大詰め
そんな事をする教皇猊下なんて大嫌いです。
ハッキリそう聞こえた。
そして一発で心折られた教皇が膝をつく中、楓子は颯爽と部屋を出て行ってしまった。
俺も居た堪れなくなって楓子の後を追ったが、追い付いて見た楓子の顔にはうっすら笑みが浮かんでいた。
やってる事は老人いじめのように見えるが、あの教皇がそんな軟なわけは無く、どうせ明日にでも復活してる事だろう。
「一応スッキリしたか」
「うん。でもどうしよう」
「いつから教皇って名誉職になったんだ?」
「知らないよー。お飾りでいいならいいんだけど、やっぱりそれなりに何かしないと駄目だよね?」
「まぁ楓子がどの程度真面目に教皇と言う役職と向き合うかによる。しばらく何もやらないで、『このままだと悪いんで返上します』って言ってもいいと思ってる」
「女神なのに?」
「自分で言うか」
「……言いたくないけど周りからは思われてるよ?」
「おお可哀そうな奴め」
拗ねた顔で上目遣いなんてされたものだから、発作的に抱きしめていた。
「で、元の大司教は現大司教として元鞘か」
「うん、そうみたい」
抱きしめた後なのでちょっと恥ずかしそうにする楓子さんマジ女神っす。
「でも楓子が大司教とか、神降臨とかしそうで嫌だな」
「来たら文句言わなきゃ。何で智也君が遊び人なのか」
「……あんまり遊び人って自分でも言わなくなったから忘れてたけど、遊び人なんだよなぁ」
あのクソジジイも、教皇みたいに楓子の一言で膝をついてしまえ。
「でも、シャルちゃんって実はその辺り知ってそうなんだよねぇ」
「そうか?」
「だって私達が来てから一回会ってるはずなのに、何も言って来ないでしょ? 多分何か事情があったのかなって」
「根ほり葉ほり聞いてみるか」
「今まで黙っていたんなら聞かない方がいいんじゃないかな。場合によっては智也君、引きこもっちゃうかも」
衝撃的な事実があるかもしれないと楓子は言うが、元々俺達は輪廻転生の先に人間が無いと言われた不幸な境遇だ。
それ以上の衝撃な事実なんて中々無いと思う。
まぁこの間大分凹む事があったばかりだし、今変な事を聞いて大当たりを引いたらマジで引きこもりそうなので、この話は忘れよう。
「さーて、これでついに楓子も僧衣を着るのか」
「うーん……そんな見て面白い物でも無いよね?」
「まぁな」
白地にそれなりの装飾が付いている教皇専用の僧衣も、近い内に楓子用に仕立てられる。
と言うか内部での予想では圧倒的大司教の勝利だったらしいので、既に発注はしているらしいのだ。
これで女性職員が着るシスターな服なら楓子に着せてみたいが、教皇の着る僧衣はワンピースタイプのダボっとした物で、装飾によって教皇だとわかるようになっている。確かに楓子が着ても違和感は無さそうだが、そうじゃ無いんだ俺はコスプレチックな楓子を見てトキメキたいんだ。
声を大にしては言えないが。
まぁ普段使いの服なのでそんな物だろうが、それ以外に儀式で使う祭服なんかもあって、これが儀式によって何パターンかあるらしかった。
俺が見たのは結婚式の時の白地に金の装飾だらけの豪華な物だったが、葬儀用の黒地の物や普段の儀式に使う濃い緑色の物なんかもあるらしい。
まぁそもそもそう言った祭事は教皇よりも大司祭が行う物なので、楓子が何かやるとなったら公爵家の長男長女の結婚くらいじゃないだろうか。
もしくはあんまり考えたくは無いが、ルーベルトの爺様を始めとした公爵家の爺様が亡くなった時の葬儀とか。
うーん。
「祭服の楓子は何となく見てみたい。多分神々しく見える」
「やめてよー。私もちょっと思い浮かんで恥ずかしと思ってたんだから……」
「さて、この後どうする? 外は人でごった返してるらしいけど」
新教皇誕生は選挙の告知があった時点で誰もが知っていて、それが楓子になった事は決まった時点で言いふらされているだろう。
「透明化の魔法使えないよ?」
「俺に期待されても困る」
「勿論転移門の魔法もあれから成長してないよ?」
「してたら良かったのにな」
「神聖術なら成長したよ? もしかしたら死者も生き返るかもって」
「……それはそれで凄いけど、楓子の力でやったら失敗してもゾンビ化しそうだよな……」
この世界ではアンデット系の魔物は殆どいないとされている。
よっぽど魔力の濃い所に死体でも無ければ発生しないのだそうだ。
ベスターの居城の地下に死体を置いておけば、もしかしたらゾンビ化するかもね、と言った程度らしい。
一応大昔には禁呪として死体を操る魔法もあったらしいが、そう言ったネクロマンサー的な事をやるウィザードはウィザードの本院が総力を挙げて排除したと言う。
「やめてよー」
トラ子も場合によっては死せる魔獣みたいな形になっていたのかもしれないと思うと、怖いと言うよりかは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
本当によくぞ生きて帰って来た。
「どうするかなぁ」
教会の脇に出る通用口前に付いたが、ここに居ても外の喧騒が良く聞こえる。
「外に出てフライで一気に飛んじゃう?」
「それしか無いか」
と話してたら肩を叩かれた。
誰かと思ったら誰もいない。
――サクラの魔力だ。
「助けが来た」
「え?」
「掴まって」
「う、うん……」
転移門の黒い歪みが目の前に現れた。
俺は透明なサクラに手を引かれてその中に入る。
出た先は、王城の普段サクラが出口にしている部屋だった。
サクラはそのまま部屋を出て行ったが、どうやらトラ子の魔力を感じたらしい。
そう言えば今日は休みだ。
だから投票も行われたし街もお祭り騒ぎになっているのだが、しばらくサクラとトラ子は放っておいてやった方がいいな。
「ねね、智也君」
「ん?」
「前にもいたけど、結局どんな人なの?」
「ベスターの娘だって言ったっけ」
「多分。そんな話は覚えてるよ」
「それくらいしか答えられないんだよなぁ」
千絵と楓子程度の探知能力だと、サクラが魔力を抑えている限りわからないだろう。
「って事は、私達会ってる?」
「うん。隠した所で予想出来るだろうからそこは答えとく」
「よく会ってる?」
「それは知らん。俺の知らない所で会ってるかもしれないし」
「えー、学校の子だったら多すぎてわからないよ……」
「いいんだよわからなくて。本人も魔人だって知られたくないから隠してるんだし」
「でも、私は魔人でもいいよ?」
「楓子は良くても本人がいいと思わなければ駄目。ほらリビング行くぞー」
「えー、でもベスターさんとフローラさんの娘さんだったら可愛いんだろうなぁ」
「それに関しては答えよう。普通に可愛い」
「智也君。一応奥さんの前」
「一応じゃなくても愛妻の前だけど、そう言う意味じゃ無く美醜の良し悪しで言ったら可愛いってだけな」
この後、リビングでお茶してた皆に『教皇フーコ誕生』と言ったら盛大にお茶を噴かれた。
千絵には、『あんた一体いくつ称号得るわけ?』と呆れられた。
このごたごたしてる中での新教皇に楓子がなったと言う事で、教皇就任お祝いパーティーみたいなものが急遽催されてしまった。
主催は公爵家だ。
厄介な事に、爵位が上であればあるほど敬虔なる信徒でなければならないみたいな風潮があり、それを見せる為の場ともなってしまうのだ。
この教皇フーコの誕生は数日の内に転移門の魔法を使う人間が大勢で一気に号外をばらまくことになっている。
派兵していて人手は足らないが、公爵家お抱えの転移門を使える人間は必ず数人手元に置いているので、そのうちの一人を残して全員を飛ばすらしい。
形としては、五人居たら一人が他の四人を運び、出た先で他の人が他の四人を運び、と順に使う事で王国を一日で脱出する。
その後は各地に散らばり、一週間ほどかけて主要都市を回って待ち合わせ場所に戻り、そこからは最初のように順番で使って一日で待ち合わせ場所から王都に戻って来るらしい。
だが楓子用の僧衣も祭服もまだ出来ていないので、少々丈は大きいが前教皇の物を借りて来て着ている。
ここで問題が一つ、胸囲が合わないので例のアレが押し上げて自己主張しているのだ。
楓子は今更なのか気付いていないのか平然としているが、一部の男はチラッと見ては逸らしての繰り返しだ。
「加齢臭しないか」
「ちょっ、流石に酷いよ智也君。洗濯してるんだから」
「してなかったらしたかも」
「大丈夫だよー、少なくとも普段お香炊いてたからそっちの匂いだけだよー」
会場は王城一回のエントランスホールだった。
どこかの公爵家でと言う話もあったが、今回は爵位持ちの中でも割と上位の当主夫婦が参加と言う割と小規模なパーティーにしてもらったので、大きなホールみたいな所は必要なかったのだ。
小規模な理由は、派兵目的は違えどぶっちゃけ戦争中な事と、それに伴って一般兵として貴族の若手が結構出て言っているので、参加するにしても国内に居ないのだ。
学校もそれによって閑古鳥が鳴く程に人が減っているらしいが、戦闘関係を取っていない人達にとっては伸び伸びと出来ていい環境らしい。
リリアナ達も、普段辺りをうろつく爵位が上の男連中が出払っているので気楽だと言っていた。
「トモヤよ。お前もつくづく厄介事に恵まれておるな」
「爺様……、あの教皇に何かお灸を据える手は無いですか?」
「恐れ多い事を言うでない」
西の国の件が片付いて前教皇が向こうの統治に行くとき、従者を全員マッチョな男にしてやろうかな。
地味に嫌がりそうだ。
「方々の反応はどうでしたか?」
「冷静な者は、やはり若さや元々教徒で無い事に疑問を感じているようだが、大多数は女神フーコが教皇に収まっていいのかと言う疑問だろうな」
「結局疑問ですか」
「いや、教皇よりも上の存在だと認識しておるのだ。当然であろう? 教皇よりも多くの人間を救ってしまっているのだから。だからこその女神と言う称号だ」
ああ、と納得してしまった。
むしろそっち方向にか。
「だがまぁ、これで正式にジャポニー教の一員となったわけだし、その点では皆ホッとしておる」
「やっぱり気にされてたんですか?」
「気にすると言うと少し違うのだが、我々からすればジャポニー教徒じゃない者がいると言うだけで少し落ち着かんのだ」
そう言って俺を見る。
見る。
見る。
「いやすみません、俺としてはあの神を崇める気にはなれなくて……」
「トモヤは実際こちらに来る時にその姿を拝んでいるのであったな」
「ええ、まぁ。どんなだったか言うとイメージに齟齬が生まれる可能性があるので何も言えませんが」
と言うか信じて貰えないと思う。
飄々としたクソジジイだったなんて。
「楓子としても別に信心深いわけでも無く、そう願われたから仕方なくと言った感じです。でも、自分の力で病人や怪我人を治したいと思う心は本物ですし、その為の勉強は暇があればしているようです」
「今以上の成長されるとなると、我々は今後何とお呼びすればいい物か……」
そう言って本気で悩むのだから困る。
俺としては聖女フーコ辺りで止まっててくれてよかったのにと今でも思うのだが。
「本人はただのフーコを望んでいます」
その本人、俺とルーベルトの爺様が話し始めた時には人波にさらわれ、今では遠くでもみくちゃにされている。
「そんな恐れ多い」
「では今の役職で呼んでやってください、本人も女神の称号は重たいようだったので」
「むぅ……。そうか、本人がそう言うのであれば仕方ないな」
じゃあ呼び捨てにしてやってくださいよ。
「じゃ爺様、俺は楓子を追いかけますので」
「ああ、ちゃんと守って差し上げるのだぞ」
「ええ、まあ」
ルーベルトの爺様の中での順位付けが大体わかって来た。
最上位は恐らく楓子だ。
その次にシャル、そしてシェリール。
その下に俺達だろう。
もしかしたらシェリールの扱いは俺達と同程度に落ちているかもしれない。
シャルと差別化されているのは、見た目による扱いの差が違うからだ。
今度から何か面倒な議題があったら楓子を連れて行こう。
パーティー自体は楓子の教皇としてのお披露目ではあったが、特に何かありがたい言葉が言えるわけでも無いので、本当に見せるだけで終わった。
何なら前教皇に何か入れ知恵しといて貰えばよかった。
だが、この一件で楓子を崇拝する一派が教会の通常の教徒と足並みを揃える事になり、教会にとっては異教徒認定一歩手前だった奴等も無事ジャポニー教徒として教会の一員に戻った形になったわけだ。
これで異教徒認定を受けると、この辺りの国では生きて行けないとされるくらい扱いが酷くなるらしい。
各貴族家も教会の頂点が楓子だと言う事で、これからは公爵家では無く王家に各貴族家が群がるのではとルーベルトの爺様は予想していた。
少なくとも四公爵家は、全員一致で教皇フーコの言葉に従うと言ってきた。
これはある意味恐ろしい事だ。
楓子がこう願った、と言えば王国の貴族はその通り動いてしまう。
宗教と国の機能は分けなければならない。
政教分離と言う奴だ。
宗教国家なら話は別だが、宗教としての教えと国としての方針が違ったら問題があるからだ。
下手をすれば、ジャポニー教と王国との間に問題が発生して、宗教戦争めいた面倒な事にならないとも限らない。
なので楓子には、これまで以上に不用意な発言を控えて貰わなければならない。
それだけでも苦労を掛けるのだから、楓子を使ってどうにかしようと言うのも極力やらない方向でいたいのだが、多分西の国の平定に関しては楓子や前教皇の威光を使う事になるだろう。
西の国の動きに関しては、バウワーの兵が西へ移動した為に接敵しないまま更に一週間過ぎようとしている。
食料はシャルが数日分を転移門の魔法で運ぶので、隊全体としては通常よりも身軽に動ける利点があった。
それでもバウワーの兵は早い内に西に移動したようで、中々出会う事無くオイレンブルクの街に近づきつつある。
既にバウワー領内では領主が逃亡したらしいと噂を流し、バウワー邸もあちこちぶち壊して金目の物を探し尽くした後で火をつけて燃やされていた。
誰が指示をしたのか知らないが、そこまでするとなると反西の国の過激派みたいなのがいるっぽい。
なので、ツヴァイには絶対に民衆から略奪しないように徹底させて欲しいと伝えておいた。
ツヴァイも、今後制圧して王国に取り込んだ場合を考えているようで、その旨しっかり伝えてくれたらしい。
だが、過激な奴はむしろ王国民になる事を良しとしなそうなので、こちらで網を張っておいて夜間に強姦や窃盗と言った悪さをしようとした兵は手当たり次第捕え、ツヴァイに引き渡した。
後は見せしめである。
全員の前で磔にし、この者が誰で、どんな罪を犯そうとしたのか全軍に通達してもらった。
やり過ぎだと言う声も勿論上がった。
その声を上げた者には、『じゃあ自分の嫁や娘が同じ目に遭ったら?』と俺が直々に言いに行った、何も言えなくなって俯いてしまった。
そんな物だと思う。
敵だからどうでもいい、好きにしてしまえと思う気持ちは俺にだってある。
だが、それを自分の事のように置き換える理性さえ戻れば、そんな事出来るわけ無いのだ。
その日を境に、そう言った凶行は無くなったらしい。
俺が動く前の一部被害を受けてしまった人もいたが、それに関しては王国として出来る事は大体すると約束した。
流石に犯人を処刑するとまでは言えないが、去勢するくらいなら考慮してもいい。
そう言った話をした事も全軍に伝えられ、兵たちは大人しく夜眠るのだ。
ただ、長い日数に渡って行軍しているのだから発散させたい人が出て来るのもわかる。
幸いな事にノイベルトの街やバウワーの街に風俗街のエリアがあったので、『無茶をされたと苦情が来たら去勢』と脅してシャルにお願いして輸送してもらった。
果たして美少女に連れられて風俗街に行くのがどれだけいるのかと思ったら、意外と人数がいたので男の性欲ってすげーなーと男ながらに思うのだ。
「トモヤは連れてかない」
「……行かないから」
「私ならあいてる」
「今日は楓子の日だから。色々あったから労ってあげないとだから」
「むぅ、私凄く働いてる」
「よーしよーし」
頭なでなででとりあえず許してくれるシャルいい子。
さて、そんなこんなで兵はオイレンブルク手前に布陣された。
バウワーの兵も、シャルの情報通りオイレンブルクの入り口に布陣されている。
だが、オイレンブルクの門は閉ざされたままだ。
結局オイレンブルクのデニスはバウワー家を見捨てる事にしたらしい。
あれからちょくちょく偵察はしてもらっているが、特に何か変わった情報も無かったし、もしや気付かれているのではと警戒して楓子にも透明化の魔法をかけ、楓子が魔力すら遮断するシールドを掛けて二人でスパイ活動してもらったが、やはり何も変わった事は出なかった。
変わった事があるとすれば、アルフレート・フォン・バウワーその人の捕捉が出来なくなったことだ。
どれだけ魔力を探っても見つからない。
恐らく隠れている。
俺の魔力探知では地下に隠れられると近くに行かないとわからないので、恐らくバウワー領内のどこかに隠れていると思うのだが、広すぎてわからないのだ。
だが目星は付いている。
城だ。
あの立地にある城なら軍勢が攻めても攻めにくく、ある程度の人員がいればそれなりに防衛出来てしまう。
険しい山間にあって狭い谷間にある道でしか上ってこれない時点で攻めにくいし、その道も急坂で上から大きな石を落とせるような造りが見受けられた。
他にも高さを利点に、矢で下を攻撃出来るように城壁の上には所々に穴があいていて、攻め側はある程度近づかないと攻撃出来ないのに、防衛側はある程度離れていても高低差で易々と攻撃が届いてしまう。
もし城にある程度の兵を連れて立てこもっているのだとしたら、全軍を連れて行った所であまり意味はない。
やるとすれば、主力本隊を城内に転移させてしまえばいい。
俺達だから出来るゴリ押し作戦だが、果たして狸親父はどこに隠れている事やら。
到着した時点で既に夕方だった事もあり、今日はこのまま動かず夜を明かす事だろう。
状況を見に来た俺達は、そう言えば楓子が教皇になったよとツヴァイに言って軽くお祭りムードにさせ、楓子に新教皇ですよろしくお願いしますみたいな形であちこち回って兵に元気付けをしてもらった。
明日で決着付くだろうか。
少なくともバウワーの兵は全て片付けられるはずだ。
これで小領地を含むすべての領民が徴兵されてたりしたら面倒だったが、ここに来てジャポニー教に救われたことが一つだけある。
無理な徴兵を禁じているのだ。
実際無理やり徴兵しても士気が上がらず壁にしか使えないなんて言う人もいるが、それでも多いだけで威圧感もあるし数の暴力と言うのは脅威なのだ。
それはオークで経験した。
「ねぇ智也、明日はどうするの?」
「監視と援護」
「私はー?」
「シエルは覆面で出てもいいけど、やるならオイレンブルクの街の中にいる兵をやって欲しいんだよね。外で戦ってるうちに」
「覆面の意味ある? いずれバレるのに」
「もうあんまりない。元々バウワーに王国の人間だって一発でバレるのを避ける為だったし」
「じゃ普段通りで引っぱたいて来るねっ」
「……シエルは戦いに前向きで元気だよなぁ」
「だって普通に王国の兵と戦わせたら死者ばっかりだよ? それなら私が戦って無力化した方が良くないかなー?」
「それはそう思う。うん、シエルに任せた」
「やった」
「千絵と楓子は穴埋める為に残ってて欲しいから、シエルは援護無しになるから無理しないでね」
「フル装備で行くから大丈夫だよー」
ダマスカス鋼製の防具が更に出来たので、防具まで全てダマスカスになってしまった。
その波紋めいた模様が独特で、とにかく頑丈らしいから向こうで噂になる事だろう。
変な防具の小柄な女の子がバーサーカーと。
こうして、恐らく西の国最後の日の前日となるであろう夜が更けていく。
むしろ、もう最後の日になってくれと祈るばかりなのだが。




