53 テルヤさんの件か⁉︎
──直後
『えっ……あなた、方は……?』
目覚めたヴェーラが問う。
『私はエルズミス大神殿の大神官ローベルト。もう大丈夫です。貴女が自分を責める必要はないのです』
『ローベルト……様⁉︎ 何故、ここに……?』
『はい。とある事情でリシュートにおりまして……。たまたま巡礼者の……』
『巡礼、者? あ……ああ……』
『! しまったか!』
慌ててローベルトが口をつぐむ。が、思わぬ他、心の傷は深かったようだ。
『私……私は……ッ!』
ヴェーラは頭を抱え、泣き叫ぶ。
『落ち着いてください。あなたを罰するものはありません。大丈夫です』
『……ッ!』
すぐさまローベルトは彼女の顔の上に掌をかざす。
そしてあふれる温かい光。
『あ……あぁ……』
再び流れる涙。しかしそれは、今までとは違うもののようだ。
『私、は……生きていて良いの、ですか?』
『はい。あなたの罪は、何もありません』
リドヴォーンの仕業であるしな。彼女たちが背負うべきではない。
『ですから……何があったのかを話して欲しいのです。あなたたちの身柄は、私、大神官ローベルトが責任を持って保証します』
『はい、ありがとうございます。それでは……』
ヴェーラはローベルトに対し、これまでの経緯を話し始めた。
その内容は、ある程度推察がついていたものであった。
にしても……この手口はえげつないな。
あの──リドヴォーン。魔族、というだけはあるか。
──しばし、のち
ローベルトによる事情聴取は終わった。
ヴェーラは再び眠りにつかされている。おそらくは──精神的な負荷を考慮してのものだろう。
とりあえず、一つ。
「あの──お聞きしたいのですが……」
『はい? どのような?』
「我々の、処遇についてです。我々──異形になってしまったものはどういう扱いを受けるのでしょうか?」
『ふむ……』
ローベルトは、顎に手を当て、わずかに黙想した。そして、
『あなた方が危険な存在でないことはわかりました。私の名においてこの周辺都市の各領主に知らせておきましょう。それならば、あなた方を害するものは……』
えっ、いやあの……
「その──我々はレジューナに追われる身であるので、あまり……」
『ああっ! そうでしたな。申し訳ない』
「いえ、お気にせず。とりあえず、どこかでひっそりと生きて行きたいのですが……」
『ふむ……そうですな。ここから街道沿いに北に行った先の、セルキア神殿』
「セルキア──神殿?」
初めて聞いた場所だ。エルズミスの大神殿とは別の場所か。
『ん? ご存知ではない?』
『あのっ、シロウさんは辺境の出なので……』
『あっ……そう、なのですか?』
「えっ、えぇ……」
リゼットのフォロー。
う──むぅ。もしかして、一般常識レベルの話であったか。
『そう……でしたか』
「申し訳ありません。この辺の常識には疎く……。迷惑をかけてしまっていたら申し訳ない」
『あっ、いや……お気にせず。セルキア神殿とは、アルタワールの少し北にある神殿です。そしてその北部に広い森が広がっているのですが、その中に集落跡があります。とりあえずは、そこで短期間過ごされてはいかがでしょう?』
「なるほど。集落跡、ですか? そこの住民は何かあってそこを後にしたんでしょうか? ここの住民たちみたいに……」
『ええ、実は……』
一瞬、ローベルトは口ごもる。何か──またマズい事でも?
『この件は内緒にしていただきたいのですが……セルキア神殿近くに“鉄の鳥”が墜ちたことがあるのです。その“鳥”には、多数の人が乗っていました』
「えっ?」
それって、まさか……テルヤさんの件か⁉︎
『信じられないのは分かります。私でも、この目で見るまでは信じられなかった……。巨大な鉄の翼と中空の胴体……。その中に、多数の人が乗っていたのです』
「その人たちは、どうなったんです? 住民ということは、生き残った人達がいた、と」
『ん? ええ。そこには50人ほどが乗っていたようです。十数人が亡くなりましたが、それ以外の方は、一時的にそこに……』
「生き延びた方がいたんですね⁉︎ 良かった……」
テルヤさんに託された使命を果たすことができる。
『ん? ええ……』
ちょっと引かれた。
『あの……シロウさん?』
リゼットの声。
ン? あ……マズった?
『あの……この件について何かご存知で?』
「う……む」
とりあえず、だ。
『俺たちが異世界から来たことを言うべきかな?』
“念話”で問う。
『大丈夫 だろう』
『多分、この方ならおかしな事にはならないのでは?』
……ふむ。
「あの……すいません。実は、俺とアンダーソン君はこことは違う世界から来たのです。おそらくはその“鉄の鳥”と同じ世界から来ました」
『! やはり、ですか』
悟られていた、か?
「ええ。あの時は、落雷を受け、アンダーソン君と共にこの世界にやってきたのです。あの時点では、アンダーソン君はまだ、小さな蜘蛛だったのですが……」
『! なるほど……』
「こちらにおいては異世界人はあまり良くない扱いを受けているそうですが……」
とりあえず、聞いてみる。
『あ……いや、大丈夫ですよ。今の私たちは、異世界人を排斥するつもりはありません』
「え? ……でも、あのアルセス聖堂騎士団は……?」
異世界人を“排除”しているという話だったが……
『あの連中は何というか……盲目的で』
「なるほど」
所謂カルトというヤツだ。大学時代、色々変なのに声をかけられたりしたな。
みんな──滅べば良いのに。
『……どうされました?』
「あ──いえ」
思わずイラッとしてしまった。
「すいません。昔、少しばかりそういう連中に関わってしまって……それを思い出してしまったんです」
『ああ……いるんですね、そちらにも……』
「はい……」
顔を見合わせ、お互い苦笑する。
どこも同じか……世知辛いね。
それはともかく、だ。
「実は……」
テルヤさんの件を伝える。ついでに、俺とアンダーソン君のことも。
『! なるほど……。実は生き残った方々は、既に移動して別の場所に暮らしています』
「別の場所、ですか」
一度、そこに行く必要があるか。
『ですが、亡くなった方の墓自体はセルキア神殿の近くにあります。良ければ一度行って、報告してあげてください』
「分かりました。必ず」
それに、確かめる必要がある。
レジューナが墓を暴いている可能性があるからだ。
『とはいえ、シロウさんたちも追われる身……集落跡は、少々危険か』
「う〜む……。とはいえ、ごく短期間なら問題ないでしょう」
『そうですか。では……』
ローベルトから、墓と集落跡の大体の場所を教わる。
生き残りの人たちが暮らしている場所も聞いておきたいが……万一、俺たちがレジューナに捕まる事態を考えて断念した。
『ああ、そうだ……。ワタリ・ゴロウという人物はご存知ですか?』
「ワタリ・ゴロウ……? いえ、おそらくは知らない人です。どういう人物なんです?」
渡・吾郎? 日本人っぽい名前だが……
『はい。生き残った方々のリーダー的存在でした。“ゴロウ”と“シロウ”と似た名前だったので、つい……』
「そう、ですか……。とりあえず、テルヤさんのことは、その人に伝えておきます」
『お願いします』
ふ〜む。当時は新聞も取っていなかったし、ネットのニュースで見た程度だったしな。
よく見ておけば……とも思うが、流石にそこまでは予想できんよ。
まぁ……何にせよ、新たな目的はできた、か。
『ところで……あなた方が転移してきたのはそのセルキア神殿ではありませんか? ひと月ほど前に』
をう、ローベルトが問うてくる。
「いや……目覚めたのがベルガント邸の中だったので、実際にどこに転移したのかは分かりません。目覚めたのは、半月ほど前でしたね」
『ふむ……我々の神殿の巫女が、セルキア神殿に“何者か”が現れたのを感知したのです。すぐに確認のため衛兵を派遣したのですが……既にその姿はありませんでした』
「なるほど。レジューナは“転移”を使っていたので、俺たちをベルガント邸へ運んだのかもしれません」
そして俺やアンダーソン君を分離、と。
と、なると……セルキア神殿自体へ行くのは止めておいた方がいいな。レジューナが見張とか置いているかもしれんし。まぁ、遠くから眺めるだけなら良いか。
とりあえず、行き先も決まったか。




