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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第三章 交差する想い
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3 世界皇帝の秘密 ①

 一人で生活していると、次第に生活が退屈になってくるものだ。ダラン総合魔法学校を後にしてから、いつの間にか一ヶ月程度経過していた。しばらくエザール地方のオリアークに滞在していたシーナだったが、新魔法暦二一〇年のこの日、エザール砂漠の真ん中を二人で歩いていた。


「一緒に来てもらって、悪いわね」

「いいえ、気にしないでください。ちょうど休暇が終わるところでしたから」

「なら良かったわ。護衛軍の人たちは基本的に御所にいるものだと思っていたから、あんなところで会えるなんて思ってもいなかった」


 あんなところ、と言ったのは、オリアークのカフェのことだ。


 昨日、シーナは滞在先の宿の近くのカフェで紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。そこに、今真横にいるフランチェスカ・パースが、相席という形でやってきた。最近護衛軍に入ったのだろうと思えるほどに若かった。


「すみません、こちら側、使ってもよろしいですか?」

「ええ、もちろん。どうぞ」


 シーナはそう答えて、イスに置いていた自分のバッグを腕を伸ばして取った。


 その際にふと見えてしまった。レッグホルスターに刺している、世界皇帝護衛軍が調達及び利用しているナイフが。


 服装は私服だからわかりにくいが、何かあったときに備えてナイフを常に携帯しているということだ。かくいうシーナも、レッグホルスターにナイフを一本だけ入れている。が、目に留まるとギラつくので、コートで隠している。


「シーナよ。お名前は?」

「フランチェスカ・パースです」

「フランチェスカ、あなたは世界皇帝護衛軍の一員?」

「どうしてそれを?」


 フランチェスカが目を細めたため、シーナはレッグホルスターを指差した。


「ほら、それは世界皇帝護衛軍のものでしょ?」

「見えていましたか……」

「隠しておいた方がいいわよ」

「シーナさんは観察力があるんですね」

「……ええ、癖で」


 シーナは笑って誤魔化した。


 彼女は、単に退屈凌ぎのために世界皇帝御所に行ってみたいと思っていた。それに、こんな偶然に護衛軍の人に巡り合うことはなかなかないため、この機会を逃すまいと思っていた。


「世界皇帝御所には、どうやって行けるの?」

「そもそも、シーナさんは行けないと思います」

「どうして?」

「事前に血液登録が必要だからです」

「あなたと一緒なら、世界皇帝御所に行ける?」

「……どうして行きたんですか?」


 フランチェスカの質問はもっともだ。シーナは、ここは作り話をすることにした。正直に「興味本位です」などとは言えない。


「私の息子が世界皇帝護衛軍に所属しているんだけど、最近帰ってこないから心配していて。手紙も寄越さないし」

「なるほど。だから、その息子がしっかり生活しているか見たいということですね」

「そういうことなの。協力してくれる?」

「いいですよ」


 よし、とシーナは軽く拳を握った。案外簡単に行けるじゃないか——


「でも、シーナさんが行けるのは世界皇帝御所の手前までです」

「え? 中には入らせてくれないの?」

「当たり前です。勝手に赤の他人を御所に入れたら、私が怒られます」


 シーナは「まあ、そうよね……」と呟きながら、握った手を緩ませた。


「シーナさんの気持ちはわかりましたから、手前までは案内しますから。そこで息子さんの名前を教えてください。私が引っ張り出してきます」


 大変親切だが、それは求めていない。しかし、ここでフランチェスカの申し出を断れば、ますます怪しい人間になってしまう。


「わかった。じゃあ、世界皇帝御所の前まででいいから、案内してもらえる?」

「了解しました! 明日ここを発ちますから、それからでいいですよね?」


 シーナは「ええ、もちろん」と告げ、集合時刻や場所を話し合った。


    ◇◆◇


 そんなこんなで、今朝からフランチェスカに会い、随分と歩いてきたということだ。しばらくの間、ずっと砂だけの景色が広がっていたが、ここ数分でようやく前方に大きな穴が見えてきた。


「これが入り口? ……世界皇帝御所は浮いているって聞いたことがあるけど」

「ああ、これは世界皇帝御陵の入り口です。御所はあっち」


 フランチェスカは空高くを指差した。


 眩しい陽の光を遮るようにして顔を上げてみると、彼女の指先に、確かに空に浮かぶ円盤状の影が見える。


「なるほど。あそこまで飛んでいけばいいのね」

「あそこに飛んで行くことはできません。たとえ空間系魔術やコントロール系魔術を使ったとしても」

「なら、どうやってあそこまで?」

「世界皇帝御陵の中に、あそこに辿り着ける合成魔法が設置されています。その合成魔法によって、いわば、ワープするのです」


 そう言いながら、フランチェスカは巨大な穴に向かって飛び込んだ。


「ほら、付いてきてください」


 シーナも真似して穴に飛び込んだ。




 穴の底に着地すると、ゆっくりと穴が閉まった。


「自動的に開閉するのね」

「私がいるからです。シーナさん一人では何も起きません」

「というと?」


 フランチェスカがトンネル状の道をどんどん進むので、シーナも置いていかれないよう後を追った。


「私は世界皇帝御所で働く人間です。だから、ここの近くにやってくると、自動的に開く仕組みになっています。世界皇帝御所で働く人間と、世界皇帝に招かれた人間が近くに来たら、さっきと同じような動きになります」

「なるほど。招かれた人間というのは?」

「それはよくわかりません。噂によると、世界皇帝自身が求める存在の人間とのことですが、実際にそのような人物が現れたことがないですから」


 ということは、シーナも違うということか。


「ええ、違います。もしシーナさんが選ばれた人間だったら、もっと違う挙動をするはずです。噂によると、もっと急に穴が広がるらしいです」

「それも噂なのね」

「仕方がないです。誰も見たことがないと言うので、本当はどのようなのか知らないのです」


 シーナは「なるほど」と呟きながら、あちこち見回していた。古い地下構造のはずだが、意外にも広くて驚いていた。おそらく、この地下構造自体も魔法で作ったのだろう。


「ここら辺で待っていてください。……あ、息子さんの名前は?」


 フランチェスカは、正方形の台のある部屋でシーナと向かい合った。


「あ、えっと、えっとね、……ベルよ」

「ベル? そんな人、いたかな……」


 咄嗟に出てきた名前が、男性の名前として比較的多い「ベル」だった。今のダランの総合指揮官も「ベル・シュタインバーズ」という名前だ。


「ちょっと影が薄いのかしらね。私が行って探そうか?」

「それは大丈夫です」


 あまり強くなさそうな見た目だが、きっちりとしているそうだ。ダメなことはダメと認識している……今だけは少し面倒なのだが。


 そこに、シーナたちが来た方向から、一人の男性が歩いてきた。世界皇帝護衛軍のローブを羽織っており、明らかに仕事帰りとわかる。


「おう、新人のフランチェスカ・パースか。こんなところで何をしている?」

「お仕事お疲れ様です、隊長。この人が、護衛軍にいる息子さんに会いたいんですって」

「そんなことか。適当に対応しておいてくれ。……あ、後でリラへの調査の計画も更新しておいてくれ」


 隊長と呼ばれた男は、慣れた手付きで合成魔法を発動させ正方形の台の上に乗ると、すぐに姿を消した。


「適当に対応してってことは、私が御所に行ってもいいってことよね」


 シーナは、何の根拠もないただのこじ付けで話した。が、新人ともあるフランチェスカは、上司の言うことに無駄に従う性格だった。


「そうですね。適当にってことは、シーナさんが御所に行ってもいいんでしょうね」


 フランチェスカは、隊長が姿を消した、正方形の台を指差した。


「そこに立っていてください。私が合成魔法を発動させますから」


 言われるがままに台の上に登ると、数秒後、突然台の周りが明るく光った。まるで光の壁だ。


 合成魔法を発動させたフランチェスカが、台を上がってシーナの横までやってきた。


「では、行きますよ」


 直後、視界が光に奪われたかと思えば、瞬きの直後には草原のような場所に出てきた。

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