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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第10話 北の砦へ緊急配送

満タン便に届いた初めての緊急依頼。

届け先は、魔物の群れと戦う北の守備砦。

必要なのは飲み水、薬、そして夜明けまで持ちこたえるための補給だった。

赤い紐の木札は、見ただけで空気を変えた。


ロウグが読み上げる。


「北の守備砦より。魔物の群れ出現。飲み水、薬、包帯、塩、携帯食を至急求む」


水車町の広場が静まり返った。


守備砦。


街道を守るための砦だという。


そこが落ちれば、第一配送路にも水車町にも危険が及ぶ。


誠司はすぐに帳面を開いた。


荷物。


飲料。


薬。


包帯。


携帯食。


積載量。


道順。


「ロウグ、砦までどのくらいだ?」


「馬車なら一日半。あなたの鉄の車なら、道が無事なら半日」


「道が無事なら、か」


「魔物が出ていますからね」


誠司は荷台を開けた。


水は満タン。


スポーツドリンクもある。


缶コーヒーもある。


炭酸飲料もある。


戦う人間に必要なのは、水分、糖分、眠気覚まし。


さらに、水車町の薬師が包帯と薬瓶を持ってきた。


パン屋は硬いパンを袋に詰める。


ロウグは塩と干し肉を出す。


鍛冶町行きだった荷物は一部延期。


急ぎでない配送は明日に回す。


満タン便の規則に、緊急便優先が加わる瞬間だった。


誠司は帳面に書いた。


緊急配送:北の守備砦。村道安全確保に関わるため最優先。


荷台の棚が役に立った。


水とスポーツドリンクはすぐ出せる位置。


薬と包帯は壊れ物区画。


食料は下段。


炭酸は別にまとめる。


「炭酸も持っていくのですか?」


ロウグが尋ねる。


「音で魔物を驚かせられるかもしれない」


「なるほど。飲み物であり、道具でもある」


誠司は頷いた。


だが心の中は穏やかではなかった。


これまで助けたのは村や町だった。


今回は戦場に近い。


人が傷つく場所へ行く。


自分は戦士ではない。


ただの配送屋だ。


それでも、届けなければならない。


満タン便は、必要な場所へ必要な物を届けるためにある。


出発前、受付の若者が看板の横に新しい札を掛けた。


本日、緊急便のため通常配送遅延


ロウグが訳してくれる。


誠司は少し驚いた。


「そんな札まで作ったのか」


「待つ側にも情報が必要です。遅れる理由が分かれば、不満は減ります」


ロウグは商人らしく言った。


誠司は感心した。


配送とは、走ることだけではない。


待っている人に知らせることも仕事だ。


北の道は、これまでの道より荒れていた。


街道とはいえ、砦へ向かう道は石が多く、片側は森、片側は崖。


誠司は慎重に走る。


ロウグは今回は同行しない。


代わりに、砦近くの道を知る若い兵士が助手席に座っていた。


名前はカイル。


水車町で休暇中だったところを、緊急便に同行することになったらしい。


カイルは最初、シートベルトに戸惑っていた。


誠司が装着してやると、緊張した顔で前を向いた。


「道、案内頼む」


カイルは強く頷いた。


言葉は片言だが、右、左、危険、止まれ、進めくらいは通じる。


森に入ると、空気が重くなった。


鳥の声が少ない。


途中、壊れた荷車が道端にあった。


車輪が割れ、積み荷が散らばっている。


血の跡もあった。


カイルが顔を強張らせる。


誠司はアクセルを緩めた。


「止まるか?」


カイルは首を振る。


砦が先。


そういうことだ。


さらに進むと、遠くで角笛が聞こえた。


低く、短い音。


砦からだろう。


カイルが焦った声で前方を指差す。


道の先に、灰色の影がいくつも見えた。


狼に似た魔物。


五匹。


いや、六匹。


道を塞いでいる。


誠司はブレーキを踏んだ。


心臓が強く鳴る。


逃げるか。


突っ切るか。


荷台には水と薬がある。


ここで引き返せば砦に届かない。


誠司は深く息を吸った。


「伏せろ」


カイルに身振りで示す。


そしてクラクションを鳴らした。


バァァァン!


魔物たちが跳ねた。


だが逃げない。


誠司は荷台から炭酸缶を数本取り出していた。


窓を少し開け、一本を強く振って投げる。


缶が魔物の手前で破裂し、泡と音が弾けた。


一匹が飛び退く。


もう一本。


さらにもう一本。


魔物の群れが乱れる。


その隙に、誠司はアクセルを踏んだ。


トラックが唸る。


魔物たちが左右へ散る。


一匹が車体に飛びかかったが、金属の側面に爪を立てるだけで弾かれた。


車体が揺れる。


カイルが叫ぶ。


誠司はハンドルを握りしめ、道を抜けた。


「っ……!」


森を抜けると、砦が見えた。


石造りの小さな砦。


門の前には兵士たち。


柵の外には、さらに多くの魔物の影。


砦は完全には囲まれていないが、危険な状態だった。


誠司はクラクションを鳴らす。


砦の兵士たちが振り向く。


カイルが窓から身を乗り出し、叫ぶ。


門が開いた。


誠司はトラックを砦の中へ滑り込ませる。


門が閉じる。


その瞬間、砦の中から歓声が上がった。


「補給だ!」


言葉は分からなくても、意味は分かった。


荷台を開けると、兵士たちが集まってくる。


誠司は叫んだ。


「水はこっち! 薬は丁寧に! 炭酸は勝手に開けるな!」


カイルが必死に通訳する。


水が配られる。


スポーツドリンクが負傷者と見張りに渡される。


缶コーヒーは夜番の兵士へ。


薬と包帯は治療所へ運ばれる。


冷たい飲み物を口にした兵士たちは、驚く暇もなく飲み干した。


それほど追い詰められていた。


砦の隊長が誠司のもとへ来た。


片目に古い傷がある大柄な男。


隊長は誠司の手を握り、短く礼を言った。


カイルが訳す。


「これで夜まで持つ、と」


誠司は首を振る。


「夜までじゃ駄目だ。朝まで持たせる」


隊長が目を細める。


誠司は荷台に残った炭酸缶を指差した。


「音で追い払えるか試す。あと、ヘッドライトで外を照らす」


カイルが訳すと、兵士たちはざわめいた。


誠司はトラックを砦の内側、門のすぐ横に移動させた。


ヘッドライトを外へ向ける。


夜になれば、強い光は魔物を怯ませるかもしれない。


炭酸缶は、開け方を兵士に教えた。


振る。


投げる。


離れて開ける。


危険だから顔を近づけない。


兵士たちは真剣に頷く。


日が暮れた。


森の中から魔物の声が響く。


砦の上に緊張が走る。


誠司は運転席に座り、エンジンをかけたまま待機した。


燃料は減る。


だが朝には戻る。


今は使う時だ。


魔物が門へ近づいた瞬間、ヘッドライトを点ける。


白い光が闇を切った。


魔物が怯む。


兵士が炭酸缶を投げる。


破裂音。


泡。


叫び。


その隙に矢が飛ぶ。


魔物は何度も迫ったが、砦は持ちこたえた。


夜明け前、群れは森へ退いた。


砦に朝日が差す。


兵士たちは疲れ切っていたが、生きていた。


誠司もハンドルにもたれて目を閉じる。


眠い。


怖かった。


だが、届けた。


朝。


荷台を開けると、飲み物は満タンだった。


砦の兵士たちがそれを見て、ざわめく。


誠司はすぐに荷台を閉めた。


見せすぎるのは危険だ。


隊長が近づき、木札を差し出す。


次の依頼だ。


カイルが読む。


「砦から水車町へ。負傷者搬送一名。急ぎ」


誠司は息を呑んだ。


人を運ぶ。


荷物ではない。


満タン便は、また新しい仕事に踏み込もうとしていた。

第10話では北の守備砦への緊急配送でした。

飲み物、薬、ライト、炭酸、トラックの防御力が活躍しました。

次回は初めての人員搬送。荷物と人では責任の重さが違います。

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