第28話 重なる声
放課後の教室は、小春のテキパキとした指示で仕切られていた。
初日と二日目は作業には入らず、クラス全員の役割分担の確定と、企画のブラッシュアップに充てられた。
黒板には湊の作った工程表がプロジェクターで大写しにされ、小春がチョーク片手に教卓の前に立っている。
「大枠のスケジュールはこれでいくわ。何か気づいた点や、修正したい意見がある人は今のうちに出して」
小春が見渡すと、窓側の女子グループからすっと手が上がった。
「あの、給仕の衣装なんだけどさ。制服に黒の蝶ネクタイだけじゃちょっと地味じゃない? せっかくなら、レトロなメイド服っぽいフリルのエプロンとか着てみたいかも」
その提案に、後ろの男子がにやにやしながら声を上げた。
「え、俺らもそのメイド服着るの? 似合っちゃうかもなー」
「あんたたちが着てどうすんのよ!」
「キモいから絶対やめて!」
間髪を入れず女子たちからブーイングの嵐が浴びせられ、男子は「冗談だよ……」と肩をすくめて引っ込んだ。
小春はため息をつきながら、黒板の端に『女子:クラシカルエプロン検討(要予算確認)』と書き足す。
「衣装は前向きに検討するわ。……他には?」
教室が静まりかけたとき、前の席にいた紬が、おずおずと手を挙げた。
「……あの、メニューのことなんですけど」
「白石さん、何かある?」
小春に促され、紬は机の上のスケッチブックを抱え直しながら口を開いた。
「瀬尾くんが作ってくれた印刷のメニューも、すごく綺麗で分かりやすかったんですけど……神保町で行った喫茶店のメニューが、すごく素敵で。表紙は活版印刷みたいにしっかりしてるのに、中のページは一枚一枚、和紙に丁寧な手書きの文字で書かれていたんです。それが……すごく温かみがあって、お店の空気に合っていて」
神保町で二人で入った、あの薄暗く静かな喫茶店。
湊にも、あのメニューは強く印象に残っていた。
小春と視線が合う。
「……確かに、あの手書きのメニューは、僕たちが目指してる純喫茶の雰囲気にすごく合ってたと思う」
控えめな湊の言葉に、小春は顎に手を当てて考え込んだ。
「和紙なら、駅前の裏通りにある老舗の和紙屋さん知ってるよ」
衣装の提案をした女子生徒が声を上げた。
「おばあちゃんが千代紙買いに行くお店なんだけど、便箋とかいろんな種類の紙がいっぱい置いてあるの。私、明日買いに行ってこようか?」
「……ううん」
小春は首を横に振り、手帳をパラパラとめくった。
「紙の質感や厚みは、実際にその喫茶店を見た人が選んだ方がいいわね」
「印刷方法も変わるだろうし……」
小春は手帳に何かを書き込みながら、紬へ視線を向けた。
「明日の秋分の日、悪いんだけど、午前中に瀬尾くんと白石さんで選んできてくれる?」
「え……」
湊が顔を上げる。
「あ……」
紬も小さく声を漏らした。
二人の声が、わずかに重なった。




