第24問 己が未熟を如何するか
秋陽は烈日の如く荒ましかった。
にもかかわらず、空野は爽やかに云った。
「秋めいているね」
藤村は眉を嚬めて冷笑した。
「こんなに暑いのに、何処が」
空野は苦笑して、すっと稲田を指差した。
「ほら、見て。稲穂が黄熟し始めている。秋のしるし」
「………」
藤村は目を凝らした。
藤村には緑にしか見えない。
藤村には見えない秋の色が、空野には見えているらしい。
ふと、空野の指先に、赤蜻蛉が留まった。
空野は瞠目し、息を潜めた。
赤蜻蛉にとって、空野の繊指は、木石らしかった。
赤蜻蛉は、空野の指に只乗りして、平然と翅を休めた。
そして、飄然と飛び去った。
空野は、ぴんと伸ばしていた細腕を、くたりと下ろした。
藤村は呆れた。
「あの蜻蛉、空野に恩返しなどしないぞ」
空野は玲瓏な聲で、凛と告げた。
「蜻蛉さんが勇気を呉れたから、私は敬意を払ったの」
「…………」
彼等の交感に、藤村は共感できなくて、苦しかった。
空野の睛は、秋水の如く清澄だった。
秋水に映る藤村は、真鯉のように沈黙していた。
藤村は目を覚ました。
夢の中の藤村は、空野を邪慳にしていた。
空野は藤村をどのように感じただろう。
餓鬼のように憤る地雷男だろうか。
藤村は羞恥で切腹したくなった。
己が精神的未熟と付き合ってゆく為に、藤村は踏み出した。
藤村はメンタルクリニックに行き、カウンセリングを受けた。
医師等に仕事として介錯を頼んだ。
本当は、己が孤独の狂惑に、誰も巻き込みたくなかった。




