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第十四章 空を裂く光

 テレビの前。


 誰も言葉を発しなかった。


 画面の向こうでは。


 人類と怪物の戦いが始まろうとしていた。


 三機の戦闘機。


 地上では地対空ミサイル部隊。


 すべての照準が。


 たった一体のドラゴンへ向けられていた。


 ドラゴンは空間断裂の前で翼を広げる。


 その姿だけで。


 周囲の建物が小さく見える。


 画面越しでも。


 圧迫感が伝わってきた。


「勝てるんでしょうか……」


 美奈が小さく呟く。


 誰も答えられない。


 その時だった。


 戦闘機が動いた。


 三方向へ散開する。


 ドラゴンを囲むように。


 一直線ではない。


 互いの間隔を取りながら接近し、放たれるミサイル。


 同時に。


 地上の車両からも白煙が立ち上った。


 次々と発射される地対空ミサイル。


 空と地上。


 二方向からの同時攻撃だった。


 ドラゴンは動かない。


 避ける様子もない。


 次の瞬間。


 爆発。


 爆発。


 さらに爆発。


 巨大な火球が連続して咲く。


 煙がドラゴンを包み込む。


 画面が真っ白になる。


「やったのか……?」


 恒一が思わず呟く。


 しかし。


 煙の中から。


 巨大な翼が現れた。


 ドラゴンは飛び上がる。


 鱗が剥がれている。


 血のような黒い液体も流れている。


 しかし、致命傷には程遠いように見えた。


「そんな……」


 結衣が口元を押さえる。


 ドラゴンが翼を一度だけ羽ばたかせる。


 それだけで。


 爆煙が吹き飛んだ。


 圧倒的だった。


 そして。


 ドラゴンが戦闘機を見た。


 獲物を見る目だった。


 戦闘機が急旋回する。


 距離を取る。


 しかし。


 ドラゴンは翼を大きく広げた。


 一瞬で加速する。


「速い!」


 恒一は思わず身を乗り出した。


 ワイバーンとは比較にならない。


 巨体なのに。


 戦闘機へ迫る速度が異常だった。


 追われていない戦闘機がミサイルを放つ。


 爆発。


 炎。


 それでも。


 ドラゴンは止まらない。


 一直線に戦闘機へ突っ込む。


 速い。


 戦闘機が旋回する。


 ドラゴンも旋回する。


 その軌道は異常だった。


 巨体にもかかわらず。


 旋回半径が小さい。


 戦闘機が振り切れない。


 ドラゴンが戦闘機の真横へ並ぶ。


 巨大な前脚が振るわれた。


 一撃。


 翼が砕ける。


 火球。


 破片。


 黒煙。


 機体は回転しながら落下していく。


 次女の結衣が悲鳴を上げた。


 テレビの向こうでは。


 残る二機が再びミサイルを放つ。


 爆発。


 今度は胴体へ命中する。


 ドラゴンが僅かによろめいた。


 確かに効いている。


 だが。


 致命傷ではない。


 ドラゴンは追わない。


 ゆっくりと。


 空中で停止する。


 そして。


 口を開いた。


 喉の奥が赤く光る。


 いや。


 赤ではない。


 紫。


 青。


 白。


 眩しいほどの光となった。


 口の中へ光が集まっていく。


 空気が揺らぐ。


 画面越しでも。


 異常だと分かった。


「まずい……」


 佐伯が呟く。


 ドラゴンが狙ったのは。


 同じ高度を飛ぶ戦闘機だった。


 光が放たれる。


 一直線。


 あまりにも速い。


 回避など不可能だった。


 戦闘機が。


 光に飲まれる。


 一瞬だった。


 爆発すらない。


 機体が消えた。


 そのまま光は遥か彼方まで突き抜けていく。


 画面の一部が白く飛ぶ。


 中継映像が乱れる。


 ノイズ。


 砂嵐。


 やがて映像が戻る。


 空には。


 二機目の戦闘機はいなかった。


 完全に消えていた。


「嘘だろ……」


 恒一は震える声で呟いた。


 ドラゴンは再び口を開く。


 今度は。


 地上だった。


 対空ミサイル部隊。


 そこへゆっくりと顔を向ける。


「逃げてくれ……」


 佐伯が言った。


 しかし。


 車両は逃げない。


 ミサイルを撃ち続ける。


 最後まで。


 任務を果たそうとしていた。


 ドラゴンの喉が再び光る。


 さっきより長い。


 嫌な予感しかしなかった。


 そして。


 放たれた。


 巨大な光の奔流。


 地上を薙ぎ払う。


 対空車両と周辺地域が光に消える。


 爆発。


 炎。


 衝撃波。


 そのまま光は市街地へ突き抜けた。


 ビルが崩れる。


 道路が抉れる。


 住宅街が飲み込まれる。


 中継カメラが激しく揺れた。


 岡崎市の一角が。


 一瞬で消えた。


 部屋の中から音が消える。


 誰も何も言えなかった。


 ドラゴンはまだ終わらない。


 最後の戦闘機へ向き直る。


 ゆっくりと。


 口を開いた。


 また光が集まり始める。


 今度撃たれたら。


 終わる。


 対抗できるものはいなくなる。


 恒一はそう思った。


 その瞬間だった。


 画面の端。


 海がある方向から。


 一本の光が走った。


 細い。


 だが。


 異様な速度だった。


 一直線。


 音より速く。


 ドラゴンの胸を貫く。


 衝撃。


 次の瞬間。


 ドラゴンの身体が大きく仰け反った。


 胸に巨大な穴が開く。


 翼が止まる。


 光を溜めていた口元が閉じる。


 ドラゴンは何が起きたのか理解できないように。


 数秒。


 空中で静止した。


 そして。


 巨体が傾く。


 ゆっくり。


 しかし確実に。


 地面へ落ちていく。


 轟音。


 土煙。


 画面が激しく揺れた。


 誰も声を出せなかった。


 数秒後。


 アナウンサーが震える声で話し始める。


『た、ただ今……』


『海上から発射された兵器による攻撃との情報が入っています……』


『詳細は確認中ですが……』


『電磁加速方式による……レールガンではないかとの情報も――』


 レールガン。


 存在は聞いたことがある。


 火薬ではなく電磁力によって秒速2297メートルという高速の弾丸を撃ち出す電磁砲だ。


 日本が開発を進めているという話は聞いたことがあった。


 そして倒せた。


 確かに倒せた。


 だが。


 それほどの兵器を使わなければ。


 勝てない相手が。


 向こうの世界には存在する。


 もし。


 もう一体現れたら。


 もし。


 もっと強いものが現れたら。


 部屋の空気は。


 重いままだった。


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