第34話 理系って……
午後三時。教室の隅に散らばっていた養生テープの切れ端がゴミ袋に収まり、最後の一脚の椅子が定位置に収まった。
木目調の壁紙、琥珀色の光を落とす手作りのランプ、整然と並べられた手書きのメニュー。
教壇の前に立った大輝が、満足そうに腕を組み、教室中に響く声で口を開いた。
「よし! これにて一年三組、喫茶『つむぐ』の設営完了! みんな、本当にお疲れさん!」
わっと拍手が湧き起こる。あちこちから安堵のため息と笑い声が零れた。
本日の残りの時間は、校内限定の前夜祭。明日の一般公開を前に、他クラスの出し物を見て回る自由時間となっていた。
「あたし、ここの留守番しとくから。みんな適当に見てきなよ」
教卓に腰掛けた美羽がひらひらと手を振る。それを合図に、生徒たちは三々五々、廊下へと散っていった。
「よーし白石さん、他んとこ冷やかしに行こうぜ!」
大輝が屈託のない調子で紬の肩を叩く。紬が戸惑ったように目を瞬かせた瞬間、横から小春が割って入った。
「ちょっと浅井、あんたが案内役のつもり? どうせ迷子になるんだから、私も行くわよ」
「あ? 迷子になんねえし! 小春こそ口出しすんなよな」
いつもの小競り合いを始めた二人に挟まれ、紬は困ったように小さく笑いながら廊下へと連れ出されていった。
その背中を見送っていた湊の隣に、蓮がすっと並んだ。
「……まあ、大輝だもんな」
「?」
「なんでもねえよ。俺らも行こうぜ」
「三年のクラスでさ、なんか『バズ・ライトイヤーのアストロブラスター』みたいなシューティングゲームやってるらしいよ」
「え、なにそれ面白そう! 私たちも行っていい?」
近くで片付けを終えた女子生徒二人が、身を乗り出してついてくることになった。
三年生の教室へ上がると、異様な光景が広がっていた。
教室の半分が、真っ黒な農業用ビニールシートで隙間なく覆われ、薄暗いトンネルのようになっている。湊たちが入口から覗き込むと、奥から腕組みをした三年男子が一人、のっそりと姿を現した。
「これ……教室を膜で覆うのって、消防法的にダメなんじゃないですか?」
女子生徒の一人が恐る恐る指摘すると、先輩は人差し指を立てて得意げに笑った。
「ふっ……全体を覆うのは禁止だが、我々は『半分だけ』覆っている。だからセーフなんだよ」
「は、はあ……」
湊は手前の机に置かれた手作りの光線銃を見つめ、何気なく尋ねた。
「あの、これ赤外線センサーを使ってるんですよね。奥の的はどうやって動かすんですか?」
「そこは人力さ!」
胸を張る先輩の背後で、シートの隙間から段ボールの的を持った別の男子生徒がちらりと顔を覗かせた。
「あ、あはは……頑張ってください」
曖昧な笑いを残し、四人は足早にその教室をあとにした。
続いて訪れたのは、理系特進クラスの教室だった。
だが、ドアを開けても飾り付けの気配すらなく、机が元の配置のまま整然と並んでいる。
教壇の前には男子生徒が数人たむろし、その足元には小型のドローンが十台近く整列していた。
「あの、ここは何の出し物なんですか?」
蓮が尋ねると、プログラミング用と思しきノートPCを抱えた男子生徒が、勝ち誇ったように眼鏡を押し上げた。
「昼間の出し物? そんなものはやらないよ。僕たちは後夜祭のグラウンドで、このドローン隊によるナイトショーを披露するんだ。全機体、プログラムによる完全自律飛行。夜空に幾何学模様を描き出す、壮大なショーにしてみせるのさ!」
「ふふふ……後夜祭、見て驚くといい」
なぜか全員、自信満々に眼鏡を押し上げる。
一斉に甲高い笑声を出す理系男子たち。
静かに教室の引き戸を閉めたあと、女子生徒が心底引いたような顔で呟いた。
「……ああいう人たちばかりだから、女子が理系に進まないんだよ」
痛烈な一言に、蓮がハッとして湊を指差した。
「あ、おい……それを瀬尾の前で言う?」
「え……」
女子生徒が気まずそうに息を呑み、湊は両手を小さく前に出して苦笑いするしかなかった。
「いや、僕は……あそこまでじゃない、と思うけど……あはは」




