第15話 大変さに、意味があるなら
円陣を組んでみたものの、結局何も決まらないまま、初日の放課後は解散となった。
大輝の「俺が今夜最高のアイデアを閃いてやる!」という根拠のない宣言に全員で苦笑いし、明日の放課後にもう一度集まる約束を交わして別れたのだ。
帰宅した自室で、紬はベッドの上に体操座りをし、スマートフォンをじっと見つめていた。
クラスの役に立ちたい。勢いでチームに入ったものの、文化祭の経験が乏しい自分には、小春のような洗練されたアイデアなんて思いつきそうにもなかった。
迷った末に、トークルームを開く。
《しーちゃん、ちょっと相談してもいい?》
すぐに既読がつき、返信が返ってくる。
『どうしたの? 深刻そうな出だし』
《文化祭のクラス企画のことで……。手堅くて失敗しない簡単な案と、大変そうだけど面白い案で、クラスがコンペすることになっちゃって》
《私、後者のチームに入ったんだけど、何をやればいいのか全然思いつかなくて……》
小春の提案した縁日ゲームのスマートさと、自分たちのチームの無計画さをそのまま打ち明ける。
画面を見つめながら、紬は小さく指を動かした。
《失敗しなくて楽な方が、みんなにとってもいいのかな……。大変なことをわざわざやるのって、迷惑なのかなって思っちゃって》
既読がついたまま、少しの間が開いた。
やがて、画面がトントンと更新された。
『楽な方を選ぶのも、全然アリだと思うよ』
予想していたのとは違う言葉に、紬は目を瞬かせた。
『失敗しないように手堅く進めるのって、すごく賢いし、みんなの負担も少ないじゃん。神崎さんって子の案、ちゃんとしてると思う』
『でもさ、つむはそれで納得できるの?』
《納得……?》
『後から振り返って「あの文化祭やってよかったね」って笑い合えるのって、つむにとってどっちだと思う?』
《それは……》
『じゃあ、つむはどんな文化祭にしたいの?』
《どんな……》
『勝てる企画じゃなくてさ。終わったあと、どんな一日だったら嬉しい?』
画面に並んだ問いかけを見つめながら、紬は指を止めた。
どんな一日だったら、嬉しいだろう。
目を閉じると、浮かんでくるのは当日の華やかなステージや喝采ではなく、もっと地味な光景だった。
放課後の教室に残って、みんなで机を並べ替えること。
段ボールを切り刻んで、ペンキで手が汚れて、誰かが失敗した看板を見てみんなで笑い合うこと。
買い出しの荷物を重そうに抱えながら、途中で寄ったコンビニのアイスを分け合うこと。
――ああ、そうか。
やりたいことを考えていたはずなのに、浮かんできたのは、みんなと過ごしている時間ばかりだった。
《……私、みんなとたくさん準備したいのかも》
《大変でも、失敗しても、その時間ごと思い出になるような……そういうのがやりたい》
送ったメッセージの横に、すぐに既読がついた。
『うん。じゃあ、それをみんなに話してみたら?』
『大変な方を選ぶのは、つむの自由だよ。あとはそれを、明日チームのみんなにぶつけてみなよ』
《うん。……ありがとう、しーちゃん》
『どういたしまして。あ、消灯時間だから! 明日、頑張って!』
《おやすみなさい!》
トークを終え、スマホの画面を伏せる。
紬はベッドから起き上がり、机の前に座ってノートとペンを手にした。
みんなで手間暇をかけて、教室をまるごと変えてしまうような、居場所を作れる空間。
白紙のページを見つめながら、紬は明日の放課後、みんなの前で話す自分の言葉を、一つひとつ丁寧に紡ぎ始めた。




