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第2問 空野詩織は地獄に行けたか

「死(し)んだら地獄(じごく)に行(い)けたらいいな」

 そう云(い)った空野(そらの)の横顔(よこがお)は片割(かたわ)れ月(づき)のようだった。


 日(ひ)の暮(く)れる野道(のみち)を二人(ふたり)は並(なら)んで歩(ある)いていた。

 稲刈(いねか)りの済(す)んだ水田(すいでん)は夕焼(ゆうや)けを映(うつ)して燃(も)えている。

 道端(みちばた)には彼岸花(ひがんばな)が点々(てんてん)と咲(さ)いていた。

 二人(ふたり)を何処(どこ)かに誘(いざな)うように。


「地獄(じごく)なんざあるものか」

 藤村(ふじむら)は眉(まゆ)を顰(しか)めて吐(は)き捨(す)てた。

「さあ。それでも私(わたし)は、地獄(じごく)があると信(しん)じたい」

「なぜ、地獄(じごく)を求(もと)める」

 空野(そらの)の貌(かお)が翳(かげ)った。

「私(わたし)に人(ひと)の心(こころ)が無(な)いから」

「………はあ」

「私(わたし)はひどく悪(わる)いことをしたらしいの。私(わたし)には何(なに)がどう悪(わる)いのか分(わ)からなかった。でも、地獄(じごく)に行(い)ったらきっと分(わ)かるわ。こんな私(わたし)だって懺(く)い悛(あらた)めることができる」

「空野(そらの)は何(なに)をしたんだ」

「それが思(おも)い出(だ)せないの。悪(わる)いことをした自覚(じかく)が無(な)いぶん、よけいに悪(わる)いのでしょうね」

「……それで、『人(ひと)の心(こころ)が無(な)い』と言(い)われたのか」

「…うん」

 そんなに苦(くる)しんでいるのに、空野(そらの)には人(ひと)の心(こころ)が無(な)いのか。

「空野(そらの)が信(しん)じているほど、世界(せかい)は正(ただ)しくなんかない」

「…そうかしら」

 空野(そらの)は小(ちい)さな声(こえ)で云(い)った。そして藤村(ふじむら)に顔(かお)を向(む)けて、満月(まんげつ)のように微笑(ほほえ)んだ。

「ありがとう、藤村(ふじむら)くん」


 そこで話(はなし)は途切(とぎ)れた。

 道(みち)が分(わ)かれるところに着(つ)いたからだ。

 そこには野仏(のぼとけ)があった。

 空野(そらの)が野仏(のぼとけ)に向(む)かって瞑目(めいもく)し合掌(がっしょう)する。

 空野(そらの)にとって献身(けんしん)は当然(とうぜん)なのだろう。

 そんな空野(そらの)を藤村(ふじむら)は見ていた。

 睫(まつげ)が長(なが)い。まるで人形(にんぎょう)だ。

 空野(そらの)は無心(むしん)に目(め)を閉(と)じている。

 今(いま)、藤村(ふじむら)が呼(よ)びかけたら、空野(そらの)は目(め)を開(あ)けてくれるだろうか。


「空野(そらの)」


 その声(こえ)で藤村(ふじむら)は目(め)が醒(さ)めた。

 空野(そらの)はいない。

 答(こた)え合(あ)わせはできない。

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