第20話 つなぐ、つむぐ
大輝の絶叫が視聴覚室の壁に吸い込まれたあと、静まり返った室内で、杉山が静かに教卓の端を叩いた。
「全員、席に着け」
低く落ち着いた声だった。
杉山はすぐには次の言葉を続けず、ゆっくりと教室を見渡した。
「……両チームのプレゼンは終わった。これより多数決でクラスの企画を決定する」「一人一票。両方に立つのは禁止だ」
杉山の手が黒板の端へと伸びる。
「まず、神崎チームの縁日企画に賛成の者、起立」
ガタガタと、まとまった人数が立ち上がった。
堅実で、負担の少ない案。小春を支持する生徒たちを中心に、ざっと数えてもクラスの半数近くが立ち上がっている。
だが、その輪の中で――発案者であるはずの小春は、静かに腕を組んだまま席に座り続けていた。
「……座れ。次に、浅井チームの純喫茶企画に賛成の者、起立」
杉山の声と同時に、大輝が勢いよく立ち上がった。美羽、蓮、日向、そして紬がそれに続く。
数秒の迷いのあと、一人が立った。
それにつられるように、また一人。
ガタッ、ガタッ、と椅子を引く音が、少しずつ視聴覚室に増えていく。
小春は、やはり座ったままだった。
どちらの案にも立たず、まっすぐに前方のスクリーンを見つめている。
「……よし、座れ」
杉山が手帳に走らせていたペンを止め、息を吐いた。
「神崎案、十八票。浅井案、十九票。よって、一年三組の企画は『昭和レトロ純喫茶』に決定する」
「……っっっしゃあぁぁぁ!」
大輝がガッツポーズとともに歓声を上げ、美羽と蓮が顔を見合わせて小さく息を吹き出した。
紬は信じられないといった様子で口元を押さえ、隣の湊もまた、肩の力を抜いて深く息を吐き出した。
「実行委員のリーダーは浅井、お前がやれ。ただし全員を巻き込んでやる以上、途中で投げ出すことは許さんぞ。放課後の進め方はチームで話し合え。――解散」
杉山が視聴覚室を出ていくと、安堵と興奮のざわめきが広がった。
生徒たちが荷物をまとめ始める中、足音が一つ、湊たちの席へ近づいてきた。
神崎小春だった。
背筋をピンと伸ばし、腕を組んだまま、小春は大輝たちの前で足を止めた。
「……一票差ね」
「あ?」
大輝がきょとんと目を丸くする。小春は動じることなく、淡々と続けた。
「私が自分の案に立っていれば同票だったもの。圧勝したみたいな顔しないで」
大輝は反論するでもなく、ただ不思議そうに小春を見上げた。小春はふっと表情を緩め、視線を紬へと移す。
「でも、あんなこと言われたら、無難な方を選べなくなるじゃない。……私も手伝うわ。スケジュール管理や予算の折衝なら、そっちの男子たちよりずっと得意だから」
「神崎さん……」
紬が目を丸くして顔を上げる。
小春は小さく息をつくと、手帳を開いて人差し指を立てた。
「やるからには、中途半端なものは許さないわよ。まずは今度の週末、みんなでレトロ喫茶の現地調査に行きましょう。本物の空気感を見ないと、内装もメニューも詰められないでしょ」
「なんでお前が仕切る?でもまあ、さすが小春、話が早ぇ!」
大輝が破顔する。小春はその言葉を軽くいなし、紬をまっすぐに見つめた。
「それから、店の名前だけど。『珈琲・白百合』より、もっといいのがあるんじゃない?」
「え……?」
「『つむぐ』にしない?」




