第8話:16時間の奇蹟と、世界規模の予兆
「ふむ……世間では『夢の痩せ薬』や『楽に痩せる魔法のサプリ』に毎年何兆円ものお金が投じられているが、人間の身体構造と自律神経の仕組みさえ正しく理解すれば、脂肪を落とすなんて実は至極単純なことなんだがね」
アルカディア・テックの社長室で、25歳の姿へと超絶若返った父・巌が、DW-QCSが展開するホログラムモニターの医療市場データを眺めながらフッと口元をほころばせた。
「そうだね、巌さん。例えば現世で流行している『16時間絶食(オートファジー活性化)』のように、適度に胃腸を空にして細胞の自己掃除機能を促すだけでも、身体は驚くほど軽くなり代謝は劇的に向上する。身体の本来持っているロジックに従えば、ダイエットなんて本当はとてもシンプルなことなんだ」
アルムが静かに頷く。
「まったく同感だよ。世のダイエッターたちが血眼になっている痩せ薬など、我が社の『ナノバイタル・生体調整プロトコル』を使えば、細胞内のミトコンドリア活性をわずかにチューニングするだけで一瞬で適正体重に固定できてしまうからね。まあ、世間の肥満ビジネスや無理なダイエット市場が一瞬で霧散してしまうから、これも『分かち合い』の精神で段階的に開放していくとしようか」
頼もしすぎる25歳社長の独白に、秘書として隣に立つ一ノ瀬ユミカは「15kgも楽々痩せちゃうような世界になっちゃうんだ……!」と目を丸くして感動していた。
しかし――アルムの表情が、ふと真配と決意を帯びた鋭いものへと変わる。
「……でも、身近な健康や医療利権の修正は、あくまで第一段階に過ぎない。DW-QCSが地球全域のミリタリー・ネットワークから不穏なデータを検知したよ」
アルムが指先を滑らせると、空間に世界地図と、東欧や中東などの紛争地帯のリアルタイム映像が立体的に浮かび上がった。
そこに映し出されていたのは、自律型AIを搭載した数千、数万機もの「攻撃型小型ドローン群」だった。
人の手を離れ、アルゴリズムだけでターゲットを識別し、自爆攻撃によって尊い人命を脅かしている惨状。
「AIドローン兵器か……。人の命を奪うためにテクノロジーが使われている、原始社会(Type 0.7)の最悪の悪夢だな」
巌の目から温和な笑みが消え、厳粛な光が宿る。
「川〇礫先生の作品でも描かれていたように、高度な思考や技術は『誰かを傷つけるため』ではなく『守り、育むため』に使われなければならない。技術の進化が人類を不幸にするなんて分岐は、今すぐ僕の手で正す」
アルムの胸の奥で、無尽蔵のエネルギーを秘めた『ナノアークリアクター』が静かに、しかし力強く唸りを上げた。
「ユミカさん、巌さん。これより『DW-QCS・広域量子波動ジャミング』の準備に入る。地球上のすべての殺戮兵器を、一瞬でただの『鉄くず』と『平和なオブジェ』に変えてみせるよ」
「ああ! 奪い合いの戦争を終わらせ、真のフリーエネルギー時代を創る……アルカディア・テックの本領発揮だな、アルム!」
「アルムくん……! 応援しています……っ!」
ユミカが見守る中、アルムの目が青く輝く。
世界中のミリタリー利権と兵器ビジネスを根底から覆す、前代未聞の「世界健全化・平和強制ミッション」が、今まさに始動しようとしていた――!
(第9話へ続く)




