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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第9話 荷物違いと、消えない信用

満タン便として動き始めた誠司。

受付、帳面、受領印も整い、配送業らしくなってきた。

しかし、仕事が増えればミスも起きる。

今回は初めての配送ミスです。

満タン便という名前は、思った以上に早く広がった。


水車町では、朝になると広場の木箱の前に人が集まるようになった。


木箱の上には帳面。


その横には、ロウグが用意した木札。


荷物を預ける者は、送り先を書いた木札を荷に結ぶ。


文字が書けない者は、受付にいる水車町の若者が代筆する。


誠司は最初、その仕組みに感心した。


自分一人では到底さばけない。


ロウグは商人らしく、受付の形を整えるのが早かった。


「人は並ぶ場所があると安心します」


ロウグはそう言った。


「そして、安心すると次の依頼を持ってきます」


「つまり忙しくなるってことだろ」


「繁盛です」


「過労とも言う」


そんな会話をしながらも、誠司は悪い気はしていなかった。


荷台には、今日も飲み物が満タン。


その手前には配送荷物。


鍛冶町への寸法木札。


隣村への粉袋。


山の集落への毛布。


最初の村への針と糸。


水車町へ戻す金具。


積む荷物が増えた分、荷台の整理は以前よりずっと重要になった。


ガラン鍛冶長にもらった金属製の荷留め具は役に立った。


ロープだけでは不安だった荷物が、しっかり固定できる。


誠司は荷台の床に、炭で簡単な区画線を引いた。


第一配送路行き。


水車町行き。


鍛冶町行き。


要冷暗所。


壊れ物。


「本当は棚が欲しいな」


「棚なら鍛冶町で作れますよ」


ロウグがすぐに商売の顔になる。


「ただし費用が」


「分かってる。稼いでからだ」


その日、誠司は朝から走った。


まず隣村へ粉袋を届ける。


次に最初の村へ針と糸。


それから山の集落へ毛布。


最後に鍛冶町へ向かう予定だった。


順調だった。


少なくとも、昼までは。


問題が起きたのは、山の集落だった。


少女――最近では受付の手伝いのようなこともしてくれる彼女が、荷台から下ろされた毛布を見て首を傾げた。


誠司もすぐに違和感に気づいた。


毛布の数が一枚足りない。


代わりに、見覚えのない布袋がある。


木札を見る。


山の集落宛ではない。


鍛冶町宛。


中身は赤い実。


「……やった」


誠司の背中に汗が流れた。


荷物違いだ。


山の集落へ届けるはずの毛布一枚が、どこか別の荷物と入れ替わっている。


ロウグが帳面を確認する。


「毛布は三枚。今あるのは二枚。赤い実の袋は鍛冶町行き。おそらく、水車町で積む時に区画を間違えましたね」


「俺のミスだ」


誠司は即答した。


誰のせいにもしない。


荷物を積んだのは自分だ。


確認したのも自分だ。


なら責任は自分にある。


少女は誠司の顔を見て、何か言いかけた。


責める言葉ではなさそうだった。


だが、誠司は首を振った。


「すぐ取ってくる」


地面に絵を描く。


山の集落。


水車町。


戻る。


もう一度届ける。


少女は驚いた顔をした。


ロウグも眉を上げる。


「今から戻ると、鍛冶町への納品が遅れます」


「でも毛布が足りない」


「毛布一枚です」


「荷物一つだ」


誠司は言った。


「一つでも違えば、満タン便は信用されない」


ロウグはしばらく黙ったあと、小さく笑った。


「あなたは商人向きではありませんね」


「だろうな」


「ですが、配送屋向きです」


誠司はトラックへ戻った。


山道を下る。


焦って速度を出したくなるが、それは危険だ。


荷物違いを直すために事故を起こせば、もっと大きな失敗になる。


誠司は深く息を吐き、慎重に走った。


水車町へ戻ると、受付の若者が驚いて駆け寄ってきた。


誠司は帳面を開き、荷物違いを説明する。


受付の荷物置き場を探すと、すぐに原因が分かった。


毛布一枚が、鍛冶町行きの赤い実の袋と同じ木箱に入っていた。


木札の紐が外れ、別の荷に絡まっていたのだ。


「木札の結び方も改善しないとな……」


誠司は毛布を持ち、今度は木札を二重に結んだ。


さらに帳面に大きく書く。


荷札は二か所固定。積込前、積込後、到着時に確認。


元の世界なら当たり前のことだった。


だが、異世界で一から始めると、当たり前も作らなければ存在しない。


山の集落へ戻る頃には、日が傾いていた。


少女は村の入口で待っていた。


誠司が毛布を差し出すと、少女はほっとしたように笑った。


怒っていない。


むしろ、わざわざ戻ったことに驚いている。


集落の老人が誠司の手を取り、何度も頷いた。


ロウグが訳す。


「一枚のために戻る者は少ない、と言っています」


誠司は首を横に振った。


「一枚だから戻るんだ」


ロウグが訳すと、老人は静かに笑った。


その夜、誠司は予定より遅れて鍛冶町に着いた。


ガラン鍛冶長は腕を組んで待っていた。


「遅い」


ロウグが訳すまでもなく、顔で分かる。


誠司は素直に頭を下げた。


荷物違いがあり、戻った。


そのため遅れた。


ロウグが説明すると、ガランはしばらく黙った。


そして、鼻を鳴らした。


「荷物を間違えたのは悪い。だが、戻ったのは良い」


ロウグが笑いながら訳す。


ガランは鍛冶町の職人たちに向かって何かを言った。


すると、職人たちが木材と金具を持ってきた。


「何だ?」


「荷台用の仕切り棚です」


ロウグが言った。


「ガラン殿が、急ぎで作らせたそうです。荷物違いを減らすために」


誠司は驚いた。


ガランはそっぽを向いている。


だが耳が少し赤い。


「代金は?」


「今回の遅延料と相殺だそうです」


「いや、それじゃ高すぎるだろ」


ガランは誠司を睨んだ。


「次から間違えるな。それが代金だ」


ロウグが訳すと、誠司は深く頭を下げた。


その夜、鍛冶町の工房前で、荷台に簡易棚が取り付けられた。


木枠に金具を打ち、揺れに強い仕切りを作る。


上段は軽い荷物。


下段は重い荷物。


壊れ物は布で包み、奥の固定区画へ。


飲料ケースとは別に、配送荷物専用の場所ができた。


荷台が一気に配送業者らしくなる。


誠司はそれを見て、胸の奥が熱くなった。


失敗した。


だが、失敗を仕組みに変えられた。


これは大きい。


翌朝、帳面に新しい項目が浮かんでいた。


満タン便規則一:荷物は二度確認すること。


誠司は思わず笑った。


「お前も見てたのか」


トラックは当然、何も答えない。


だが荷台の棚は、朝日に照らされて頼もしく見えた。


その日から、満タン便の受付には新しい手順が加わった。


預かる時に確認。


積む時に確認。


届ける時に確認。


木札は二か所に固定。


壊れ物には赤い布。


急ぎの荷には黒い紐。


小さなルールが増えるたび、満タン便は強くなる。


誠司はようやく分かり始めていた。


信頼とは、失敗しないことではない。


失敗した時に、逃げずに直すことだ。


そして、同じ失敗を繰り返さない仕組みを作ることだ。


夕方、水車町に戻ると、受付の横に小さな木の看板が立っていた。


そこには、ロウグが頼んだらしい文字が刻まれている。


誠司には読めない。


だが意味は分かった。


満タン便受付所


その下に、小さく絵が彫られていた。


四角い鉄の箱。


丸い車輪。


荷台いっぱいの荷物。


誠司は看板を見て、しばらく黙った。


ただの遭難者だった自分に、看板ができた。


名前ができた。


待つ人ができた。


そして、守るべき信用ができた。


「……ちゃんとやらないとな」


ロウグが隣で笑う。


「ええ、便長」


「それはやめろ」


水車町の広場に笑い声が広がる。


その時、受付の若者が慌てて駆け寄ってきた。


手には一通の木札。


赤い紐が結ばれている。


急ぎの印だ。


ロウグが読んだ瞬間、表情を変えた。


「砦からです」


「砦?」


「街道北の守備砦。飲み水と薬を至急。魔物の群れが出たようです」


誠司は荷台を見た。


満タンの飲み物。


整えられた棚。


新しい規則。


そして、急ぎの依頼。


満タン便の次の仕事は、これまでで一番危険な場所になりそうだった。

第9話では初めての配送ミスを描きました。

信用は「ミスしないこと」ではなく「ミスを直し、仕組みに変えること」。

荷台棚と確認ルールができ、満タン便は一段階成長しました。

次回は北の守備砦への緊急配送です。

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