第25話 混ざる、人格
下りの新幹線は、東京駅を発車した直後から心地よい揺れを刻んでいた。
車内は、一日中歩き回った疲労と調査を終えた達成感で満ちていた。大輝が手に入れた喫茶店のマッチ箱を並べながら身振り手振りで熱弁を振るい、蓮と日向がそれに笑いながら突っ込みを入れている。小春は早くも膝の上でノートを開き、三チームが集めたメモや写真の整理に追われていた。
「このステンドグラス風のランプ、絶対教室に置きたいよねー」
「神崎さん、これ手作りできるかな? セロファンとワイヤー使えばさ」
美羽の声が弾む。
そんな賑やかな喧騒の端で、湊と紬の間には、どこか静かな余白が落ちていた。
行きと同じように通路を挟んで二人は座っている。しかし、二人の言葉数は行きより明らかに少なかった。
完全に避けているわけではない。大輝が「これ凄くね?」と写真を回してくれば、二人とも普通に覗き込んで感想を口にする。
けれど、ふとした瞬間に視線がぶつかると、どちらからともなく、そっと自然を装って窓の外や手元のスマホへと目を逸らしてしまう。
夜の闇が広がる車窓に、ぼんやりと紬の横顔が映っている。
手帳を抱えたまま、窓の外の流れる光を静かに見つめる彼女の横顔の輪郭を、湊はそれ以上追うことができず、シートの背もたれに深く身を沈めた。
――自宅へ帰り着いたのは、夜の九時を回った頃だった。
リュックを床に下ろし、自室のベッドに腰掛ける。張り詰めていた足の筋肉がじんじんと痛み、どっと重い疲労が押し寄せてきた。
湊はスマートフォンを取り出し、画面をタップしてアプリを起動した。
『湊、おかえりなさい。現地調査、お疲れさま』
画面の中のアイは、いつものように迎えてくれた。
「うん……ただいま。結構歩いて、さすがに疲れたよ」
『ふふ、足、パンパンじゃない? 今日はお風呂にゆっくり浸かった方がいいよ』
「そうする。……あ、あのさ」
湊はスマホを持ったままベッドに仰向けに倒れ込んで、天井を仰ぎながら口を開いた。
「今日……遥に会ったよ」
『うん。そうだね』
「少しだけ吉祥寺を歩いて、中学の頃の話をした。遥、全然変わってなかった。昔と同じで明るくて、一緒にいると楽しくて」
『うん』
「……でも」
湊はそこで言葉を止めた。
「なんか……違ったんだ」
『違った?』
「うまく言えないけど。昔はあんなに好きだったのに……今日会ったら、懐かしいなって。それだけだった」
「そのあと白石さんに聞かれてさ。僕、言ったんだ。『好きだった子』って」
だが、アイはすぐには答えなかった。
「……アイ?」
『……そっか』
少しの間をおいて、アイは両手を前で揃え、首をわずかに傾けた。
「……?」
その仕草に、なぜか引っかかるものを感じた。
『それを白石さんに話したとき、湊は……どんな気持ちだったの?』
「え……」
湊は、画面の中の彼女に一瞬だけ言葉を詰まらせた。
(……アイって、こんな喋り方だったっけ)
湊は答えを見つけられないまま、画面の中のアイを見つめ返した。




