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乗用車じゃ、オレ達全員は乗りきらねぇ。
そんなことを考えてか、お巡りが走り寄ったのは、緑色した路線バスだったのよ。
軽乗用車にぶつかって、斜めに停車したその都バスの中に、動く影は見当たらねぇ。
開けっ放しのドアから飛び込んだ小松が、エンジンを始動させたらしい…。
ジーゼルの黒い排気ガスが見えたから、オレも内心「ほっ」とした。
それからオレは、姉ちゃんやばぁさんを担いだ中島に続いて、何とか都バスに飛び乗ったんだが…、武藤の奴が来ねぇんだ。
オレの後ろを走って来たはずだが、追いかけてきたゾンビ野郎の足止めに、時間食って二十メートルぐらい遅れてる。
オレは、お巡りにバックさせるように言いながら、自動小銃担いだ中島に指示して援護射撃をさせたんだ。…けど武藤の奴、何をグズグズしているのか、なかなかこっちに来ねぇのよ。
どうしたのかと思ったが、武藤は歩道に乗り上げて横転している幌付きジープに走り寄って行ったんだ。
小銃構えた中島が「七三式トラックだ」って呟いた。どうやら自衛隊の車両らしい。
武藤はその車両の、割れたフロントガラスの中から、何かを引っ張り出そうとしてやがる。…だけど、そんな武藤をゾンビ野郎が邪魔してモタついていやがるぜ。
オレは、思い切って都バスを飛び降りると、武藤の側に行ったんだ…。
「タマが無ぇ。…こいつのタマを探せ」って叫んだ武藤は、振り向きながら向かってきたゾンビ野郎に、小銃弾をお見舞いしてた。
それでオレは、七三式トラックのフロントガラスの開口部から、体を突っ込んで車体の中を引っかき回したのよ。
そしたら、オレが背負ってるみてぇなバックパックが、二つ見つかったんで「旦那ぁ、これかぁ」って怒鳴って、あいつに見せた…。
けど武藤の奴、こっちを振り向いてる暇も無ぇみてぇだ。
…奴は、ゾロゾロと沸き出してくるゾンビ野郎に向かって、懐から取り出した何かを放り投げやがった。
それが「手榴弾」だってのは、爆発するまで気が付かなかったが、その爆風に吹き飛ばされて、オレはまた道路に転がっちまった。
チクショウ。…転んだ拍子に左肘を嫌と言うほど打ち付けて、作業服が裂けちまったぜ。
それに、作業服だけじゃねぇ。…ナマ暖けぇモンが左腕を滴って、ジンジンして来やがったから、腕の方もどうにかなっちまったみてぇだ。
頑丈なオレのことだから、骨は折れてねぇみてぇだが、何だか力が入らねぇ。それでも取り出したバックパックを右手で引っ掴むと、武藤の側に急いだのよ。
…けどよ。…オレより先に、武藤の側には、両足の無ぇ腐れゾンビが居やがった。
武藤の奴が、中学生らしいゾンビ野郎の額に拳銃を押し付けて、引き金を引き絞るより先に、そいつの剥き出した歯は、しっかり迷彩服の脹ら脛に食い付いてた。
…気を失った武藤を引き摺って、都バスの中に運び込むのと同時に、小松の奴がバスを発車させる。
揺れる都バスの中で、意識を取り戻した武藤は、「永くは保たねぇから、自分を置いていけ」と、呻くように呟いた。奴の言いたいことは判っているんだが、まだまだ正気の野郎を置いて行けるかい…。
そんな武藤を見た同じ自衛隊の中島は、オロオロしながらバックパックから包帯やら止血剤取り出して、怪我の治療を始めたんだ。
中島の野郎、不器用だから包帯もロクに巻けやしねぇ。
元看護婦の姉ちゃんが、代わって傷の手当をしたんだが、ゾンビ症候群に効く薬なんて有りゃしねぇから、寂しいモンよ。
ついでに出血しているオレの腕にも包帯を巻いてくれたが、こっちもガックリ来ちまって、タバコ吸って気を紛らわせるのが精一杯だったな。
そのうち小松の奴が、「行く先をどうするか決めろ」って言い出しやがった。
学者先生の所に決まってるだろ…。
もしかしたら学者先生が、この病気の治療法を知ってるかも知れねぇからよ。
それまで武藤の奴が、正気で居てくれたらいいんだが…。




