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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第三章 交差する想い
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6 リリアの記憶(一) ②

 当時のあなたは、成績が下がりつつあった。それまで学校内で最強だったのに、上の下になろうとしていたの。


 それはなぜか。……恋仲だったフローラという男の子と遊びすぎていたのね。


 さらに悪いことが判明した。……そのフローラが、実は悪い子だったの。……はっきり言えば、人身売買グループの子どもだったの。


 教員を使っていろいろ調べた結果、イッサールの周辺を拠点としている人身売買グループがあって、そこの幹部の息子だったらしい。で、あなたと接触し、イッサールに引き連れて行って、あなたをどこかに売ろうという魂胆だったということよ。売る先までは見つかっていないようだったけど、あなたが卒業後にイッサールに来るというところまでは予定していたことも判明している。


 だからフローラを殺した。単に、彼との関係を断てとあなたに言っても、それがうまくいくとは思えなかったからね。




 私はその後、あなたに再び「忘却の魔法」をかけた。その話をしましょう。


 愛していた相手、フローラを失ったあなたは、何をするにも脱力的になった。成績は良くなったと言えるほどではなかった。


 だから、フローラのことは忘れてもらおうと、あなたに二度目の「忘却の魔法」を使ったの。結果はうまくいって、あなたはまた強くなって戻ってきた。


 しかし、その直後、私にも二度目の「忘却の魔法」がかけられた。そして、再度「自分はダランの人間だ」と思い込むことになった。どうしてこうする必要があったかというと、私がカクリスの人間だったときの記憶を完全に取り戻しそうになっていたから。


 最初に述べたとおり、「忘却の魔法」は、意思が強ければ次第に効果がなくなる。そして、効果がなくなってしまえば、忘れていた記憶が戻ってきてしまう。


 では、記憶が戻ってきた私はどうなるか。まず、「自分がカクリスの人間である」ということを思い出し、あなたをどこかのタイミングで殺そうとするでしょう。


 さらに、あの人たちが私に、過去に一度「忘却の魔法」を使ったということも思い出してしまう。そうすると、私は確実にあの人たちを消すでしょう。だから、自分たちの身を守るためにも、私に再度「忘却の魔法」を使う必要があった。


 結果として、あなたは「強いシーナ」に戻り、私に殺される可能性はなくなった。それに、私はダランの人間としてまた動き続ける。


 ……ここまで話せば、わかってきた? あなたも私も、ずっと、あの人に動かされていたの。




 その後、私はあるときを境に、カクリスの人間に戻る。それは、あなたが卒業する直前のこと。ちょうど、卒業式の少し前、私は仕事でカクリスに行く用事があった。フェデラック・ベルン副学長も一緒に。


 そのとき、カクリス魔法学校で、私に「想起の魔法」がかけられたの。「想起の魔法」とは、「忘却の魔法」の逆で、忘れていた記憶を取り戻す魔法よ。


 私はその直後、自分がカクリスの人間であることを思い出した。同時に、もう十分に大きくなっているあなたが、場合によっては自分と互角になる可能性もあることを悟った。


 単なる実力差では負ける気はなかった。でも、戦闘において絶対はない。たまたま体調が悪くて負けるかもしれない。


 そんなことを考えれば、随分と成長したあなたと一対一で戦うのはリスクがあると考えた。


 そこで私は、あなたを校外調査員に任命することにした。校外調査員になれば、校外に出ることが当たり前になるから。すると、もし私があなたをカクリスや現代魔法研究所に派遣したとしても、私は全く何も疑われないで済むということよ。


 つまり、あなたを殺す準備が整えば、あなたをカクリスか現代魔法研究所の調査に派遣する。私と私の仲間たちは、ノコノコ自分たちのテリトリーに入ってきたあなたを集団で殺しにかかることができるというわけ。


 もちろん、そのために、バディとなるもう一人の校外調査員は実力の低い人を選んだ。……アイリスよ。


 もしアイリスが強すぎたら、あなたを確実に仕留めるのに障壁になる。だから、すぐに殺せる相手としてアイリスを選んだ。


 これが、アイリスが校外調査員になった本当の理由。


 しかし、ここまで来ると、とうとうあの人たちも簡単に行動できなくなる。私と本気で戦いたかったらいいかもしれないけど、すでにあの人たちに操られていたことを思い出している私は、そのタイミングが来たら本気であの人たちを殺しにかかるに決まっている。


 彼らは、私の微妙な変化に気が付いたのでしょう。だから、あの人たちはあなたたちに接触した。十分に成長したあなたは、もう自分で考えて行動できる。だから、わざわざ私の様子を伺う必要もないと考えたのでしょう。


 あの人たち……レオ・セガールとその前任に当たる人物、そして、モア・ブルーノだけど、彼らの目的は、あなたが自分で確かめてほしい。私は、彼らがエザールから来ていて、あなたのことをどうにかしようとしていた以外、詳しく知らないの。


    ◇◆◇


 ティーカップをソーサーに戻し、シーナはまたベッドに横になった。


 窓の外から、小鳥の囀りが聞こえる。優しい陽の光が室内を穏やかに照らし出している。


「リリアの遺体はどこに置いている?」

「ダランの地下倉庫に保管している。明日の昼過ぎに、火葬場に持って行く予定だ」

「わかった。じゃあ、午前中に、最後にもう一度だけリリアに会わせてほしい」

「何か確認したいことが?」

「……ううん、何もない。ただ、私を育ててくれた人だから、顔ぐらい見ておきたくて」


 イールスは黙って頷き、また口を開いた。


「アイリスの遺体も同じ場所に置いている。取り扱いはリリア・ボードの遺体と同じだ。……最後ぐらい、会ってやってくれ」

「わかった、アイリスにも会うよ。……彼女には謝らないといけないし」

「謝る? ……アイリスを殺したのはリリア・ボードだろう」

「……そうだね、そうだけど、謝らないといけないことがあって」

「まあ、それは自由にしてくれ」


 今度はシーナが黙って頷いた。


 アイリスのことは、本当に申し訳ないと思っている。事実として、シーナが中途半端なことをしなければ、今だってアイリスは横にいるはずだ。


 だが、もしそうしていれば、リリアのメッセージを聞くことはできなかっただろう。そうであれば、リリアのことをきっちりと知ることはできなかったし、自分たちを取り巻く環境のことを理解することもできなかっただろう。


 シーナは、アイリスが亡くなったことに、絶対に泣いてはいけないと心に決めていた。——殺した人間が、亡くなった人に同情するなんて許されない。


    ◇◆◇


 私はあなたを支配してきた。それは事実。本当にごめんなさい。


 あなたが私を責めるのであれば、それは当然のことだと思うわ。私のことを、責めて恨んで、何度でも殺してやりたいと思ってくれても、私は全部受け止めるつもり。それであなたの心が救われるなら、何でもしてくれていい。私の遺体を殴っても蹴っても、焼いても切り裂いてもいい。


 それでも、私はあなたのそばにずっと居続ける。当初あなたは敵だったけど、ずっと一緒にいたからか、不覚にもわずかに愛情が芽生えてしまった。総合指揮官として、そんな同情心を抱いては半人前かもしれない。でも、今の私はあなたを愛している。あなたを何度も傷付けたけど、……本当に愛している。


 今更言っても、綺麗事を並べているようにしか見えないし、嘘をついているように見える。でも事実なの。


 私を救ってほしいなんて思っていないし、許してほしいとも思っていない。むしろ、私のことを許す必要なんてない。

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