表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/13

第11問 自傷で何が救えるか

 藤村(ふじむら)手首(てくび)()っていた。

 それは生理現象(せいりげんしょう)のように、無意識(むいしき)(おこな)われた。

 赤線(あかせん)がじわじわと(にじ)んでゆく。

 その(さま)をぼんやりと(なが)めている。

 ふと、教室(きょうしつ)(とびら)(ひら)いた。

 (とびら)(ひら)いたのは女生徒(じょせいと)だった。

 彼女(かのじょ)(とびら)()めて、藤村(ふじむら)()て、(かた)まった。

 さて、藤村(ふじむら)自傷(じしょう)は、彼女(かのじょ)無視(むし)されるのか、それとも説教(せっきょう)されるのか。

 同学(どうがく)()()らされたり、教師(きょうし)()()けられたりしたら、(わずら)わしい。

 藤村(ふじむら)彼女(かのじょ)(うと)んだ。

 すると、彼女(かのじょ)()がぱっちりと(またた)いた。

 ()いで、彼女(かのじょ)(かげ)がすーっと(うす)れた。

 まるで(ひと)()えたようだった。

 彼女(かのじょ)はそっと藤村(ふじむら)(あゆ)()ると、(せき)()していた藤村(ふじむら)足許(あしもと)にぺたんと(ひざまず)いた。

 彼女(かのじょ)は、スカートの(すそ)どころか、彼女(かのじょ)()っている(とき)でさえ(こし)(とど)くほど(なが)(かみ)(さき)が、(ゆか)()いても(かま)わない。

 彼女(かのじょ)藤村(ふじむら)をまっすぐに(あお)いで、

「いたい?」

と、(かぼそ)(こえ)で、あどけなく(たず)ねた。

 藤村(ふじむら)(かお)()せたが、(かく)せなかった。

 彼女(かのじょ)(ひざまず)いて藤村(ふじむら)(あお)()ているからだ。

 彼女(かのじょ)からは藤村(ふじむら)(かお)()えてしまう。

 (たい)する藤村(ふじむら)からも彼女(かのじょ)(かお)()えていた。

 その(かお)()(しろ)で、()()()いていた。

 その(ひとみ)()(くろ)で、真空(しんくう)のように負圧(ふあつ)()()まれそうだった。

 彼女(かのじょ)宇宙(うちゅう)のように、(おそ)ろしく、(うつく)しかった。

 いつか、藤村(ふじむら)(くち)からほろりと、

「わからない」

という(ことば)(こぼ)れた。

 自傷(じしょう)()れた藤村(ふじむら)感覚(かんかく)では、(いた)いか(わか)らない。

 脳内(のうない)麻薬(まやく)中毒(ちゅうどく)で、(おろ)かしくも(おな)(こと)()(かえ)す。

 どうすればいいか(わか)らない。

 どうでもいい。

 どうせ(なん)にも意味(いみ)など()い。

 (なに)もかも面倒臭(めんどうくさ)い。

 面倒臭(めんどうくさ)いモノは()らない。

 ()らないモノは()てたい。

 この執着(しゅうちゃく)から()()したい。

 藤村(ふじむら)泥濘(ぬかるみ)(はま)っている(あいだ)も、彼女(かのじょ)はただ()っていた。

 たとえば、神宣(しんせん)()巫女(みこ)のように。

 たとえば、自然(しぜん)荒立(あらだ)水面(みなも)()ぎ、水鏡(みずかがみ)(つき)(うつ)すまで、波風(なみかぜ)()たぬように。

 静虚(せいきょ)に、無為(むい)に。

 彼女(かのじょ)藤村(ふじむら)荒魂(あらみたま)(しず)まるのを()っている。


 パチッ。

 異音(いおん)電光(でんこう)()()めた。

 シーリングライトが耿々(こうこう)(まぶ)しい。

 心臓(しんぞう)がドクドクと(とどろ)いている。

 (ひたい)にべっとりと(にじ)んだ(あせ)()えてゆく。

 藤村(ふじむら)(みだ)れた(いき)(ととの)えた。

 ()こされるならせめて朝日(あさひ)()かった。

 しかし、雨戸(あまど)()じていた。

 昨晩(さくばん)から暴風雨(ぼうふうう)()(くる)っていたので、藤村(ふじむら)(うち)()()められていた。

 そのうえ、今朝(けさ)停電(ていでん)した。

 (なに)()かなかった。

 状況(じょうきょう)をスマートフォンで調(しら)べようとしたが、(みょう)(おそ)い。なかなかインターネットに(つな)がらない。

 扇形(おうぎがた)のアンテナピクトを()るに、Wi-Fi(ワイファイ)との接続(せつぞく)()れている。

 そういえば、停電(ていでん)するとルーターの電源(でんげん)()ちるのだった。

 ラジオなら物置(ものおき)から発掘(はっくつ)できるが億劫(おっくう)だ。

 (ゆえ)藤村(ふじむら)二度寝(にどね)()めた。


 そして(いま)通電(つうでん)による点灯(てんとう)()きた。

 寝覚(ねざ)めが(わる)い。

 自傷(じしょう)過去(かこ)は、(おも)()したくない、(つら)い、(わす)れたい、記憶(きおく)で、歴史(れきし)だ。

 (いた)みを(おぼ)(つづ)ければ、拷問(ごうもん)されたように、()(くる)うだろう。

 ()わった(こと)にして(わす)れてしまえば安楽(あんらく)かもしれない。

 それでも藤村(ふじむら)は、(くる)しむ(こと)(まっと)うしたかった。

 あの真空(しんくう)()えきりたいから、まだ()ねない。

 たとえ正気(しょうき)(うしな)おうが、ペンを()る。

 (うち)()るモノを言葉(ことば)(とお)して(そと)()す。

 (からだ)(うら)()るモノを(こころ)(おもて)(あらわ)す。

 無意識(むいしき)(した)(ひそ)むモノを意識(いしき)(うえ)()かべる。

 客体(きゃくたい)主体(しゅたい)から、問題(もんだい)問者(もんじゃ)から、(つみ)(ひと)から、()(はな)す。

 そうして、インクが()のように(あふ)()した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ