第八話 致命的な弱点
訓練は途切れず続いていた。チームが入れ替わり、同じようにぶつかり、同じように崩れ、そして少しずつ形となっていく。最初よりは確実に良くなっている。だがそれは、全体の話であって、自分自身が良くなっているのかは、訓練生には分からないことだった。
カイは後方で他のチームの動きを見ていた。視線は動きだけを負っているが、頭の中では別のことを考えている。さっきの戦闘。自分の動き。ユウトの動き。嚙み合っていたように見えた一連の流れ。それでも残る違和感。連携は成立していたが、どこか借り物のような感触が残っている。
「ーーそこまで」
鷹宮の声で区切りがつく。次のチームが下がり、わずかな間が生まれる。その空白に、別の足音が混じった。無駄のない一定のリズムで近づいてくる足音にカイは視線を向ける。入口の方から一人の女が歩いてきた。軍服を着ているが鷹宮とは違う。輪郭が鋭く、細い。姿勢は真っ直ぐで歩幅が均一だ。視線は正面ではなく、空間全体を撫でるように動いている。観察しているというよりは測っているような目だ。
「遅い」
鷹宮が短く言う。
「いえ、予定通りです」
女はそれだけ返して、歩みを止めない。そのまま訓練区画の中央付近まで来ると、初めて訓練生の顔を見渡した。数秒。視線が一周する。
「副教官の神崎ミサキだ」
簡潔な自己紹介。
そのまま一歩踏み出し、地面に残る動線を目で追う。さっきまでの戦闘の痕跡。足運び、位置取り。それらを順に拾っていくような。
「全体としてはまずまずといったところね」
淡々とした声。
「連携は遅いが、致命的ではない。問題は別」
そこで一度、視線が止まる。
カイの位置だった。
「……そこの君」
目線は真っ直ぐ、カイを捉えている。
「前に」
カイは言われるがまま、数歩進んで止まる。視線が交わる。近くで見ると、ミサキの目は冷たいというより、余計なものをそぎ落としたような色をしている。
「名前」
「久城カイ」
「そう……さっきの戦闘、相方に救われたわね」
淡々とした指摘。ミサキはさらに続ける。
「あなたが前に出て囮になる作戦は悪くない。しかし、攻撃を躱すときのステップは味方の邪魔をしていた。要するに行動を潰しているということ。実際の戦場ではこれが命取りになる」
言葉は静かだが、はっきりとしている。
カイは何も言えなかった。
「それに、しばらく見ていたが、あなたは味方を完全には信用していない。明らかに無茶な状況でも一人で対処しようとしている」
視線はカイを捉えたまま。淡々と指摘が続く。
「結果としては勝っているかもしれない。でも、回数を重ねると必ず痛い目を見る」
「……問題ない。一人で処理できるならその方が早い」
自然に出た言葉だった。
ミサキの視線がわずかに細くなる。
「一人の方が早い、ね」
そのまま一歩詰めてくる。
「じゃあ聞く。段々と連携が遅れていることは気づいてる?」
「……わからない」
正直に答える。
ミサキは頷く。
「そう。分からないものは修正できない」
そこで初めて、ほんのわずかに声の温度が変わる。
「だから、”他人に任せる”必要がある」
「全部を自分で抱えると、見えなくなる。決断が早いのは強み。でもその強みは時に弱点にもなる」
カイに言葉が降り注ぐ。返す言葉がないわけではない。ただ、今それを口にしたところで意味がないとなんとなく分かる。
ミサキは視線を外す。
「今回は以上。次」
カイは元居た場所に戻る。目の前では別の訓練生がカイのように指摘されている光景があった。
隣にはいつの間にかユウトが立っていた。
「……今の、かなり言われてたな」
「別に」
決して馬鹿にしているわけではないことは分かる。ただ少し笑って、雑談をするかのように話しかけてくる。
「まあ、そんなへこむなよ」
相変わらず軽い調子で言う。これ以上は特に踏み込んでこない。
この距離感が心地良いと思っていることに本人はまだ気づいていなかった。




