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オヤジ  作者: 矢島大佐
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 ゾンビ野郎の軍勢から、何とか逃げ切ったオレ達は、小松が運転する「緑のバス」で都内を南下した。

 お巡りの小松は、あっちこっちの警察署を転勤しただけあって、都内の地理には詳しかった。

 ゾンビ野郎の少なそうな裏道を見つけるのは巧かったんだが、それでもでっけぇバスだから入っていける道は限られる。

 どうしたって何匹かのゾンビ野郎には、お目に掛かっちまうんだ。

 そんな奴らを中島の自動小銃とオレの散弾銃で、黙らせながら進むから、武藤の旦那が心配したとおり、残りの「タマ」が心細くなってきた。

 …ゾンビ野郎に噛まれて以来、口数が少なくなった武藤の旦那は、オレが自衛隊のトラックから引っ張り出したバックパックや、自分の装備を点検してたんだが、「残りの五.五六ミリはマガジン三本しか無ぇ」って、呻くように言いやがった。

 「三本ってのは、何発だ?」ってオレが聞くと、メガネ猿中島が「ワンマガジン、二十発。…こっちの残りも入れて、あと七十五~六発で、お終いだよ」って悲しい声で呟いたのよ。

 それで、オレもジャンパーのポケットに突っ込んであった、散弾銃の弾を確認したのよ。どうしたモンか、残りは全部で二十発ぐらいしか無ぇんだよ。

 さっきの脱出劇で、かなり使っちまったし、走って逃げてるうちに、ポケットからこぼれ落ちたのかも知れねぇな。

 オレ達が、そんな話をしてたら、バスを運転してる小松の奴が、「渋谷の方に知ってる銃砲店が有るから、そっちに廻って行くか?」って話し出した。

 小松も、手持ちの拳銃用三十八スペシャルの残弾が少なくなって、気になってたらしい。

 奴の話じゃ、その店は散弾の他にライフル銃も扱ってるみてぇだから、タマの他にも飛び道具が確保出来るかも知れねぇ。

 それに、T大の医科学研究所に立て籠もってるって言ってた、学者先生の場所は品川だから、渋谷の方に行ったって、それほど廻り道にはならねぇだろう。

 運転手の小松は、「下谷警察署の資料保管庫から、証拠品や押収品の武器を持ってきたはずだから、ズダ袋の中も探してみろ」って言いやがった。

 それでオレ達は、それらしい袋を探ってみたのよ。

 そしたら、小松の言うとおりピストル一丁と実弾二十発、それにサバイバルナイフらしい大型の刃物が二本見つかった。

 踞ったままの武藤の旦那が、「トカレフだな」って呟いてた。…どうやらロシアの自動装填拳銃らしい。

 銃のグリップに星のマークとCCCPの彫り込みが入ってるから、「旧ソ連時代に製造された奴だろう」って、武藤の旦那が教えてくれた。

 マニュアルの安全装置なんか付いて無ぇらしいから、撃鉄を起こして引き金を引けば、簡単にブッ放せるって話だ。

 「バカでも使えるから、お前が持ってろ」って、武藤の旦那が言うからよ、ちっとシャクに触ったが、オレは、そのズシリとした奴をズボンのポケットに突っ込んだのよ。

 それからお巡りの小松が、大通りや繁華街を避けるようにしながら、都バスを新宿方面に進めて行ったんだ。

 流石に物音一つもしやしねぇ死人の街だから、バスのエンジン音は、どうしたってゾンビどもに気づかれちまう。

 一匹、二匹ならバスのフロントバンパーが、カタを付けてくれるが、両手以上の「団体さん」が来た日にゃ、そう簡単には行かなかった。

 結局は、中島の八九式小銃か、オレの散弾銃が火を噴くことになっちまうから、タマの消耗も激しいのよ。

 それでオレは、床で呻いている武藤の旦那に、手榴弾を持って無ぇか聞いたんだ。

 …前みてぇに、囲まれたとき一発使えば、かなりの効果が期待できるからよ。

 そしたら、「有るにゃ有るが、素人にゃ渡せねぇ」ってほざきゃがった。…まぁ、持っててくれりゃ、それでいいのよ。

 そんなこんなで、バスは上野からぐるっと回って市ヶ谷の陸上自衛隊の裏手の方に入っていった。

 本隊と連絡を取りたいらしい中島の奴が、「生存者を探してくるから、施設内にバスを突っ込ませろ」と喚き始めた。

 …無理だろう。…正門の向こうからゾロゾロと制服姿のゾンビ野郎が湧き出して来て、例え生きてる奴が居たって、入っちゃ行けねぇ。

 だからオレは、素直に「諦めろ」って言ってやったんだ。


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