第七話 再接続
「――始め」
カイたちの後も訓練は途切れず続いていた。どのチームも動きは固い。最初だから当然だが、それでもカイよりは形になっている。噛み合わないなりに役割は分かれていて、崩れ方にも一応の筋があった。
足りないものは分かっている。
頭では理解している。だが、実際にやるとなると別だ。他人に任せるという前提が、どうしても噛み合わない。この世界では誰も助けてはくれない。そう思ってきたし、それでここまで来た。一人で全部処理する。それが一番早いし、確実だと、今もどこかで思っている。
「5分休息の後、再開する」
全チームの模擬戦が終わる。区画の緊張がわずかに緩むが、完全に抜けることはない。カイはその場に座り、頭の中でさっきの動きをなぞる。同じ失敗は繰り返さない。状況を分解し、別の選択肢を組み直す。何パターンも想定して、崩れない形を探す。
――一人で完結させる形を。
「何考えてんだよ。そんな顔して」
ユウトの声。
そんなに出ていたのかと思いながらも、視線は向けない。
「いや……何も」
「それならいいけど」
言い終わる前に、ユウトが隣に座る。距離が近い。だが気にならない。むしろ余計な干渉がない分、やりやすい。
「次の戦闘なんだが、俺が囮になってお前が叩くってのはどうだ?」
「なんだと?」
想定していなかった発想だった。囮という役割自体、頭から抜けていた。ましてや、それを他人にやらせるという選択は、最初から除外していた。
だが思い返せば、似たような動きをしているチームはいくつかあった。前に出て引きつけるやつと、横から差し込むやつ。単純だが、崩れにくい形だ。
「俺が注意引く。その隙にお前が入る。それだけ」
「それじゃだめだ。俺が囮をやる。お前が叩け」
即答だった。
危険な役を任せる理由がない。前に出るなら自分が出ればいい。その方が距離も詰められるし、対応も早い。
ユウトは一瞬だけ間を置いてから、肩をすくめる。
「そうか。じゃあ任せた」
それ以上は何も言わない。踏み込んでこない。その距離感がちょうどいい。カイは再び思考に沈む。さっきの形を組み替える。囮を自分に置き換える。前に出て、引きつけて、崩して、そこを叩く。単純だが、余計な迷いが減る。
「おい、時間だぞ」
肩を軽く叩かれる。
思考が引き戻される。
「ああ、行こう」
立ち上がる。さっきと同じ位置に並ぶ。隣にユウト。相手は別のチームだった。どちらも体格がいい。正面から当たれば不利なのは明らかだが、関係ない。
「始め」
合図と同時に踏み込む。速度は落とさない。相手も正面から来る。読みやすい。衝突の直前、軌道をずらす。横へ流す。勢いを殺さずに抜ける。
一人がバランスを崩す。
もう一人が後ろから振りかぶる。見えている。カイは後方にステップを踏む。空振り。その一瞬の隙に、ユウトが入る。
「――っ」
鈍い音。顔面に入る。
起き上がりかけた相手に、カイは間を置かずに蹴りを入れる。完全に体勢を崩す。
「やめ」
合図で止まる。終わりだった。
呼吸は乱れていない。余計な動きがなかった分、消耗も少ない。
「な、悪くないだろ?」
ユウトが軽く言う。
確かに、悪くはなかった。流れは途切れていない。無理もなかった。だが――
「……そうだな」
短く返す。
それ以上は言わない。ユウトも追わない。
列に戻りながら、さっきの動きを思い返す。確かに崩れはしなかった。だがユウトが入る前に、自分一人で処理できた可能性もある。そう考える思考が、自然に残る。
その間にも訓練は続いていく。別のチームがぶつかり、崩れ、立て直す。流れは止まらない。
気づかないうちに、視線が一点に固定されていた。
少し離れた位置で、教官がこちらを見ている。
カイはそれに気づかないまま、思考の中に沈んでいた。




