第十八話 スマホを買わない理由
「エリカ、お前タクシーが来るまではるかちゃんの相手をしてやれよ。大事なお客さんなんだから粗相のないようにしろよ」
沢野はそうエリカに命令して、事務仕事に入った。試合の後だから、疲れて仕事にならないと思えるが、疲れて練習にならないからこそ、今のタイミングで事務仕事を勧める必要が有った。
「では行ってきます」
エリカはそう言って、はるかの元に向かった。その間、エリカには一抹の不安が有った。はるかが控室を抜け出して勝手に道場を探索みたいなことをしているのではと、不安になっていたが、控室に来てみるとはるかはそのまま控室に居た。そしてはるかは携帯を真剣に眺めていた。
「松山先輩、タクシーを呼びましたので、もうしばらく待っていてください」
「そう、じゃあ来たら教えてよ」
はるかは真剣になって携帯から目を離さない」
「何見てるのですか?」
「競艇の結果」
エリカは一瞬聞くだけ無駄だと思ってしまった。
「今日は桐生のナイターの日だから、結果をチェックしておかないといけないじゃない」
と携帯をいじりながらそうエリカに話す。
「松山先輩はスマートフォンにしないのですか?」
「あんなの買うくらいなら舟券買った方がいいじゃない。パソコンが有ればスマホなんて必要ないし、エリカは買わないの?」
「私はちょっと・・・・」
駆け出しの貧乏女子プロレスラーにはスマホは高くて手が出せなかった。それにスマホなんか持ったら機械音痴の先輩にどんな目に遭わされるかと、一瞬そのことがエリカノの脳裏をよぎった。




