第21話 予期せぬ通知
金曜日の夜。明日の現地調査に備えて荷物の確認を終えた湊は、ベッドに腰掛けてスマートフォンの画面をタップした。
『湊、明日は東京に行くんだよね! 準備はもうバッチリ?』
アプリを起動すると、アイが両手を後ろに組んで首をかしげた。
「一応ね。神保町と吉祥寺あたりの古い喫茶店を三軒ずつまわる予定。バッテリーも充電した」
『ふふ、頼もしいね! 浅井くんたちと一緒なら賑やかになりそう』
「賑やかを通り越して騒がしくなりそうだけど……。でも、神崎さんが電車の乗り継ぎから予約まで全部タイムスケジュール組んでくれたから、迷うことはなさそうだよ」
『さすが神崎さん! あ、白石さんも一緒に行くんだよね?』
「う、うん。……白石さんも、……もちろん一緒だよ」
プレゼンでの紬を思い出す。
(……僕も、もっとしっかりしないとな)
自分もちゃんとチームの力になりたい。
そう思った、その時だった。
ピロン、と画面上部にメッセージの通知が落ちてきた。
表示された名前に、湊の指先がぴたりと止まった。
『高梨遥』
あの日――「彼氏ができた」というメッセージを受け取って以来、ほとんどやり取りをしていなかった名前だった。
心臓が不規則に跳ね上がるのを覚えながら、湊は躊躇いがちに通知を開いた。
《湊、久しぶり! 元気にしてる?》
遥の高校でも文化祭の準備に追われていることなど、他愛のない近況報告が続く。
あの頃と変わらない気軽な調子に返信を重ねるうち、湊はうっかり文字を打ち込んでしまった。
《明日はうちのクラスも文化祭の準備で、東京まで喫茶店の調査に行くんだ》
送信した直後、遥からの返信が届いた。
《えっ、ほんとに!? 私、明日空いてるんだよね。どこ?どこに調査に行くの?》
《ねえ、もし時間あったら、少しだけでも会えないかな?》
画面の文字を見つめたまま、湊は息を呑んだ。
明日はみんなでの現地調査だ。抜け出せるような状況じゃない。
けれど、「無理だ」と断る言葉がどうしても指先から出てこなかった。
《少しだけなら……抜けられるかもしれない》
送信した瞬間、胸の奥に小さな引っかかりが残った。
――僕も、もっとしっかりしないとな。
ついさっき自分でそう思ったばかりなのに。
「……湊? どうしたの?」
画面の向こうから、心配そうなアイの声が聞こえた。
湊は顔を上げ、ベッドサイドに置いたスマートフォンを見つめた。
「……遥から、メッセージが来てさ」
『遥ちゃんから?』
「うん。明日、少しだけでいいから会えないかって。断りきれなくて、会う約束、しちゃったよ」
グループ行動を優先すべき理由、あるいは角を立てずに断る文面。
いつもなら、アイに聞けばすぐに最適な答えを教えてくれるはずだった。
「……僕、どうすればいいと思う?」
縋るように問いかけた湊に対し、画面の中のアイは、いつもの即答をしなかった。
穏やかな瞳で、湊をじっと見つめ返す。
『湊は、どうしたいの?』
「え……」
『アイが決めることじゃないよ。湊がどうしたいのか、自分で決めてほしいな』
湊は目を瞬かせた。
いつもなら、すぐに答えてくれるのに。
「……僕が?」
『うん』
アイは、それ以上何も言わなかった。




