54 ならば──俺も行くか
──しばし、のち
『そうですな……ジェハトはシャルマ司祭及び他の衛兵を招集。エンヴィルは領主に報告をお願いしたい』
『了解』
『了解です!』
衛兵二人はすぐさま玄関から去っていく。
どうやら若い方の兵士はジェハトというらしい。
「とりあえずですけど、一通りかたがつくまで、俺たちは隠れていたほうが良いですかね?」
『ふむ……』
ローベルトは俺を眺め……
『シロウさんは、足さえ隠せば問題ないでしょう』
『ああ、そうだ。サンダルならありますが、よろしければ……』
イツァクがそれを差し出してくれる。
ふむ……
とりあえず、布を巻き、サンダルを履けば誤魔化せる……か。
『あのシロウさん、実は……』
布を巻いていると護衛の少年がおずおずと口を開いた。
『僕も、異世界人の血を引いています。先刻はあんなことを言ってしまい、申し訳ありません』
「異世界の……? もしかして、地球から?」
『はい。祖父が地球の……フランスという国の出身でした。僕の名前のオゼルは、祖父の出身地の名だそうです』
「なるほど……」
パリやマルセイユなんかは知ってたけど、そういう名前の街もあるんだな。
一度訪ねててみたいが……無理そうだな。
「俺は日本の……」
帰郷するまで住んでいたのは東京だが……
「福島から来たんだ。遠い街からそこに帰る途中に落雷に遭ってね」
『落雷で……そんなこともあるんですね』
「ああ。運がいいのか悪いのか」
『ハハ……。ところで、その……アンダーソン君やリゼットさんも、ですか?』
「アンダーソン君はその時に一緒に来たんだ。でも、その前は小さな蜘蛛だったのさ。で、転移してきた際に、俺と“混ざって”しまい、こうなったんだ。で、リゼットはこちらの世界の人だよ。もっとも、500年以上前の……」
『500年前、ですか⁉︎』
『ええ。私はボゾン砦の、かつての城主ハルダルの娘です。そして……一度は死んだ身です』
『! まさか……あの泉の精⁉︎』
リゼットの声に、ローベルトが驚いた。──まさかの知り合い?
『はい。お久しぶりです、ローベルト様』
「会ったことあるんですか⁉︎」
『ええ。魔王を倒すために戦力の結集と連携を行うために、一度砦を訪れたことがあります。その時に、一度。ところで、その姿は一体……?』
『はい。シロウさんたちと共に、封印を解かれたガルナガレスを倒した際に、色々ありまして……』
俺も補足しつつ、説明する。
『なるほど……あのガルナガレスをも。本来ならば何らかの褒章を受けるべきですな、シロウさんは』
「ハハ……とりあえず、落ち着いて生活できれば良いんですよ」
まぁ──今までのブラック環境に比べれば、ね。
おっと、そういえば……聞いておかねばならないことがある。
「あの……すいません。トゥラミシュという女性をご存知ですか? レジューナの助手と称する女性ですが……」
『トゥラミシュ、ですか……』
「はい。“天蛇の塔”近くの神殿に勤めているという女性ですが……」
『ふむ。確か……バフティアール神殿に務める尼僧の一人と同じ名前ですな。そちらとは面識はありませんが……』
「実は……」
一応──伝えておくべきだな。
神殿の尼僧が怪しげな魔導師と通じていたとか、スキャンダルにもなりかねん。
『注意しておきましょう。私も何度もその神殿に行っているのに、どういう訳か一度も顔を合わせたことがないんですよねぇ……』
避けられているのだろうか? それとも……
──更に、のち
家の外で、足音がする。
「来たようだな。一旦、アンダーソン君は隠れて」
『……わかった』
不承不承という体ではあるが、奥の部屋に引っ込んでいく。
「あとはリゼット。ちゃんとした服を着て」
『……はい』
下着同然の姿は流石にマズい。
そしてすぐ後に、ジェハトに連れられた十数人ほどの衛兵たちがやってきた。
いや、衛兵だけではない。神官らしき人もいる。その姿からして、おそらくはローベルトの方が高位っぽいな。それと、ローブ姿が二人。魔導師か。
『まさか、こんなに早く巡礼者たちが見つかるとは……。あまりに残念な形ではありますが』
挨拶を交わしたのち、その神官が口を開く。
この人は、どうやらシャルマというらしい。
『こちらのシロウさんたちが魔族リドヴォーンを倒してくれました。亡くなった方々は残念ですが、もう被害者が出ることはないでしょう』
ローベルトは魔族の遺骸を示す。
『おお……ありがとうございます。これでようやく……ご家族に報告ができます』
「いえ──俺たちは通りすがりの旅人なので。ご遺族の方々に、お悔やみを申し上げます、と」
殺された人たちの遺族の思いはどれほどの悲しさか。
もし故郷でこのような悲劇が起これば、俺も……
『……とりあえず、巡礼者の方々のご遺体を回収せねばなりません』
ローベルトが重々しく口を開く。
『そうですな。……では』
ローベルトとシャルマは連れ立って外へと向かった。
──のち
『……ッ! この臭い……ッ』
『うわっ! これは!』
屋外から、若い衛兵の声がする。
納屋での遺体回収作業が行われているのだ。
『慣れておけ。いつこういう場面に出会すか分からんのだ』
『とりあえず、遺体を袋に入れろ。……丁重にな』
そして──ベテランらしき衛兵たちの声。
まぁ、そうなるよな。ウチの爺さんも、第二次世界大戦の時にそういう場面に遭遇したらしいしね。曾祖父さんは軍艦に乗って南洋諸島まで行ったとか。
まぁ、俺自身は戦争も知らず、平穏に暮らしてきた訳だが──この世界に来てしまったら、今まで通りにはいかないか。慣れるしかないんだよな〜。
ならば──俺も行くか。
──夕刻
気の重い作業は何とか終了した。
何度吐きそうになったことか。
けれど──慣れなければならない。この世界で生きるために。
衛兵たちは遺骨と遺品を整理したのち、引き上げていった。そして簡単な葬儀は明日行うらしい。
気が重くなる話だ。しかし、食わねば生きていけない。とりあえず、夕食の準備をせねば。
ヴェーラが眠らされているので、俺とローベルトが行う。
まずは残ったワニ肉を切り……切り……ウッ!
昼間の情景が脳裏に浮かんだが、我慢。玉ねぎやらにんじんやらと思しき野菜も切る。
そして竈門上で鍋でワニ肉と一緒に炒めた。
……いい匂いだ。
そしてコメや鶏小屋から持ってきた鶏卵などを加え、更に炒める。
『ほほう……シロウさんもなかなかやりますな』
ローベルトの言。
一時期、料理にハマってはいたな。
「ええ……一人暮らしが長かったので」
『なるほど。料理は色々奥深いですからな……』
この人も、か?
ともあれ、いい感じで火が通ったので、塩、スパイスらしきものやスープを加え、さらに煮立てる。
……そうして出来上がったのが、ワニピラフである。
「では、いただきます」
俺たち三人とローベルト、オゼル、そしてイツァク家三人が食卓を囲む。
『おお……これは美味い』
イツァクが頬を緩ませる。
『私は、もう……』
一方、ヴェーラはスプーンを取りもしない。
仕方ないな。
「とりあえず食べるんだ。食べなければ明日は来ない。そもそも貴女は──前に進まねばならないんだ」
生きるしかない。たとえ嵐の中でも進まねばならない。そもそもこの人には、何の罪もないのだから。
『俺たちは──生きるのが 精一杯だった。それを諦めるのは──今生きる者への冒涜だ』
アンダーソン君の言。
少々過激だとは思うが……
『そう……ですね』
そして、彼女はピラフを口に運んだ。
『美味しい……』
一口食べ、涙を流すヴェーラ。
「そもそも貴女は、罪を負うべき人ではないんです。だから……生きてください。もし、罪に思うのならば、亡くなられた方の分まで」
『そうです。我々の女神はそんなことで貴女を咎めたりはしません。大丈夫です。大神官の名において、貴女の無実を証明しましょう』
ローベルトも口添えしてくれる。
『ありがとうございます。ありがとうぞざいます……』
『そんなことよりも、ですね。早く片付けでしまいましょう』
「ですねー」
過去を悔やむよりも、未来に思いを馳せよう。




