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29 あそこにしよう

──空中

 再び風に吹かれ、空をゆく。

 眼下に流れ行く風景は赤茶けた大地ばかりだ。この辺りはほぼ乾燥地帯なのだ。

 しかし──視線を上げれば、はるか遠方に緑色のベルトが見える。

 あそこまで行けば、水には不自由しないだろう。そして、食料も。しかし──どれほどの距離があるか、だ。

 と、


「──ン?」


 眼下を黒く大きい“何か”がとてつもない速さで走り去った。

 影──か。

 十字形の──翼らしきもののある“何か”。

 にしても、でかいな。鳥なんかよりもはるかに……。

 もしかして、ファンタジー小説ではお馴染みのドラゴンか何かか? だとすればラッキーだ。──まさかこんなに早くお目にかかれるとはな。

 いや、敵対視されなければ、か。

 下手すりゃ通りすがりにドラゴンブレスで消炭にでもなっていたかも知れん。

 期待と不安を込めて視線を上げる。

 が……


「──あれ?」


 影の飛び去ったと思しき先を見ても、その影の“主”らしきものの姿は見えない。

 あっという間に視界の彼方へと飛び去った?

 いや──そもそも“いなかった”、のか? 何の音もしなかったしな。あんなスピードで飛ぶ“もの”がいたら、相当の風切り音がしそうなものだが。

 まさか、とは思うが……もしかして“アレ”は、地球上のモノなのではなかろうか?

 月や星空の件もある。

 この場所の上空にあたる場所を“何か”が横切った結果、かもしれない。

 そしてそれは……おそらく航空機。先刻のものは、その影なのではなかろうか?

 一瞬ではあるが、あの十字形のシルエットは航空機のものの様にも見えた。

 テルヤさんの言を思い出す。

 テルヤさんの乗る旅客機は、おそらくこの世界に“重なる”場所に差し掛かった。そして、落雷の様な“何か”があったために、テルヤさんたちは“こちら側”に転移してしまった……。

 仮説、ではあるがな。

 ……もしかして今、俺たちが落雷を食らったら、また地球に戻れるんだろうか?

 いや──赤道近くだろうから、大海原のど真ん中か。

 ……まず死ぬな。

 というか──そもそも落雷を受けて無事な可能性は低いがな……。



 おっと──それよりも、だ。日がだいぶ高くなってきたな。


「そろそろどこかに降りた方がいいな」


 おそらく地球で言えば──8時を回ったあたりか。ぐずぐずしていると気温が上がって干物になってしまう。またしても乾燥地帯の上空だしね。


「他にオアシスは──ン?」


 “何か”……“見えた”ような?

 そちらに視線をやる。と、


「おっ」


 灌木の茂み。そしてその向こうには、岩山。

 その岩山には、なにやら建物らしきものも見える。高くそびえ立つ壁も。

 何というか──砦っぽい? ──ああ、そうだ。

 確か──ゼファル君の話ではこの辺りに放棄された砦があると言っていたな。魔王軍が一時期拠点にしていた砦だったか。その名はボゾン砦。数年前までリシュートの軍が駐屯していたそうだが、今は無人になっているという。

 もしかしたら、水もある可能性が高い。井戸とかもあるだろうしね。食料は、大サソリの残りがあるから今日一日くらいは大丈夫だが……。流石に乾燥地帯の屋外で日中を過ごすのは避けたい。そのための装備が全然足りないしな。

 それに……何か“惹かれる”ものがある。

 よし。


「あそこにしよう」

『そうだな』


 アンダーソン君も同じ考えのようだ。

 そして俺たちは、その砦に降りることにした。



──地上

 俺たちは茂みの中を廃砦へと向かう。

 なにも──出なければ良いんだがな。

 って、うおっ⁉︎

 危うく転びそうになる。


『どうした?』

「何かに蹴つまずいたんだよ。えっと──コレ、か」


 地面から突き出た淡い茶褐色の棒。そして、その端は膨らみ、丸みを帯びている。コレは……


「骨──か」


 長骨の端だ。大きさや太さからするとヒトぐらい? とはいえ大腿骨か上腕骨か分からんけどな。


『ホネ? 確か──ウロコや 毛皮の あるヤツの 身体の 中にある 棒だよな』

「おう。そうだけどさ……」


 それ食べたことあるん? 昔は数ミリレベルの身体だろ?


『ベルガント邸 だっけ? だと 何度か 食べたな。小さくて 毛むくじゃらで 尻尾の 長い ヤツ』

「おう……」


 そういえば、あの頃のサイズなら小型脊椎動物も捕食できるか。で、獲物は多分ネズミの類だろうな。つか、あそこにそんなのいたのかよ! 全く気がつかなかったな。いや、アンダーソン君が片付けていただけかも知れんけど……。

 ……。

 それよりも、だ。

 おそらくこれは、ここでの戦いで散っていった人の骨。それなりの激戦地だったらしいしな。こうして人知れず埋もれていった人も少なくないのだろう。

 アンダーソン君と土を掘り、それを埋める。そばに落ちていた肋骨らしき骨や幾つかの骨片とともに。

 そして落ちていた木の枝を立て、墓標とする。

 ──よし。

 名も無き兵士の冥福を祈らねばな。掌を合わせ……


「南無──」


 と言ったところで気づいた。……この世界で“成仏”して良いのか?

 いや、そもそも、だ。ここは異世界というには地球から近い場所っぽいしな。おそらくは大丈夫だろう。仏様も異世界人を拒絶するほど狭量ではあるまいよ。確か、親父の葬式の時か何かに、顔見知りの住職が三千世界とか云々言ってたんだよな。そんなに多次元世界あるならここもその範疇だろうさ。

 だから……俺たちに構わず往生してくれ。

 そう思い、祈る。

 ……化けて出られても困るしね。



 そして俺たちは再び砦の方へ向かって歩み始めた。

 半ば崩れた城壁と、破壊された巨大な門。その前にある堀と土橋。おそらくは物見の塔であったものの残骸。

 おそらく高さは5mほどか? その大きさからして、かなりの規模の砦だった様だ。

 数百年前に造られた砦を魔族軍が接収、改修工事をしたとの事だ。

 魔族軍の襲来と接収、そして撤退戦の二度の大きな戦い。そして戦後にそこを占拠した魔族との一戦。そうした戦乱が繰り広げられたという。そして、その二度目の戦いでこの砦は大きく破壊されてしまった。

 う……む。

 砦が大きく破壊されるほどの激戦──か。どれほどの血が流れたやら……。先刻の骨は、その氷山の一角か。

 何も“出”なければ良いんだがな。

 いや、一時期とは言えリシュートの軍が駐屯していたんだからな。その辺は大丈夫だろう。

 おそらく……そう、多分。

 そして俺たちは、破壊された門を潜って砦の中に足を踏み入れた。

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