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第1問 藤村龍治は空野詩織の夢を見るか
しめやかな春の明け方、空野が窓から外を眺めている。
「空野」
と藤村が呼びかけると、空野は振り返った。
「藤村くん」
円らな目が藤村を捉えてぱっと開き、雪白の頰が薄紅に色づいた。
「どうしたの?」
空野は尋ねた。その聲は異星語のように響いて、藤村は聴解に時間を要した。
藤村はどうしたのか。
「どうもしない」
空野の唇がチェシャ猫のように弧を描く。
「Doubt」(うそ)
「Why?」(なぜ?)
「もし本当にどうもしないなら、藤村くんは私を呼ばないでしょうから」
藤村は黙りこんだ。
二人きりの教室は羊水の静寂で満たされている。
やがて、仄暗い教室に窓外から光が射しこむ。
光が空野に当たると、空野の姿は桜の葩に変わり、はらはらと散って消えてしまう。
窓の向こうに空が見える。
目が醒めると朝だった。
「夢か」
と藤村は零した。まったく空野ときたら…。
どうしたの?
どうもしない。
「あ」
どうかしていた。
藤村は忘れていたのだ。
空野が死んでいることを。




