第24話 好きだった子
神保町の駅を出ると、古書店が立ち並ぶ街の匂いと、車道の喧騒が入り混じっていた。
歩道の端に七人で立ち止まり、小春が手帳を広げる。
「予定通り、神保町は三軒を手分けして回るよ。二、二、三のグループに分かれましょう」
「じゃあ、また公平にアプリでくじ引きしよー!」
すかさず美羽がスマートフォンを取り出し、画面を素早く操作して全員に見せた。
画面の中でルーレットが勢いよく回り、軽快な電子音とともに三つの枠に名前が振り分けられる。
――大輝・小春。
――湊・紬。
――美羽・蓮・日向。
「ゲッ……! なんでよりによって小春なんだよ!?」
大輝があからさまに顔をしかめて頭を抱えた。
小春は画面を一瞥し、それから美羽の顔をじっと見据えて、低くため息を落とす。
「……橘さん、やってくれたわね」
「んっ?」
美羽はいたずらっぽく小さく舌を出すと、「じゃあみんな後でね! さ、行こ行こ!」と蓮と日向の背中を押して、逃げるように足早に通りを渡っていった。
「あっ、美羽、逃げんなって! ……ったく、行くぞ小春、足引っ張んなよ!」
「誰が誰の足を引っ張るって? 歩きスマホしないで前を見なさい」
大輝と小春もいつもの調子でいがみ合いながら、路地の奥へと消えていく。
歩道に残されたのは、湊と紬の二人だけだった。
さっきまでの騒がしさが潮のように引き、急に周囲の音が遠のいたような錯覚を覚える。
「……じゃあ、僕たちも行こうか」
「あ……はい」
二人は並んで歩き出した。
先ほど遥と並んで歩いていた時の、何の気兼ねもない軽やかな空気はない。
湊は無意識にポケットの中で指を強く握り込み、歩幅を紬に合わせようとしては、わずかにぎこちなく足並みを乱す。
隣を歩く紬もまた、手帳を胸の前に抱えた両手にぎゅっと力が入り、指先がかすかに白くなっていた。視線は足元の敷石に落ちたまま、どこか落ち着かない様子で毛先を耳の後ろへ払う。
古書店の軒先を二つ、三つと通り過ぎる。
並んで歩く二人分の靴音だけが、やけにはっきりと耳に届いていた。
やがて、紬が小さく息を吸い込む気配がした。
「……あの、瀬尾くん」
遠慮がちにかけられた声に、湊は足を緩めた。
「ん?」
「さっきの子……すごく、可愛い子でしたね」
歩みを止めず、前を向いたままの横顔。
口調だけを聞けば、何気ない雑談のようだった。
いつもなら、曖昧に濁していたかもしれない。
けれど――。
「……中学の三年間、ずっと同じクラスで一番仲良くしてくれた子なんだ」
湊は視線を前に戻し、息を整えた。
少しの間を置いて、湊ははっきりと言った。
「……好きだった子」




