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第9話:学歴の壁とインテリジェンス・フリー

「ねえ、アルムくん。前から思っていたんだけど……」


アルカディア・テックの最新AIルームで、秘書の一ノ瀬ユミカがふと懐かしそうに目を細めた。


「こうして二人が同じ会社で、しかも世界を変えるような凄い仕事をしているなんて、なんだか不思議な感じがするね。私が入社したとき、2歳年下の20歳で高卒同期として入ってきたアルムくんを見て『すごく真面目で勉強熱心な子だな』って思ってたんだよ」


「あはは、そうだね。当時の僕は家が裕福じゃなくて、大学に進学する余裕がなかったから、高校を出てすぐにネクスト・ソリューションズに飛び込んだんだ。ユミカさんは短大卒で、僕と同じ入社2年目だったよね」


アルムが穏やかに微笑む。


「うん。でもね、会社では『高卒だから』って理由だけで、猪俣課長たちから理不尽に雑用を押し付けられたり、給料の査定を低く抑えられたりしていたでしょう? 私はそれがすごく悔しかったの。アルムくんは誰よりも知識があって、プログラミングの才能もあったのに……」


ユミカは胸を痛めるように、キュッと拳を握りしめた。


そのやり取りを静かに聞いていた社長の縦溝巌(いわお)が、静かに首を振った。

若返って25歳ほどの精悍な容姿となったものの、かつてネクスト・ソリューションズで長年苦労を重ねてきた元部長としての深い眼差しがそこにはあった。


「一ノ瀬さんの言う通りだね。環境や家庭の経済的理由で教育の機会を奪われ、生まれ持った才能を発揮できないまま埋もれていく……。これは現代社会が抱える、あまりにも大きな『歪み』だよ」


巌はDW-QCSが提示する世界中の教育格差データを指し示した。


「本人の努力次第で道が開ける場合もあるとはいえ、『機会そのものが存在しない』状態を放置するのは間違っている。アルム、私たちが目指すのはエネルギーや資材のフリー化だけではないな」


「うん、父さん。【インテリジェンス・フリー】の実現だね」


アルムの瞳が、未来を見通す深い光を宿す。


「誰もが生まれた環境や家柄、学歴に縛られることなく、ありとあらゆる高度な知識や技術、教育に完全無料でアクセスできるようにする。そして――」


アルムが空間に手をかざすと、手のひらの上に優しく光る球体が現れ、可愛らしいホログラムの姿へと変化した。


『こんにちは、一ノ瀬ユミカ様。私はあなた専属のAIコンシェルジュです』


「きゃっ……! かわいい……! 私専用のAI……!?」


「そうだよ、ユミカさん。一人ひとりの個性や興味、学習スピードにどこまでも寄り添い、家庭教師や人生のコーチのように優しく導いてくれる『パーソナルAIコンシェルジュ』さ。これがあれば、独学の孤独も、資金不足による学習の断絶もすべて解消される」


「教育と情報の完全開放……! これがあれば、世界中の誰もが自分の可能性を最大限に開花させられるようになるんだね……!」


ユミカは感動で目を輝かせた。


「ああ。もちろん、一度にすべてを変えることはできない。貧困、兵器、エネルギー、そして教育……やるべき課題は山積みだ。だからこそ、一つひとつ順番に、確実に世界を健全化させていこう」


巌が力強く、そして温かくアルムの肩を叩いた。


「よし。まずは目の前の脅威――紛争地帯で人の命を脅かしているAIドローン兵器の無力化と、全世界フリーエネルギー化への第一弾を放つとしようか」


「うん! DW-QCS・全領域同期完了。――世界を正しい未来へ導こう」


20歳の高卒エンジニア・アルムと、若返りつつも元部長の風格と慈愛を持つ父・巌。

不遇な環境から立ち上がった二人が、世界中の「機会の不平等」をも過去のものにするべく、次なる壮大な一歩を踏み出すのだった――!


(第10話へ続く)

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