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辺境の貧乏農民、規格外の土魔法で最強国家を建国する〜追放令嬢と腹ペコ魔王軍を美味い飯で養ったら神まで退治することに〜  作者: 黒崎隼人


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第9話「光を喰らう翠玉の蔓」

 白銀の光線が、空を覆う分厚い木の盾に次々と突き刺さる。

 光が触れた瞬間に木の表面が炭化し、黒い灰となって風に舞い散る。

 焦げた樹液の鼻を突く匂いと、周囲の空気を炙るような乾いた熱が広場に充満する。

 アルトは両足を大きく開き、土に深く根を張るように踏み止まっている。

 彼の手の甲には青筋が浮き上がり、額から流れ落ちた汗が顎を伝って地面に滴り落ちる。

 盾を維持するために、地中から絶え間なく新しい根を引き上げ、傷ついた箇所を塞ぎ続けているのだ。

 しかし、上空に浮かぶ使徒たちの顔には、疲労や焦りの色は一切浮かんでいない。

 彼らは瞬き一つせず、機械的な正確さで無数の光の槍を雨のように降らせてくる。


「アルト。このままでは削り切られるわ。彼らの攻撃は物理的な破壊ではない。生命力そのものを焼き尽くす、純粋なエネルギーの束よ」


 セリアの声が、耳をつんざくような光と木の衝突音を縫ってアルトに届く。

 彼女は盾の隙間から上空を鋭く観察し、ドレスの裾が焦げるのも構わずにアルトの背後に立ち続けている。

 青い瞳は使徒たちの動きの法則性を探り、次に光線が飛んでくる軌道を正確に予測している。

 アルトは奥歯を強く噛み締める。

 ゼクスの大剣がすり抜けたように、彼らの体にはこちらの物理的な攻撃が通じない。

 相手が次元の異なる存在であり、光という実体のない力で攻撃してくるのであれば、通常の植物の強度をどれだけ高めても意味をなさない。

 アルトは視線を足元に落とす。

 そこには、先ほど彼が混ぜ合わせた、辺境の豊かな土と魔界の灰色の砂が一体となった新しい土がある。

 二つの相反する環境を融合させた土は、どんな過酷な毒や熱をも養分に変換する、底知れない器の広さを持っていた。


『俺の命を吸え。そして、あの光すらも喰らい尽くす器になれ』


 アルトは両手のひらを真っ直ぐに地面に叩きつける。

 彼の心臓の鼓動が激しく跳ね上がり、血液の熱が両腕を通って大地の深層へと流れ込む。

 土の粒子がアルトの熱を吸い上げ、紫がかった茶色の土が内側から脈打つように淡く発光し始める。

 広場の地割れから、新しい双葉が顔を出す。

 それは通常の植物のような緑色の葉ではない。

 透き通った翠玉のような輝きを放ち、内部に細い金色の葉脈が走る、ガラス細工のように美しい蔓草だ。

 蔓草はアルトの意思に呼応し、瞬く間に太さを増しながら天に向かって螺旋を描いて伸びていく。


「右斜め上から三筋の光が来るわ」


 セリアの鋭い指示が飛ぶ。

 アルトは視線を動かさず、意識だけで蔓草を操作する。

 三本の太い翠玉の蔓が、空中で鞭のようにしなり、降り注ぐ白銀の光線に自ら巻きついていく。

 光線が蔓に触れた瞬間、今度は炭化して崩れ落ちることはなかった。

 蔓草の表面が眩く発光し、白銀の光を水が染み込むように内部へと吸収していく。

 使徒たちの放った純粋な破壊のエネルギーは、金色の葉脈を通って大地の奥底へと還元され、蔓草をさらに巨大化させるための養分へと変換されているのだ。

 上空で槍を構えていた使徒たちの手が、初めてピタリと止まる。

 彼らの銀色の瞳に、理解不能な事象を前にした微かな揺らぎが生じる。


「今度はこっちの番だ。その光、全部肥料にさせてもらう」


 アルトが両腕を天に向かって振り上げる。

 大地から無数の翠玉の蔓が噴出し、まるで巨大な緑の竜のようにうねりながら上空の使徒たちへと襲いかかる。

 使徒たちは慌てて空中で身をかわし、再び陽炎のように体を透過させようとする。

 しかし、光そのものを養分とする蔓草にとって、彼らの透過能力は意味をなさなかった。

 蔓草は実体のない使徒の体に触れると、彼らを構成する光のエネルギーそのものに直接絡みつく。

 先頭にいた一人の使徒の足首に、太い蔓が巻き付く。

 使徒がもがき、手にした槍で蔓を断ち切ろうとするが、刃が触れた端から槍の光すらも蔓に吸い取られ、輪郭がぼやけていく。


「捕まえた。そのまま引きずり下ろせ」


 アルトが両手を強く握り込む。

 翠玉の蔓が勢いよく収縮し、使徒の体を空中から強引に引き剥がす。

 抵抗する間もなく、使徒は頭から真っ逆さまに落下し、広場の石畳に背中から激突する。

 鈍い衝突音とともに、使徒の背中から生えていた純白の翼が砕け散り、光の羽となって空中に溶けていく。

 無敵を誇っていた天界の使徒が、泥と埃にまみれて地面に這いつくばる姿に、息を呑んで見守っていた村人たちからどよめきが上がる。

 ゼクスが痛む腹部を押さえながら立ち上がり、折れた大剣を杖代わりにして力強く頷く。


「見事だ。実体のない幻影であろうと、大地の牙からは逃れられぬか」


 アルトは額の汗を手の甲で拭い、空に残る使徒たちを鋭く睨みつける。

 落下した仲間を見下ろす彼らの表情から、ついに機械的な無関心が剥がれ落ちる。

 彼らの銀色の瞳が、明確な敵意と怒りの色に染まり始めていた。

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