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28 この辺でお別れかな?

──しばしのち

「ふぅ……ごちそうさま」


 三本目の脚を食べ終えたザファル少年が顔を上げた。


「満足したかい?」

『ええ。ありがとうございます! 助けてもらった上に食べ物まで……。リシュートにおいで下されば、お礼、を……』


 途中でその声が小さくなる。

 まぁ、そりゃそうだよな。


「いや、気にしなくていい。俺たちはこの風体だからな」

『はい……』


 肩を落とす少年。

 俺は別に気にしちゃいないんだがな。

 と、


『しろー。おれも 腹が 減ったぞ』


 アンダーソン君が戻ってきた。

 相変わらずマイペースだな。今回は少々ありがたいが。


「ほら、コレ」

『おう』


 アンダーソン君はすぐさま大サソリにかぶりついた。


『美味いな。口直しに 丁度 いい』

「……おう」


 普段食べてるモノのに近い方が美味く感じるか。


『南の密林地帯に大蜘蛛がいるって聞いたことあるけど、ここまで大きくはない様です』

「そうか。アンダーソン君の元のサイズはこれくらいさ」


 指でその大きさを示す。多分7、8mmってところか。……いや、もっと小さかったっけ?


『そんなに、ですか? 部屋によく出る子蜘蛛ぐらいですね。よく跳ねたりするヤツ。あんな模様の蜘蛛、たまに見ます』

「多分、似た様な種だろうね」


 やはりそのサイズ差に驚いた様だ。

 ついでに言えば、ハエトリグモもこの世界にいるのか。

 ……いや、ヒトがいる時点でな。いても不思議じゃないか。

 まぁ、それは置いといて、だ。

 問題は、彼をどうするかだが……。


「とりあえず、夜明けが近づいたらリシュートまで送っていくよ。中には入れないから、門の近くまでになるだろうけど」


 とりあえず、そうするしかあるまい。


『ありがとうございます。お礼も出来ず、すいません……』

「いや、気にしなくて良いよ」


 そう答え……ああ、そうだ。


「礼と言ってはなんだけどさ。この辺りの地理とかを少し教えてくれないかな? 俺たちはレジューナの塔から逃げ出してきたばかりで、この辺りのことは何も分からないんだ」

『ええ。そんなことで良ければ。……ところでレジューナの塔、ですか?』

「ああ。確か向こうにある塔なんだ。昨晩、その地下からダストシュート通って何とか脱出したんだ」

『……えっ?』


 そこでザファル君が首を傾げた。


『その塔……天蛇の塔とも呼ばれているんですが……魔導師ギルドが所有しています。塔に住んでいるのは高名な魔導師ラスディン師ですよ?』

「……そうなのか?」


 勘違い? いや……違う!


「確か……塔から脱出した時、レジューナに発見され、追い詰められたんだ。だがその時、塔の窓に明かりがついた途端あいつは、『邪魔が入った』とか言って去っていった……。もしかして、塔の地下かなんかを勝手に使っているのかも」

『なるほど……。聞いたことがあります。あの塔は、かつて邪悪な魔導師が建て、外法の研究をしていたとか。そして二十年ほど前に勇者の討伐を受け、討たれた、と……。レジューナはその時の生き残り、なのかも』

「そうか……」


 ふむ。よく分からんがこの世界も色々あるんだな。そういえば、“勇者”か。

 確か──レジューナの話では、ヒト族から選ばれた天空神の代理人だったか。

 十年くらい前の戦いで、魔族の王を討ったとか何とか。

 その時の生き残りの魔族がまだ各地に潜伏しており、色々小競り合いも起きている、とか。

 多分、俺たちもその残党に見做される可能性もあるな。


「ああ、そうだ。できれば俺たちのことは秘密にしてくれないかな。二人組の旅人に助けられたとか言って、適当に誤魔化して欲しいんだ。レジューナに追われる身だしね」

『分かりました。約束します。でも……もし、どこかで会う機会があれば、必ずお礼をしますよ』

「そうか。俺たちもそれまで生き延びる様、努力しよう」


 無論、簡単に野垂れ死ぬつもりはない。

 けど、再開できる可能性はかなり低いだろうな。

 ……どこかでヒトに擬態できる方法が見つかれば良いんだがな。俺だけでなく、アンダーソン君も。



 その後、俺たちは手分けして人攫いたちを入念に縛り上げ、一か所に集めた。更にアンダーソン君が“誘眠”の呪文をかけ、眠らせておく。

 ついでにナイフやらロープやら、サバイバル生活に必要そうなモノを失敬した。

 まっ、戦利品ということで。

 そして俺たちは、樹上のハンモックで朝まで暫しの仮眠を取ることにした。



──夜明け

 僅かな仮眠ののち、目を覚ます。

 そして、朝食を済ますと、リシュートの街を目指して砂漠を行く。

 アンダーソン君の上に俺とザファル君。


『蜘蛛に乗るなんて……貴重な体験ですね』


 少し嬉しそうに笑う。


『特別 サービスだ』


 と、アンダーソン君。

 この間に、ザファル君からこの周囲の地理を聞いておく。

 目の前の街リシュートの北隣にあるのが、ベルガント邸のあったアルタワールらしい。

 距離は5ランとのことだが……“ラン”とはどれくらいの距離なんだろうか?。

 ザファル君の言によれば、1ランは1,000レン、1レンは100サン、だそうな。で、1サンがどれくらいか指で示してもらったが……おそらく4cmくらい?

 つまり、両都市の間は約20キロ、か。ハーフマラソンの距離、か。

 まぁ……歩けない距離ではないが、おっさんにはちとキツい? いや、慣れれば行けるだろうけどさ。

 ……それはともかく。

 レジューナの“転移”は20kmもの距離を瞬時に移動した訳だ。

 何処にでも出来るのかどうかは分からんが、とりあえず神出鬼没と思っておいた方が良いだろう。

 一旦ヤツから逃れられたからといって安心しちゃいかんよな。

 ……などと考えている間に、リシュートの城門が次第に近づいて来た。


「この辺でお別れかな?」


 門から少し離れた砂丘の裏で、アンダーソン君から降りる。


『ありがとうございます。わざわざ送ってもらって……』

「気にしなくて良いさ。それよりも、元気で」

『はい、シローさんたちもお気をつけて』

「ああ。それじゃあ」

『では またな』

『はい!』


 そうしてザファル君は城門へと向かっていった。

 その間、俺たちは、彼が無事城門へとたどり着くのを砂丘の影で見守る。

 ここで大サソリにでも襲われたら後味が悪いしな。



 そうすること暫し。ザファル君が門に到達した。

 そして衛兵に迎え入れられた様だ。これで一安心だな。

 ザファル君の通報で、オアシスに残して来た人攫い連中も捕まるだろう。


「さて、行こうか」

『おう。乗れ』


 俺たちはダッシュでリシュートから離れる。

 離陸するところを間近で見られても困るしな。

 そして十分離れたところで、再び大空に舞い上がった。

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