第33話 この気持ちの正体
お風呂から上がり、髪を乾かし終えた紬は、机の上のスマートフォンを手に取ってベッドへ潜り込んだ。
薄暗い部屋の中で、液晶の明かりだけが白いシーツを照らしている。
どうしよう?
もうずいぶん遅い時間だ。寝ているかもしれないと思ったが、結局、トーク画面を開き、ぽつりぽつりと文字を打ち始めた。
《しーちゃん、もう寝た?》
壁の横から様子を伺ううさぎのスタンプと一緒にメッセージを送る。
少し間をおいて、画面の向こうから返信が届いた。
『起きてるよ、珍しいね、こんな遅い時間に』
《ホント、ごめん》
《最近、バタバタしてたし、しーちゃんとメッセしてなかったから》
『大丈夫だよ、何かあった?』
《大したことじゃないんだけど、わたしって癖字だよね?》
またも少し間をおいて、画面の向こうから返信が届く。
『まあ、たしかにミミズが這ったような字だね』
遠慮のない言い回しに少しむっとするが続ける。
《わたしって、何も特技がない》
一度送信ボタンを押してから、続けざまに指を動かす。
《神崎さんは聡明で抜群のリーダシップがあって》
《橘さんは周りが良く見えて、気配りもできる》
《森さんは、とても字が上手なの》
一瞬、指が止まる。
《瀬尾くんはパソコンの操作が得意だし、なんだか難しそうなWなんとか?みたいなのも知ってる》
返信の間隔が遅い。数秒後、短い返信が届いた。
『……それで?』
そこからは手が止まらなかった。
《今日、メニューの手書きを作成したの》
《でも、わたしの字じゃ申し訳なくて、森さんにお願いしたんだ》
《そしたら、瀬尾くんと森さんが、頬っぺたがくっつくんじゃないかって距離で、楽しそうに話してて》
次を打つか、指先を画面の上で迷わせる。
打っては消し、息を呑んでは、また一文字ずつ打ち直す。
そして……
《なんか……ちょっと嫌だった》
いつの間にか唇を尖らせていたことに気づき、紬は慌てて口元を緩めた。
『何が?』
すぐに返ってきた短い問いかけに、紬は画面を見つめたまま息を詰まらせた。
《いや、わたしが嫌なんじゃなくて》
《瀬尾くん良い人だよ》
《でも、男子にあんなにくっつかれて》
《嫌じゃないのかな? って》
紬はスマートフォンの角をぎゅっと握りしめる。
『でも、その子は嫌そうだったの?』
《それは!》
次のメッセージが打てない。何を聞いて欲しいのか頭の中が整理できず、もういいやと思ってしまう。
《ごめん》
《毎日忙しくて、変になってるかもしれない》
《しーちゃん、寝て》
《わたしも寝るから》
『つむ、ごめんね』
《え?》
『おやすみ』
紬はしばらく、その三文字を見つめていた。
やがて画面がゆっくりと暗くなる。
紬はスマートフォンを握ったまま、大きく息を吐いた。




