第三話 選別
要塞都市中央区画。
その最深部に養成学校はあった。
地下に降りるほど、音が消えていく。
浸蝕警報も、外のざわめき、もここまで届かない。代わりにあるのは機械音とどこか息苦しいくらいの静けさだけだった。
……静かすぎる。
カイは施設の入り口で一瞬だけ立ち止まった。
目の前には分厚い装甲扉。出入りする人間は多いのに、誰も話していない。足音だけがやけに硬く響く。
まるで、最初から”そういう場所”みたいだった。
入校手続きはあっさり終わった。
名前と識別コードの確認。最低限の身体検査。それだけ。
志望理由も、覚悟も、聞かれない。
……そんなもの、最初から決まっているからだ。
同じ制服のやつらが前にも後ろにもいる。距離は近いのに、妙に遠い。
年齢は同じはずなのに、誰も”学生”には見えなかった。
期待とか、夢とか、そういう顔じゃない。
ーー生き残るために来た顔だ。
案内された先は広い空間だった。
天井が高い。
中央にはいくつもの演算卓が並んでいる。周囲の壁には大型モニター。どれもまだ起動していない。
……ここか。
空気が変わる。さっきまでの静けさとは違う、張りつめている。
誰も言葉にしないが、分かる。
ーーここで振り分けられる。
自然と、足が止まった。
「ーー注目」
低い声でが落ちてきた。
それだけで、空気が一瞬で締まる。
扉の奥から男が出てくる。軍服。顔には傷。
”現場”の人間。
「これから選別を行う」
短い説明。それだけ。
余計なことは何も言わない。
名前が呼ばれていく。一人ずつ前に出る。
演算卓の前に立ち、操作を始めると、目の前の空間に戦場が投影される。
アークの模擬機体。浸蝕体の影。
動く。
思ったよりも速い。
……いや、速すぎる。
前に出たやつがすぐに崩れる。
判断が遅れていく。対応が追いつかない。気づいた時にはすべてが終わっている。
あまりにも短い。
名前が消え、次が呼ばれる。これの繰り返し。
「久城カイ」
名前が呼ばれる。
足が自然と前に出る。視線が集まるが気にする意味はない。どうせ全員同じなのだから。
演算卓の前に立ち、手を置く。
起動。
視界が切り替わる。
すでに戦場だ。
浸蝕体が動く。考える、指示を出す。
アークが動き一体を処理する。
次。
距離が詰まる。
……速い。
もう一体、同時だった。
間に合わない、判断が遅れる。
動きもズレ、押されていく。
……くそ
前に出て無理にでも処理をする。
ーー崩れる。
横から侵入。隊列が切り崩される。
終わり。
視界が消えた。
静寂が返ってくる。短すぎる。
手を離し、そのまま下がる。
元居た場所に戻ると、また名前が呼ばれる。試験は続く。
誰も助けられなかった。
……あの日と同じ。
ただ、場所が違うだけ。




