になってしまった。





