67 フルフトバールで魔獣狩りだぁ! そのなな
翌朝、不帰の樹海は、昨日よりもさらに寒かった。
まるで秋から冬にかけての寒さ。
今、夏なんだけどなぁ。
地理的に、そんなに寒くなる場所でもないはずなんだけどなぁ。
「なんかー、メッケルと同じぐらい冷える」
北方辺境地で生まれ育ったテオとクルトは、この早朝の冷えがメッケルと同じだと言った。
ピートとトレッフによると、夏の不帰の樹海の朝晩は、外よりも気温が低いみたい。
っていうか、日中もそんなに気温は高くならないらしい。
木々が鬱蒼としてる樹海だからかな?
逆に冬は雪が降っても積もらないそうだ。
地熱があるの?
今日の予定はいよいよ中層での狩り。
クルトとリュディガー、そしてマルクスは、引き続きゲルプと一緒に浅層での狩りをするらしい。
「この樹海、面白いですよね。何でもあるって感じで」
「何でもある?」
「川もあれば洞窟や沼地もあるし、かと思えば密集した樹木の中に、人の手で切り開いたわけではない平地もある。普通こういうのって、ないんですよ」
クルトはそう言って、不帰の樹海の生成状態に関心を持っているようだ。
そして朝食を済ませると、昨日の狩りで少し慣れたリュディガーとマルクスを連れて、ゲルプと一緒に浅層の方へと向かっていった。
僕らも当初の予定通り中層の方へと向かう。
とはいっても、毎回毎回、魔獣に遭遇するわけではなくって、その日によって変わるらしい。
あと樹海での魔獣狩りの活動は、単純に魔獣を狩るだけではなく、魔獣の繁殖調査もあって、どちらかというと調査の方に時間をかけるそうだ。
「もちろん、俺たちを見て逃げるのではなく、見境なく突っ込んでくる危険な魔獣は、遭遇次第狩りますがね」
トレッフの説明に、自分も同じようにできるだろうかと、少しだけ悩んだ。
魔獣狩りとして、僕はちゃんとできるだろうか?
そういった時の判断や指示を出すことができるだろうか?
学園を卒業して、この不帰の樹海を管理する者として、僕はちゃんとやれるかな?
いやいや、なに不安がってんの?
僕がこのフルフトバールに戻るときは、あの女神とのことも全部ケリをつけて、心の憂い一つなくなってるはずだよ。
中層は、なんだろう。浅層よりも、空気が重い感じがした。
湿度が高いっていうのとはちょっと違う。
ただ、魔力巡りが……、すごく、楽?
あと、魔獣の気配があっちこっちからしてくるなぁ。
でも姿を現さない。
「ふむ……。これは、警戒してますね」
フェアヴァルダーの呟きに、トレッフとピートもしきりに周囲を見回している。
「警戒って?」
「魔獣が、です」
「中層の魔獣が人間を警戒するの?」
パワーは魔獣の方があるから、人間を見たら蹴散らすものばかりだと思ったんだけどなぁ。
「中層の魔獣でも色々いますよ。人間を怖がるというよりも、自分たち以外の種族を怖がるのです」
そう教えてくれたのはトレッフだ。
トレッフの説明に感心していると、すぐ傍にいたイジーに、クイクイと袖口を引っ張られる。
「ん? イジー? どうしたの?」
「兄上、あれ……」
イジーが指をさした先。
少し離れた大きな岩の上に、大きな……鹿? それともトナカイ?
大きさはトナカイよりも、もう一回り大きい。
角が……発光してる? っていうかなんか妙な気配。
魔獣っていうよりも……、神獣って言った方がぴったりな気がする。
それだけ神秘的な雰囲気なのだ。
「あれが、グリューナーディアですよ」
「え? マジでかよっ?」
フェアヴァルダーの説明に、テオが目をむいて咄嗟に警戒の姿勢をとる。
すると、こっちを見ていたグリューナーディアは、ピクリと耳を動かし、飛び跳ねながら樹海の奥へと逃げて行ってしまった。
「うっそ! 逃げんの? ブランダイヤはこっちにツッコんでくるぞ?!」
「え? ブランダイヤってそんな凶暴なの?」
「凶暴っていうか、遭遇すると、必ず俺の方にツッコんでくるんだよ」
んー? なにそれ。もっとちゃんと説明してよ。
「ブランダイヤとグリューナーディアは見た目がよく似てますが、性格は全然違いますよ。グリューナーディアはとんでもなく臆病なんです」
トレッフはそう話すと、じーっとテオを見つめる。
「しかしブランダイヤが、テオ様にツッコんでくるというのは――」
「な、なんだよ?」
「もしかしたら、勝負を挑んでいるのかもしれませんね」
「勝負ってなに?!」
「魔獣の中には、強さこそ正義と思っているのが大半です。そしてブランダイヤは、好戦的な個体が多い。恐らくテオ様を斃せば、自分が一番強い魔獣だと、ブランダイヤは認識してるのではないでしょうか? もしくは……雌のブランダイヤが、自分と番う相手として定めて、力量を探ってるとか……」
トレッフの説明に、テオはなんだか呆けた顔をする。
「テオ、魔獣にモテモテだね!」
サムアップでそう言うと、テオはプクーと頬を膨らませたあと喚きだす。
「そんなの、全然嬉しくねー!!」
テオの反応に、僕ら全員、思わず笑ってしまった。
グリューナーディアが逃げていった方向を少し探ってみたら、集団でいたであろう痕跡が見つけられた。
でもその姿が見れないということは、すぐにどこかに移動したのだろう。
もしかしたらイジーが見つけたあのグリューナーディアは偵察役だったのかもしれない。
そのあとも少し周辺を探ってみたら、大きな魔獣の痕跡は見つけることができたものの、やはり姿自体を見つけることはできなかった。
テオはグリューナーディアとしか遭遇できなくて残念そうだったけど、いないものは仕方がない。
でも魔獣がいたであろう痕跡を見て、トレッフは何かに気付いたのか。
「……明日、たぶんデカいのと遭遇しますよ」
そう言った。
テオはなんでわかるんだって顔をしてたけど、そこはきっとベテランの魔獣狩りの勘、なんだろうな。





