一話、記憶石の効果
目を開ければ其処は安心出来る紛れもない自分の部屋。隣の椅子には、静かに眠りながら私の手を握る、弟の利卯の姿。
ここは…ゲームでは無い、現実なんだ。
私は、硬く目を閉じた。
気を失った夢の中で私は、色々な物を見た。
前世と言う理解のし難い自分の姿。そしてきゃーきゃーと喚きながらパソコンの乙女ゲームという分類のゲームをしていたこと。
分かったのは、この世界が…『恋の花冠』という名前のゲームの世界だということ。
唯、それだけ。前世での両親の顔も名前も友達の顔も名前も…自分自身の名前も思い出せなかった。
「…まさか、私定められた運命があんなに過酷な物だなんて。」
ゲームの中の竜架静茅。彼女は、冷たい雰囲気でありながら、弟の利卯を大切に思う優しい姉という設定はあった。
竜人族のプライドは当たり前に高い。
だからなのか、中等部から白鷹学園に入ってきたヒロイン役の『木戸恵里奈』という特待生に鬼霤兄弟の下、三位の座を取られたこと、自分の好きな婚約者の兄弟の兄、鬼霤三月に「頑張ったんだな」と声を掛けられ、照れる恵里奈に嫉妬し、本格的な虐めを始めたのだった。
「人は恋をすれば変わると聞いたけど変わり過ぎよ。」
虐めをしているなかで、三月と恵里奈の信頼、友好度や好感度は上がり、最終的には恋人になる。そして、虐めをしていた私を退学させること無く、竜架静家との縁を切らされ、角や紅玉を潰される。
それに同情した恵里奈は自分の家に住まないかと聞いて来るのだ。
その後、恵里奈の妹として幸せに暮らしましたとさ…なーんてことにはならず惨め過ぎて自殺するのだ。
溜まったもんじゃない。しかし、悪魔でこれは恵里奈ご三月ルートを選んだ場合だ。
他にも二人、ライバルになる子はいるし、私がライバルになるのはライバル三人のうちで少なく二人だけ。
利卯と、三月のみ。だから、可能性は低いのだ。
どうすればいいか?そんなのは簡単だ。
私はこれでも女だし恋をしないのは辛い。
だから、三月に惚れなければいいのだ。
幸い、俺様属性の三月は私のタイプでは無い。どちらかというと、私は三月の弟攻略対象、陸橋LOVEなのだ。
貴方のためなら何でもしちゃいますタイプだ。
「ん…あ…茅、起きたの…?」
利卯が眠そうな目をこすり、私を見る。
普段、利卯は私のことを姉さんというが、実際ボーッとしたり驚くと私のことを茅と呼ぶ。要するになにかあれば呼び捨てなのだ。
「えぇ、いい記憶が思い出せたわ。
…私のためになる記憶よ。…教えてあげないけどね」
教えて欲しいという眼差しをキッパリと折り、私はベッドから立ちあがる。
利卯は残念だとシュンとしているが、私からすれば可愛い。
私は、利卯にもう大丈夫と言って部屋を出させ、直様ノートに思い出したことを書いて、これからの対策も考えた。
頑張らなければ私に明日は無いのだから。