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第3問 藤村龍治の動揺病はいつ治るか

 藤村(ふじむら)はシアターでシネマを眺(なが)めていた。

 銀幕(ぎんまく)はノイズで雪嵐(ゆきあらし)のように荒(あ)れている。

 それではシネマが分(わ)からない。

 ただ藤村(ふじむら)の視界(しかい)がチカチカと明滅(めいめつ)するばかりだった。

 光(ひかり)の針(はり)がチクチクと脳(のう)を苛(さいな)んだ。

 目(め)が眩(くら)んだ。

 腹(はら)の底(そこ)から吐気(はきけ)が込(こ)み上(あ)げた。

 藤村(ふじむら)は席(せき)から崩(くず)れ落(お)ちる。引(ひ)き攣(つ)るように嘔吐(えず)く。

 それでもシネマは止(と)まらない。

 薄闇(うすやみ)に覆(おお)われたシアターで、銀幕(ぎんまく)は誘蛾燈(ゆうがとう)のように、観客(かんきゃく)の目(め)を惹(ひ)きつけている。

 観客(かんきゃく)はゴーストだった。誰(だれ)も気(き)づかない。藤村(ふじむら)の不調(ふちょう)に。誰(だれ)も。


 だからかもしれない、銀幕(ぎんまく)から空野(そらの)が飛(と)び出(だ)したのは。

 空野(そらの)は両手(りょうて)でお盌(わん)を作(つく)り、藤村(ふじむら)の前(まえ)に差(さ)し出(だ)した。

 藤村(ふじむら)は吐瀉(としゃ)した。血(ち)に濡(ぬ)れた赤黒(あかぐろ)い薔薇(ばら)を。

 悍(おぞ)ましく忌(い)まわしく穢(けが)らわしい薔薇(ばら)。

「触(さわ)るな!」

 藤村(ふじむら)は叫(さけ)んだ。声(こえ)は掠(かす)れていた。喉(のど)が焼(や)け爛(ただ)れていた。

 空野(そらの)は瞬(まばた)きをした。

 みるみる目(め)が潤(うる)んだ。

 あんなにも煩(うるさ)かった、世界(せかい)から音(おと)が消(き)える。

 ごめんなさい、と空野(そらの)の唇(くちびる)が動(うご)くのが見(み)えた。


 杲杲(こうこう)たる朝日(あさひ)が瞼(まぶた)を貫(つらぬ)き目(め)を焼(や)いた。

 藤村(ふじむら)は目(め)を醒(さ)ました。ベッドから降(お)りようとした。

 立(た)ち眩(くら)みがした。

 世界(せかい)はまだ、ぐらぐらと揺(ゆ)れている。

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