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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第11話 初めての人員搬送

北の砦を救った満タン便。

しかし次の依頼は、荷物ではなく負傷者の搬送だった。

飲み物や荷物と違い、人の命は積み直せない。誠司は新しい責任を背負います。

「負傷者を、水車町へ?」


田村誠司は、カイルの通訳を聞いて息を呑んだ。


砦の隊長は重々しく頷く。


運ぶのは若い兵士だった。


昨夜の戦いで脚を大きく負傷し、砦の治療では限界があるらしい。


水車町には薬師がいる。


そこまで運べれば、助かる可能性が高い。


だが問題は道だった。


森にはまだ魔物が残っているかもしれない。


道は荒れている。


トラックは揺れる。


荷物なら固定すればいい。


だが人間は違う。


誠司は荷台を見た。


飲料ケース。


配送棚。


工具箱。


そして空きスペース。


「荷台に寝かせるしかないか……」


砦の兵士たちと協力し、荷台の一角を空けた。


毛布を重ね、段ボールを敷く。


ロープで体を固定しすぎると危険だ。


だが揺れで転がってもいけない。


誠司は荷留め具を使い、簡易の寝台を作った。


負傷兵は青い顔をしていた。


名前はリオ。


まだ十代後半に見える。


カイルが付き添いとして乗ることになった。


誠司は水とスポーツドリンクを数本、すぐ取れる位置に置く。


薬と包帯も近くへ。


「揺れる。痛むかもしれない。でも、できるだけゆっくり走る」


カイルが訳すと、リオはかすかに頷いた。


砦を出る前、隊長が誠司の肩に手を置いた。


短い言葉。


カイルが訳す。


「頼む、と」


誠司は頷いた。


「届ける」


荷物ではなく、人を。


その重みが、いつもよりハンドルを重く感じさせた。


砦の門が開く。


トラックはゆっくりと走り出した。


行きは急いだ道を、帰りは慎重に進む。


石を避ける。


穴を避ける。


急ブレーキを避ける。


荷台からリオの苦しそうな声が聞こえるたび、誠司の背中に汗がにじむ。


「大丈夫か?」


カイルが荷台との小窓越しに確認する。


リオは弱く返事をした。


森の中ほどで、魔物の唸り声が聞こえた。


誠司は速度を落とさない。


止まれば囲まれる。


だが飛ばせばリオに負担がかかる。


「くそ……」


彼はクラクションを短く鳴らした。


バン!


大きすぎない音。


魔物を牽制する程度。


木々の間で影が動く。


追ってくる。


カイルが青ざめる。


誠司は片手で炭酸缶を取った。


窓を少し開ける。


缶を振る。


進行方向ではなく、後方の道端へ投げる。


缶が破裂し、泡と音が広がった。


魔物の足音が乱れる。


その隙に、トラックは森を抜けた。


水車町が見えた時、誠司はようやく息を吐いた。


町の入口では、薬師と担架を持った人々が待っていた。


ロウグが手配してくれていたのだろう。


リオはすぐに運び出された。


誠司は荷台の床に残った血の跡を見て、しばらく動けなかった。


飲み物のケースなら、朝になれば戻る。


ガソリンも戻る。


でも人の血は戻らない。


命は補充されない。


ロウグが静かに言った。


「間に合いました」


「まだ分からない」


「それでも、ここまで届けた」


誠司は何も言えなかった。


夕方、薬師がやってきた。


リオは助かる可能性が高いという。


その言葉を聞いた瞬間、誠司は荷台の壁にもたれて座り込んだ。


力が抜けた。


翌朝、帳面に新しい規則が浮かんでいた。


満タン便規則二:人を運ぶ時は、速度より揺れを優先すること。


誠司は小さく笑った。


「分かってるよ」


その日、満タン便受付所に新しい木札が掛けられた。


人員搬送は緊急時のみ。付き添い必須。


配送業は、また少し形を変えた。


荷物を運ぶ。


手紙を運ぶ。


薬を運ぶ。


部品を運ぶ。


そして時には、人の明日も運ぶ。


誠司は荷台を洗い、毛布を干した。


リオの血の跡は完全には消えなかった。


それでも、彼はその跡を嫌だとは思わなかった。


それは満タン便が、ただ便利なだけの存在ではなくなった証だった。


昼過ぎ、帳面に新しい依頼が浮かぶ。


水車町より北砦へ。回復薬、包帯、缶コーヒー十本。


誠司は苦笑した。


「缶コーヒー、気に入られたか」


ロウグが笑う。


「夜番の兵士には最高でしょう」


誠司は運転席に乗り込んだ。


怖さは消えない。


だが、走る理由はある。


満タン便は今日も、誰かの必要なものを積んで走る。

第11話では初めて人を運びました。

荷物と違い、人員搬送には命の責任があります。

満タン便は便利屋ではなく、信頼を背負う配送業へ成長していきます。次回は砦との定期補給路づくりです。

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