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52 その前に一つ質問を

──直後

『待ちなさい』


 と、そこにローベルトの声。


『はっ! しかし……』

『討て! ヤツは危険だ!』

『は……はい!』


 護衛の少年は剣を構えつつ、当惑の声を上げていた。

 しかしその一方、兵士二人は構わず斬りかかってくる。


(ッ! やはり──そうなるか。このままではマズい──な)


 そう思った直後、


『しろー!』

「! お──うッ!」

『‼︎』


 アンダーソン君が投げてよこした薙刀を受け取り、若い兵士の斬撃を防御。何とか凌ぎ切った。

 しかし──


『もらった!』

「ッ!」


 体制の崩れたところを、年嵩の方が斬りかかってくる。

 しかし直後、


『させません! “衝弾”!』

『ぐあっ⁉︎』


 そこを、リゼットが放った不可視の衝撃波で弾き飛ばされる。


『ぬ……うっ⁉︎ だがッ』


 年嵩の方まはすぐさま立ち直り──しかし、遅い!


「……おぉッ!」

『なっ……うおっ!』


 すぐさま柄の石突で脚を払ってやる。

『エンヴィルさん!』


 若い兵士の声。

 直後、


『くらえ!』

『うグッ!』


 アンダーソン君のタックルが、一瞬立ちすくんだ若い兵士を跳ね飛ばした。

 とりあえず当面の危機は回避。で、だ。 ……どう出る?

 俺は武器を構えつつ、ローベルトたちの出方を伺う。


『〜〜』

『〜〜ッ‼︎』

「! む──う?」


 と、ローベルトが何やら言葉をかけ……不肖不承といった顔で護衛が剣を収めた。


「どういう──つもりです?」

『まずは事情を聞くべきでしたな。いきなり斬りかかった非礼を詫びます』

『し……しかし!』


 やはり護衛の少年は納得いってはいないようだ。

 とはいえこのローベルトという御仁、話は通じそうだ。

 ならば、とりあえずの説明すべきか。


「ああ、申し訳ありません。我々に配慮していただき、ありがとうございます」


 一礼。そして、


「まずは、俺、そしてこのアンダーソン君の姿ですが……彼……じゃなく彼女は元々小さな子蜘蛛でした。しかし、とある魔術師の実験でこのような姿になってしまった訳です。その、貴方方が言う魔族のリドヴォーンとやらとは関係ありません」


 とはいえ、こんな説明で納得してくれるかどうか。


『ならば、あの臭いは何だ!』


 ──だめか。

 立ち上がりつつそう言うと、年嵩の兵士──エンヴィルというらしい──は納屋へと向かう。後を追う若い兵士。

 そして、その扉に手をかけ……


「あー、そこは覚悟なく開くのはやめ──」

『その手には乗らん!』


 そうして彼らは扉を開き──


『ッ! ……これはッ⁉︎』

『えっ……ウッ、ああ゛ーッ! ……ンぐっ、げふっゥ!』


 あ〜あ、中を見た若い方が盛大に吐いてしまった。まぁ、そりゃあんなの見せられたのなら──な。年嵩の方は幾らか耐性あるようだがな。おそらく魔王戦役での従軍経験ありか。

 けど──さ。


『やはり、この男は……!』


 そう──なるか。

 護衛の男が再び剣を抜こうとし──


『待ってください! その方々は私たちを救ってくれたのです!』


 イツァクが擁護してくれた。


『馬鹿な! その男は洗脳されて……』

『あー、そのリドヴォーンとやらなら倒しましたよ? 私たちで』


 と、リゼット。


『ふむ……』


 どうやら納得してくれそうな……


『待ってください! あんな痴女の言うことなど信じられますか⁉︎』

『む……う?』


 護衛の言に、一瞬当惑するローベルト。


「お──う、確かに」


 ほぼ裸だしな。そういう評価にもなるか。


『何でシロウさんまで同意してるんです⁉︎』

「あ──いや、そのな」


 キレているリゼット。しかしその前に、確認しておくべきことがある。


「すいません。色々ありますけど──その前に一つ質問を」

『……はい?』

「このあたりのことはよく分からないんですが──この地では、女性があんな格好しているのは普通なんです?」

『違います』

「ですよね〜」


 食い気味の返答。そして、思わずそう返す。


『ちょっとぉ〜! あんなッ……あんなことやッ! こんなことまでェ! ヤっおいてっ……なんでっ! なんでそんな扱いなんですぅ〜⁉︎』

「む──う?」

『う……ん?』


 ま、まぁ、身に覚えがないわけではないが──スルーだ。

 ならば現状、あちら側が混乱している間に、だ。


「と、とりあえず、ですが──討ち取ったリドヴォーンはこの母屋の中にあります。思うところはいろいろあるとは思いますが──まずは確認していただいてからでもよろしいですか?」

『えっ? あっ、そうするしか、ない、か……?』


 ローベルトの返答。

 何とかなった──か?



──室内

 俺はローベルトたち四人を、俺たちが泊まった部屋へと案内した。そして、討ち取ったリドヴォーンを示す。


「これが俺たちが討ち取ったリドヴォーンです。貴方の見たものとは違うかもしれませんが……」

『む、ぅ。お、おお……これは! 間違いない! あの時、確かに戦場で見た……ッ!』


 エンヴィルの言。


「その──前の戦役の時に、ですか?」


 年齢的に、従軍していても不思議ではないしな。


『ええ……。疑って申し訳ありませんでした。あの時はまだ経験不足で、恐怖でまともに動けませんでした。立ちすくむ間に戦友が何人も……。その仇をとっていただいてありがとうございます。私は、いかなる罰も……』

「ああ──いや……間違えても仕方がないですし」


 そういう経験があれば、俺たちを疑っても不思議じゃない。


「それよりも──そう証言していただきありがたいです。私たちとしては、それだけで十分です」


 一つ頭を下げる。


『なるほど……これは間違い無くリドヴォーン、と。ところでシロウさんとアンダーソンくんでしたか? は何でそんな姿なんです?』


 と、ローベルト。

 やはり、そうくるか。


「それは──」


 とはいえ、どう説明したものか。

 とりあえず──俺が旧ベルガント邸で目覚めた以降のことだけを話す。


『ほう……レジューナが、ですか』


 何やら剣呑なローベルト氏の声音。そして、眉間によるシワ。


「えっ……何か、ご存知で?」

『いや、すいません。……少しばかり取り乱しました』

「アッ──はい」


 おそらく──ローベルト氏はレジューナと関わったことがあるのだろう。だが、これ以上踏み込むべきではないな。

 それなら──


「とりあえず、イツァクさんの御家族の処置をお願いしたいのですが。奥様がリドヴォーンに操られていました。その時の記憶も残っているようなので──おそらく心理的外傷(トラウマ)がある可能性もあります」

『なるほど……』



 その後、ローベルトはイツァクと話し始めた。リドヴォーンが現れた時点からの、おおよその状況などを聞き取っている。そして、


『では……まず娘さんから』


 トゥレのベッドに歩み寄ると、その顔の上に掌をかざす。

 掌から発せられた暖かい光が彼女に降りそそぎ──


『……ふむ。大丈夫でしょう』


 彼から感じる“力”。これなら問題ないだろう。

 そしてローベルトはトゥレをそっと揺り起こす。


『あ、ンぅ……え? この人、たちは?』


 当惑している。

 当然だろう。目覚めたら見知らぬ人がまた増えているのだ。


『私はローベルト。エルズミスの神官です。安心してください』

『ローベルト……大神官様⁉︎ 魔王を倒した一行の一人……⁉︎』


 ふむ。感じる“力”からして地位の高い人物だとは思っていたが、そこまでとはな。

 そして、身体の震え。やはり、操られていた時の罪悪感か。


『はい。この件については何の心配もありません。あなた方家族には何の罪もない。シロウさんたちがその元凶を倒してくれました! 何も恐れることはありません』

『ああ、はい……』


 その立場の人間がそう言ってくれるのはありがたい。

 ともあれ、トゥレは落ち着いた様だ。


『イツァクさん、この子をお願いします。では……』


 そしてローベルトと共にヴェーラの方へ向かう。


「この人は、リドヴォーンに精神を乗っ取られ、操られていた様です。その記憶による後遺症がなければ良いのですが──」

『ふむ。それは少々厄介ですな』


 一つうなずき──トゥレと同様に掌をかざす。

 淡く、柔らかな光。しかし、


『む……う?』


 何かあったのか? 声をかけたいが──治療に専念してもらうべきだな。


『かなり……奥まで入り込まれていますな。少しばかり面倒ですが……ッ!』

「!」


 その掌から、再び光が溢れた。

 これは眩いがしかし、優しく──暖かい光。


『ンン……あ……』


 そして微かなうめきと共に、ヴェーラは目覚めた。

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