55 身に覚えは……ある
──夕食後
俺はローベルトとイツァク一家について話し合う。
『イツァクさんご一家に関しては、とりあえず我々で保護しようと思います。アサーヴか、リシュート辺りで……』
「リシュート、ですか。確か──ザファル君のいる街か」
思わずそう呟く。
何か、随分と昔に感じるが──数日前の出来事なんだよな。
『ザファル……誘拐された少年ですか?』
「! あの子のことをご存じですか!」
ん? 何やらニュースになっている?
「ええ。リシュート近くの水場で一晩過ごしたんですが──たまたまその時に人攫いたちがやってきまして。後は流れで」
『! なるほど……ふむ』
「あの──その子は無事なんですか? 街の入り口までしか送れませんでしたが」
『ええ、無事保護されていますよ。誰に助けられたとかは、曖昧なことしか話してくれませんでしたが……この件も、シロウさんが関わっていましたか』
良かった、とは思うが──もしかして面倒なことになりそう?
「いやまー、たまたまですよ? とりあえず──彼が無事保護されて良かったです」
そう。たまたまだ。お互い、運が良かっただけだ。
それよりも──だ。
「そういえば、あの子はどんな家の出なんです?」
『リシュートでも有数の織物屋、イスキル商会のご子息ですよ。身代金目的で誘拐されていたところを、たまたま通りすがった旅人助けられたとのことですが……この件もシロウさんが関わっていたとは……』
えっ……あのザファル君の実家って──そんな豪商だった? いやまー、身なりも良かったし、そこそこの家柄だとは思っていたけれども──
『シロウさんたちは、それなりの表彰・叙勲を受けるべきなんでしょうがね……』
「ハハ──今はそんな栄誉はいいですよ。まずは、穏やかに暮らせる場所が一番です」
『そう、ですか』
ローベルトが苦笑を浮かべる。
まぁ、父方の祖父さんは勲何等とかもらっていたけどな。とはいえ今の俺がそこまでの栄誉を受けるほどではないんだよな。
ああ──そうだ。
「あの時、ザファル少年が俺たちに『お礼を……』と言っていたのですが、その代わりにイツァクさん一家に商会から仕事を紹介してもらえませんかね? 出来れば──ですが」
『ふ……む。そうですな。とりあえずはアサーヴで、とも思っておりましたが……』
なるほど。しかし、だ。
「アサーヴって、亡くなられた方の遺族がいますよね? だとすれば、お互い気まずいことになるでしょうし──出来れば、幾らかでも離れた場所の方がよろしいかと」
『……確かに!』
イツァクさん一家に罪はないとしても、だ。恨みを向ける遺族はいるだろう。日本でも、そういう事例は幾つもあった。これからも……おそらく起きるであろう。
「そんな感じで──イツァクさんをお願いできれば良いかと」
『分かりました。承りましょう。正直、可能かどうかは保証しかねますが』
そこまで堅苦しくなくても良いとは思うが──この人に任せておけば間違いないであろう。
「いえいえ、そのお言葉だけでも有り難いです」
とりあえず、一安心といったところか。
──夜半
俺とアンダーソン君は寝床に潜り込んだ。
こんな時間になったのは、ヴェーラをはじめとするイツァク一家の見守りをしていたためだ。
今は、交代したローベルトとオゼルが彼らを見ていてくれている。
とりあえず、眠らねば。昨日はほとんど眠れなかったしな……
が──眠れん。昨晩はほぼ徹夜だったんだがな。どうも──あの光景が脳裏に浮かぶ。
それこそ異世界人の骨格が、われわれ地球人類のものとは多少なりともかけ離れたものであれば多少マシではあっただろうが──あまりに“似過ぎ”ていた。というか──ほぼ同じであった。まぁ、ボゾン砦の件で何となくは分かっていたことだがな。
それも、当然か。オゼル君のような混血も出来るレベルだしね。
故に、精神的なダメージは大きすぎる。
それでも、何とか乗り越えねば──乗り越えね、ba──ン?
何やらベッド脇に、人の気配が。そしてそれは、布団に潜り込んでくる。
誰だ? この柔らかい感触──は、
「リ……ングッ!」
『大丈夫ですよ、シロウさん。私です』
口を押さえられた。
リゼットか。しかし──なぁ、
『いや……あのな? イツァクさんの家だし、他の人もいる訳で……』
『そっ! そんなっ、誤解です! 私もっ、私もああいうことは嫌ではないですけど! そっ、そう言う解釈をされるのは遺憾です!』
『お……オウ』
とりあえず“念話”で会話。
色々それ以外の情報も流れ込んでくる訳だが──ふむ。
『あのっ! シロウさん⁉︎ 私のこと、“痴女”とか思ってません⁉︎ 一応お姫様ですよッ、私は!
元、それも傍系のですけれどっ!』
『う──む。ま、まぁその辺は──俺からは何とも』
『ぐぬぬ……まぁ、いいです。あの……眠れてませんよね、シロウさん。本当に、心配です』
『えっ、ああ──確かに』
いきなりトーンが──変わるなぁ
まぁ、確かにグロい光景を目にしてしまったしな。それに──肉親を失った家族のことを思うと……色々消耗しているな。
『シロウさんはまだ若いですし……そういう時はこのお姉さんを頼ってくださいね? シロウさんを安眠させてあげましょう!』
『えっ』
魔法か何か? でも、安眠って──悪夢なら見そうなんだが。
『あのっ、疑ってますね? それならば、実力行使です!』
『えっ──ちょっ⁉︎』
リゼットは俺のシャツを捲り上げると手を突っ込んできた。
『え゛? なっ、何⁉︎』
そして俺の胸の中央──メタルスパイダーゴーレムに貫かれた傷跡だ──に掌を押し付ける。
『何、を──ン?』
そこから急激に、暖かい“何か”が流れ込んできた。
『これ、は』
『私の“力”です。心身を癒す“力”……。私の母は、エルズミス大神殿の巫女でした。私にも、その“力”が受け継がれています』
『……そうか』
『エルズミスの“巫女”には、周囲の魔力を集める“力”などもあるのです。病弱であった私の肉体それに耐える事ができず、死に至りました。けれどこの新たな肉体は十分に耐えてくれるようです』
『そう、だったか』
『はい。それに……その』
『?』
何やら恥ずかしそうな感情が伝わってくる。
『シロウさんと、心身ともに深く“繋がって”しまったので……シロウさんとの間に“力”の“回路”が出来ているのです』
『お……オウ』
身に覚えは──ある。
『なので、私をどこかに置いていこうとかしないでくださいね?』
『ハ──ハイ』
いやまー、今更彼女をどこかに置いていくつもりなどはないが。
──って、
『疲れました〜〜。おやすみなさい〜〜〜』
そのまま寝てしまった件。
いや待て。せめて彼女のベッドに移さなければ。
そうは思ったものの、俺自身も急激な眠気に襲わ、れ──




